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あなたが英語を聞き取れない理由:リスニング力アップに効果的&効率的な方法とは?

ビジネス、学会発表またはシンポジウムの英語プレゼンテーション。プレゼン自体は事前準備が完璧でスラスラ、質疑応答になると何を質問されているのかわからずしどろもどろ。

そんな残念な場面を見かけたことはありませんか?特に初めての英語プレゼンでは多くの皆さんが多かれ少なかれそういう経験をしているのではないでしょうか?

プレゼンテーションやスピーチのように「自分が準備してきたものを話すだけ」ならばリスニング力は不要かもしれません。しかし、相手からの質問に的確に答えるためには、リスニング力は必須ですよね。

日常会話でも相手が何をいっているのか聞き取れなければ会話がつづきません。 リスニングができて初めて「会話」が成り立つのですから。

リスニングが苦手なあなた。なぜ、あなたは聞き取れないのでしょうか?あなたが英語を聞きとれない理由と対処法についてお話していきます。

なぜ聞き取れないのか?

リスニングが苦手という方に、その理由をきいてみますと、だいたい次のような答えが返ってきます。

  • 「音が繋がって聞こえて単語一つ一つが聞き取れないから」

  • 「ネイティブの話すスピードが速すぎてついていけないから」

  • 「単語は知っているけれど発音が思っていたのと違ってきこえるから」

  • 「単語がわからないから」

「音が繋がって聞こえるから」

発話速度が速いというのもありますが、英語の音はしばしば「連結」します。「消音」、「変化」、「脱落」という現象も起こります。必ずしも単語一つずつ発話しているわけではないのです。これらにはある一定の規則がありますがその規則性を知らずに聞いているとこうした現象が起こった時に全く何を言っているのか分からなくなってしまいます。こうした現象を「リンキング」または「リエゾン」と一般的に呼びます。この規則性を理解し、かつ自分がそのように発話できるようになることで「音が繋がって聞こえる」ことへ対処できるようになります。リンキングについては別途記事でご説明しますね。

「スピードが早すぎてついていけないから」

あなたが中学高校で使用してきた英語音声教材は英語を第二言語とする初級者向け教材です(上級クラスで使用する教材は別)。これらの教材はネイティブが普通に話すスピードよりもかなりゆっくりです。そして音声がとても綺麗です。日本で英語を教えているネイティブの講師は、とてもゆっくり話してくれています。ところが、彼らが母国に帰った時や英語ネイティブ同士で話している時はその何倍も速いです。外で話していれば雑音も聞こえますし、必ずしもナレーターのような美しい話し方をする人ばかりではありません。とても美しい音声で、実際のスピードよりもかなり遅い英語教材でずっと学習していたら、リアルでネイティブスピードに歯が立たないのは当然ですよね。できるだけネイティブスピードに近い教材を使用することでスピードにも慣れていくことができます。

「単語は知っているが発音が思っていたのと違って聞こえるから」

正しい音がご自分の脳の引き出しに入っていないと起こる現象です。人の脳は入ってきた音と自分の脳の中の引き出しにある音とを比較照合して知覚します。発話せずに視覚だけで単語を覚えてきた人は、正しい音が脳の引き出しに入っていないことが多い為、入ってきた音と一致せず知覚できないのです。単語はできるだけ正しい音で発話しながら覚えるとあなたの脳の引き出しに正しい音が格納され、入ってきた音と一致し知覚するようになります。

「単語を知らないから」

コミュニケーションに必要な基本的な単語の意味を知らなければ音の知覚はできても意味を理解することは難しいですよね。語彙不足を原因とお考えの方、日常会話であれば別記事でご紹介したNGSLの単語リスト2800語を発話しながら正しい発音と意味を合わせて覚えてしまいましょう。

人はどのように音声を理解するのか?

そもそも「リスニング」とはどういうことでしょうか?多くの方が「音声が聞き取れること」と答えます。 しかし、音が聞き取れるだけでは不十分です。話されている「意味も理解」できて初めて「リスニング」ができるということになります。

リスニングという作業はあなたの脳内で大きく二つのメカニズムから成り立っています。「音声知覚」と「意味理解」です。

音声知覚」とは「心の中つまり脳内の言語処理システムに聞こえた音声をインプットする段階」¹です。そこでは、発音形式に変換などにして聞こえた音声を処理しています。

しかし、この段階では「意味」を理解したとはいえません。

「意味理解」が必要となります。「聞こえてきた英文の意味を総合的に理解する段階」です。

この「意味理解」プロセスは大きく分けて5つほどあり¹、これらの処理があなたの頭の中で同時進行で一瞬のうちに行われているのです。

1.語彙処理
記憶の語彙にアクセスし発音・意味・文法などの語彙情報を検索します。

2.文法処理
S V Oなどの文構造を確定したり、関係詞節や副詞節などを特定します。

3.意味処理
sleep furiously(怒り狂いながら寝る)等意味的にあり得るか文の意味の整合性や矛盾を判断します。

4.文脈処理
前後の文章意味内容と照らし合わせて矛盾がないか、意味範囲を限定します。

5.スキーマ処理
すでに持っている一般常識や特定知識データベースを用いて内容を推測します。

このように「知覚した音」の「意味を理解」して初めて「リスニングができる」という状態になります。

あなたも、トランスクリプト(音声を文字起こししたもの)を見たらすぐに分かった、なーんだこんなことか、と思った経験はありませんか?

それは「意味理解」の能力はあるが、「音声知覚」ができていないから起こる現象です。

折角、中学高校、または大学まで英語を勉強し、語彙、文法を習得し、スキーム処理を司る様々な経験値も重ねてきて「意味理解」はできるのに、最初の「音声知覚」でつまずいてしまっている為に、リスニングまでたどり着かないという結果になってしまっています。とてももったいないですよね。

そういうあなたがリスニング力を上げるために最優先でやるべきことは「音声知覚を敏速化」させることです。そうすれば今よりも何倍も英語が聞き取れるようになります。では、どうすれば最短最速で効率よくあなたの「音声知覚を敏速化」しリスニング力をアップさせられるのでしょうか。

リスニング力がアップする効率的なトレーニング方法とは?

「シャドーイング(Shadowing)」という言葉をきいたことはありますか?
英語の意味のとおり、「影のようについていく」「尾行していく」ということです。聞こえてくる英語の音声(お手本)に1秒程の間を開けて、同じように発話しながらついていくトレーニング方法です。

よく勘違いされますが、中学時代にやった“Repeat after me!”のリピーティングでもなければ、音声と同時に発話するパラレリングでも、日本語を英語にして発話する瞬間英作文でも、見ながら発話する音読でもありません。

シャドーイングトレーニングは、従来は同時通訳養成クラスでよく使われてきたものですが、近年、第二言語習得(どのようにして人は外国語を習得していくのか)という学問分野で、教育現場での実証研究および脳科学という側面からの理論研究も日進月歩で進み、その効果が科学的に立証されてきています。その一つに、シャドーイングは、「リスニング力アップに効果がある」とされています。

なぜシャドーイングでリスニング力が効率的に伸びるのか?

音声学に「音声知覚の運動理論」²という学説があります。「音声の知覚は単に耳で聞きとるだけでなく、同時に自らも発音(調音)することで達成される」という説です。どういうことかといいますと、インプットされた音声と並行して同じ音声を発音し、その音声とインプット音声を比較照合する事で音を知覚するということです。自分が正確に発音できていな音はインプット音声と合致しませんので正確に知覚できないということになります。逆をいえば、自分が正確に発音できれば、正確に知覚できるということになります。

シャドーイングはインプットされたお手本の音声を発音、スピード、強弱、高低も含め瞬時に真似をし発話することを繰り返します。最終的に頭の中で内容をイメージできるぐらいまでもっていくのですが、そのころには、発音も発話スピードもお手本に近くなっていき、音が頭の中に長期記憶として格納されます。正しい音が記憶されることによって、新しく音声情報が入ってきた時に、すぐに耳から入ってきた音声と記憶の引き出しにある音がマッチングします。すなわち音声を敏速に知覚できるようになります。

筆者のリスニングクラスでは一人一人ヘッドセットをしてシャドーイングトレーニングを行っています。皆さん、最初は「無理~ついていけない~」と悲鳴を上げているのですが、インカムで発話方法を個別アドバイスしつつ練習を繰り返すと、自分の英語の発話がどんどん良くなっていくので、皆さん集中して自発的に練習しはじめます。事前事後のリスニングテストで多くの学生のスコアがアップしています。受講生にアンケートをとると、シャドーイングでリスニング力が上がったと実感した学生が9割という結果が出ています。毎回、クラスの後には、スポーツ後のような爽やかな(?)疲労感を感じているようですけどね。

効率的にリスニング力をアップさせたいのならば、シャドーイングトレーニングをお勧めします。挫折しないシャドーイングトレーニングの効率的な手順については以下の記事でご説明しますね。

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(参考文献)
¹ 門田修平(2019)『外国語をはなせるようになるしくみ―シャドーイングが言語習得を促進するメカニズムー』東京:SB Creative
² Liberman, A, M., and Mattingly, I.G. (1989) A specialization for speech  perception. Science 243: 489-494


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