小説 雨は降り続く #3
5月XX日
ついに雨が降り始めて11ヶ月目。
来月まで降り続ければ、丸一年雨が降り続くことになる。降り始めた日も、ちょうど今日みたいに、空から蜘蛛の糸が垂れているような、細い雨が降り続いていた。
去年の6月の初めの頃、雨季にしては珍しく雨の降らない日が続いた。日照りが続いて、まるで夏の始まりのようなギラつく太陽が毎日照りつけていた。断水しなきゃいけなくなりそうだった。
そんな6月も半ばに入った頃、今日みたいに細い糸のような雨が降り始めた。思えばあの時は、本当にみんなが待っていた、待望の雨だったんだ。すぐ止んじゃうんじゃないかなって心配になるぐらい頼りない雨で、イオ達とも止まないでもっと降って欲しいな、なんて暢気に話してた。だって、その後こんな事になるなんて、その時には誰も考えもしなかったんだ。
その日からしばらくは、この時期らしい天候で、雨が降り続いたり、時折止んだりはしたけど、太陽を見ることはなかった。やっと降った分、今度は降り溜めしてるのかなってみんなで話してた。
二週間が過ぎた頃、降り止まない雨に焦れはじめた。自転車での通学ができなくなったので、みんなバス通学がメインになった。通学仲間の僕たち四人の待ち合わせ場所を、いつものコンビニの前からバス停に変えた。
ただ、バス代がバカにならないので、雨が弱い日は歩いて学校に行くようにもなった。でも、自転車からバス通学に変えたヤツが多くて、バスが定員オーバーになる程だった。それも歩いて通学するようになった理由だったりするんだけど。
部活も随分様変わりしてしまった。イオは野球部だから、部活ができないって嘆いてた。マキとクラーもサッカー部だから、みんなで僕のことを羨ましい、なんて言ってたっけ。
そうして一ヶ月が過ぎても、太陽が顔を出すことは無かった。その時初めて知ったんだ、人は太陽の光を浴びないと、どこかおかしくなってしまうらしい。テレビでは毎日のように異常気象の原因やら注意事項やらを、したり顔の有識者とやらが喋っていたけど、だんだんとお天気じゃなくて、殺人事件とか傷害事件の話が多くなっていった。テレビで取り上げているだけじゃなくて、実際に事件が増えていったんだ。
僕が覚えているだけでも、7月だけで3件の通り魔事件があったっけ。どの事件も犯人の動機がよく分からなかった割には、やたらエゲツない殺し方をする事件だったっけ。この話はあまり思い出したくないな。
それにクルマで移動する人が増えたこともあって、交通事故も増えたらしい。事故だけじゃなくて、あおり運転とかのトラブルもいっぱい起きたんだ。
どんよりしたお天気のせいで、みんな少しずつ狂い始めていることに、気がつかなかったんだ。今思えばね。
そうして、雨は今も降り続いている。
みんな鬱屈した気持ちをあちこちにぶつけて、それでも何も変わらなくて、どんどん街が壊れていって、自分の力じゃ何にもできないことを思い知ったんだと思う。そのうちつまらない争い事は少なくなっていった。
今日も雨は止まないだろう。でも、僕らの暮らしは続いていくんだ。
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