一粒で4度美味しいシャドーイングの極意:最短最速で効果を上げる方法
「最初はついていくのが難しかったが、だんだんと自分の発音がネイティブっぽくなってきてスラスラと英語を発話できることが実感できて嬉しかった」
「単語も文章の意味も自然と理解できるようになってこれが英語脳というものかと思った」
これらは、筆者のクラスでシャドーイングトレーニングを受けた受講生達の感想です。
シャドーイングとは、音声の一秒位あとから発音、高低、強弱を真似しながら影のようについて発話するトレーニングです(音読やリピーティングとは違います)。
シャドーイングトレーニングの効用として:
①リスニング力を上げる
②発話速度が速くなる
③相手が理解しやすい発音になる
④語彙力が上がる
ということが近年の第2言語習得理論研究でも示されています¹⁻³。一粒で4度美味しい、まさに時間のない人にはうってつけの英語習得法だと言えるでしょう。
しかし、ただやみくもに音源について発話していくだけでは効果が出る前に疲れて途中で挫折してしまいます。この記事では、「挫折せず最短最速で効果を出す為のポイントと具体的な手順」をお話しします。
効率的に効果を上げる為の7つのポイント
シャドーイングを始めるにあたり、以下の7つのポイントを守ってください。
1.現在レベルマイナス1程度の音声教材を使用する
スクリプトを初見で7割程わかるレベルで、できればご自分の興味のあるトピックを扱っている音声教材を選ぶことをお勧めします。
音を聞きながら同じように発話していくという作業自体がかなり体力と集中力が必要となるので、少し易しい位の英文でないとなかなか着いていけず挫折しがちです。少し易しいかなと思うレベルの内容で結構です。
できれば、興味のあるトピックを選ぶと良いでしょう。モティベーションが維持しやすいです。シャドーイングは語彙の長期記憶効果もありますので、あなたが英語で話したいトピックのキーワードも同時に身に着けることができます。
2.意味を理解した上で行う
必ず単語や文章の意味理解ができた上で行ってください。
意味もわからずにシャドーイングをしても、発音が良くなったり、発話スピードはあがるかもしれませんが、「英語を自動的にイメージできる」ことはできないからです。それでは、単なるオウム返しです。
意味が理解できた上でシャドーイングをすると、イメージしやすく、新しい語彙の意味も、発音も、使い方も”同時に身について”しまいます。
3.自分の声は聞かない
最初のうちは自分の発声する間違った音を耳に入れないようにして下さい。
そうでないと、耳から入ってくる自分の間違った音が邪魔をしてあなたの脳の音の格納庫の入れ替えが遅れてしまいます。
筆者のクラスで、「シャドーイング経験がある」と手を挙げる学生さんに「どういう風にやりましたか?」と聞くと、「先生が音声をスピーカーで流し、一斉にクラス中でその音について発話していった」とおっしゃいます。それだと、周りの人の発話音声も耳に入ってきてそれはもう脳の中はカオス状態でしょう。筆者のクラスではお手本の音声だけが聞こえるようにヘッドセットを着用して行っています。
インプット音声に集中し、ヘッドセットやイヤホンをしっかり耳に当て、可能な限り正しい音だけを耳に入れるようにしてください。
4.リピーティングはNG
シャドーイングを繰り返すと発話速度が速くなっていくが、リピーティングでは遅くなるという研究結果³があります。
リピーティングは一度聞いた音を止めて同じ文を思い出しながら脳の語彙、文法、意味、文脈処理を脳の中で行い、自分で文を作っていく作業です。文を自分の頭で構築するという力を養うのには適していますが、発話速度を上げるという目的には、シャドーイングの方が適しています。
実際に筆者のクラスでもリピーティングをしてからシャドーイングをしようとした受講生は、考えながら同じ文章を作ることはできるようになるのですが、発話速度を上げることには程遠く、その間に最初からシャドーイングをしている受講生達とあっという間に差が開いてしまいました。もちろんリピーティングにも意義はありますが、筆者のクラスでは「限られた時間でネイティブの話す音声の知覚ができ発話の瞬発力を上げる」ことを目的の一つとしていますのでクラス内でのリピーティングはNGにしています。
5.間違ったり飛ばしても気にせず継続
間違っても飛ばしても構いません。それより途中で辞めないことの方が重要です。
どんな英語上級者でも最初のうちは間違ったり飛ばしてしまいます。気にせず、すぐに立て直して聞こえてきた音から発話し続けてください。繰り返し行っているといつのまにか、飛ばしていた部分も発話できるようになり、気が付いたらブランクが埋まっています。
筆者のクラスの会話初級レベルの受講生も最初は3-5割位しかできませんが次第に8割以上できるようになっていきます。あなたにも必ずできます。気楽に続けていきましょう。
6.文のリズム、強弱、高低を真似る
リズム、強弱、高低を入れると英語らしい発話になり、聞き手にも理解されやすくなります。
英語はリズム、強弱、高低が日本語よりもはるかにありますよね。英語をスラスラ読めても、平坦でお経のように読んでいる方がいらっしゃいます。とてももったいないですね。日本語では英語ほどこれらの要素をいれて話しませんので、最初は慣れないと思いますが、自分でも大げさかなと思うぐらい意識して入れてみると英語らしい発話になるでしょう。
7.録音し進捗状況をチェックする
シャドーイングしているご自分の音声を録音して聞いてみてください。
発話訓練は一人で行っていると客観的に自分の良いところ、改善点をみつけることが難しいものです。録音して聞いてみると客観的に自分の現在の学習進捗状況を確認できます。自分が思っている以上に英語っぽく話していることで自信がついたり、思っているよりもうまく発話できていない部分を見つけられ、改善箇所を客観的に見極められます。
最初は自分の録音した声を聞くのは恥ずかしい、がっかりしたくないと思うかもしれませんが、慣れます。むしろ、改善点をみつけられるので、次にどこを集中的に練習すればいいのかがわかり、時間を無駄にすることなく前に進めます。
筆者のクラスの受講生達も最初は「え~恥ずかしい。下手だから聞きたくない。」と言っているのですが、やり始めると頻繁に録音して聞きたがります。しかし、ある程度練習してからでないと成果が確認できないので「毎回録音は時間の無駄、禁止。」と言っているぐらいです。以下の手順では録音のタイミングもお話ししますね。
挫折しないシャドーイングの手順
いきなり音を聞いて何も見ずに真似て発話している方がいらっしゃいますが、それでは初心者は効果も感じられず、簡単に挫折するでしょう。筆者のクラスでは「一人も挫折せず、着実に効果をあげる」をモットーに以下の手順を踏んで進めていきます。
1.First listening
まず最初に、トランスクリプトを見ずに音声を聞き、話している内容、話し方の特徴をおおざっぱにつかみます。そこから聞き取れたこと(内容、単語、状況)を全て書き出します。
意味確認の際に、書き出すことで「思っていたこととなんとなくあってる」ではなく、きちんと何が聞き取れていて、何か聞き取れていなかったかを客観的に確認できます。一回でも大丈夫ですが、全く聞き取れなかった場合は2-3回行ってください。それ以上は時間がもったいないのでやらなくて良いです。次に進みましょう。
2.意味確認
トランスクリプトをみて内容を確認してください。自分が聞き取れたことと比較して何割位聞き取れたか確認してください。
これが今のあなたのリスニング力です。
一語一句聞き取る必要はありません。「ディクテーション」といって一語一句聞いて書きとるというリスニング用のトレーニングがありますが、それは別途やってください。今はシャドーイングに進みましょう。
3.Mumbling(マンブリング)
Mumbleというのはぶつぶつ話すという意味です。シャドーイングに入る前にトランスクリプトを見ながらぶつぶつ口の中でつぶやいてください。
大きい声で話す必要はありません。ここで知らない単語、発音が良くわからない単語があったら辞書を使って調べてください。見ながら読んで、引っかからない程度までになったら準備完了です。
4.見ないでシャドーイング一発録音
聞こえてくる音の再生にのみ集中し、意味は考えなくてよいです。一発録音してください。
これがあなたの初期値「Before」になります。
録音したらトランスクリプトを見ながら聞いてみてください。どのぐらい発話できましたか?5割できていたら十分です。筆者のクラスでは初級者は3割から5割が一番多いです。では次に本格的にトレーニングです。
5.見ながらシャドーイング
トランスクリプトを見ながらシャドーイングを10回してください。
ストレス(アクセント)、リズム、高低、強弱、速さ、ポーズ全て真似してください。
10回やったら見ながら録音してみてください。かなりいい感じになっているはずです。頭の中で話している内容がイメージできていると思います。10回で未だそのレベルに達していないと思う方は、あと5回やってみましょう。
シャドーイングトレーニングの半分が終わりました。次から仕上げです。
6.見ないでシャドーイング
見ないでシャドーイングを10回してください。
3-4回ごとに録音し進捗状況を確認し、うまく発話できていないところを改善してください。
見てシャドーイングをしていた時より出来具合が一時的に落ちます。視覚から入ってくる情報が無くなり聴覚からのみとなりますので当然ですよね。しかし心配無用です。続けているうちに見ながらやっていた時のレベルに追いつき、最終的にはそれを超えて更に素敵になっていきます。その時あなたは、音を聞いた瞬間に自然とイメージができそれがスラスラと英語で口にでてくるはずです。日本語を一切介さない英語脳状態を体験するでしょう。「自分は英語がペラペラになったらこんな感じなんだ」と近い将来の自分を想像でき、更にモティベーションも上がるでしょう。
7.見ないでシャドーイング録音
最後に見ないでシャドーイングを3回録音して下さい。
そのうちのベストテイクが、あなたの最終値”after”です。
「4.見ないで1発録音」のbeforeと比較してみてください。英語の発話が上達していることを実感するでしょう。
これだけのルーティーンを行うのは、一人だとちょっと大変かもしれませんが、全部一気にやる必要はありません。上記手順1~3までの準備運動で一日、4&5で一日、6&7で一日と3日にわけて一つの教材を終わらせても良いです。または、毎日10分位継続して行っても構いません。
筆者のクラスでは、一つの教材を終わらせるのに3回位かけています。途中、発音等のレクチャーや、受講生に対する個別アドバイスをしている為、その分、時間がかかります。一人で行う場合はもっと進み具合が速くなるでしょう。
受講生の多くは、一週間に一回クラスでシャドーイングに取り組んでいますが、自習をしなくても、翌週また始めるとすぐにもとにもどると言っていました。滞在学習による長期記憶によるものでしょう。こうして発音やリスニング力が少しずつ上達し、最終的に長期記憶のもと自分のものになっていくのでしょう。皆さんもなんちゃってシャドーイングではなく、毎回上達を実感できる方法でシャドーイングを行ってくださいね。
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(参考文献)
¹ Hamada, Y (2019) Shadowing:: What is It? How to Use It. Where Will It Go? . RELC Journal, Vol. 50(3) 386–393.
² 三宅滋(2009)日本人英語学習者の復唱における再生率と発話速度の変化の考察、『ことばの科学研究』10:51-69.ことばの科学学会
³ 門田修平(2018) 『外国語を話せるようになるしくみ―シャドーイングが言語習得を促進するメカニズム―』東京:SBクリエイティブ
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