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あなたが英語を話せない理由①「語彙力がないから話せない」は本当?

私達日本人の多くが日本の中学校と高校で6年間、英語を学習してきています。さらに大学の1-2年生で必修科目として学習し続けた人は8年以上の長きにわたって英語を学習しています。そんなに長く学校で学習してきても「話せないのはなぜ」でしょうか?

① 知っている「単語」が少なすぎるから
→単語が出てこなくて詰まってしまう

②  正しい英文を作るための「文法力」が不足しているから
→文章を作るのに時間がかかる・支離滅裂な片言英語になってしまっている

③  うまく「発音」できないから
→聞き返される、理解してもらえない

④  そもそも相手の質問が「聞き取れない」ので何を言っていいのかわからない(リスニングができない)

⑤  英語を常に使う環境で生活していないから
→見聞きする量が少ない、生活に必須でないので英語習得のモティベーションが上がらない

 私の受講生がおっしゃる「話せない理由」の代表例です。あなたも同じようなことを思っていませんか?

まず最初に本当にこれらの理由が英語が話せないことに関係しているのか考えていきましょう。そして、もし関係性があるのならば、「どうすれば効率的に克服できるのか」お話していきます。

今回は「語彙力不足」で話せないは本当かについてお話ししていきます。 

言いたいことはあるのだけれど、単語がでてこなくて詰まってしまい全く言えなかったという経験は多かれ少なかれ一度はあるのではないでしょうか。特に詰まってしまった単語が話したいことのキーワードであった場合、聞き手があなたの言いたいことを推測するのが難しいでしょう。「自分の語彙力不足でいいたいことがいえなかった!」との悔しい思いから一生懸命単語を暗記しはじめた方もいらっしゃるでしょう。確かに、どの言語であれ、単語を知らなければ聞けないし話せませんよね。

あなたは何単語知っていますか?

私達が日本の中学校で学んだ必須単語数は約900~1200語[1]、高校では約1400~1900語[2]、合計で約2300~3100語です。これらの英単語は「初歩的な英語を聞いて話し手の意向などを理解できるようにする」「初歩的な英語を用いて自分の考えなどを話すことができるようにする」ことを目的に文部科学省で選定された英単語です。もし、単語を知ってさえいれば話せるのならば、これらの単語を学んだ私達は、少なくとも、初歩的な英語を用いて自分の考え等を話すことができているはずですよね。 

さて、現在のあなたはどのぐらい単語を知っていますか?ご自身の現在の単語力はどのぐらいなのかちょっと確認してみましょう。以下のサイトは、おおよそどのぐらい単語を知っているかを計測できるというものです。提示された単語の意味を一つでも知っていたらチェックしていくだけのとても簡単なテストです。あまり深く考えこまずチェックしていってください。では5分でどうぞ。

【Test your English vocabulary】
https://preply.com/en/learn/english/test-your-vocab

どのぐらい単語を知っていると出ましたか?あなたの知っている単語数は、会話するためには十分なのか、少ないのか?日常会話を滞りなく行うためには一体どのぐらいの単語を習得している必要があるのかについてお話します。

日常会話に必要な単語数は?

英語ネイティブはどのぐらいの単語を知っているのでしょうか?このトピックについては100年以上にもわたって研究が行われてきており、様々な研究結果が出ています。それらの研究結果、大学レベルの教育を受けた英語ネイティブで約20000語前後と言われています[3]。これだけの語彙を知っている日本人は、英語上級者レベルかそれ以上の方でしょう。人並みに話をするにはこんなに沢山の単語を覚えないといけないと思うとくじけてしまいますよね。しかし意気消沈することはありません。

 英語ネイティブスピーカーが「一般的な会話で使用している語彙」、「ラジオ及びテレビ等で話している語彙」、「新聞雑誌等で使っている語彙」の約92%は約2800語の最頻出単語でカバーされており、その約2800語のうちわずか約700語が一般的な会話の90%をカバーしているという研究結果があります[4]。 

表1はその721語のリストです。ちょっと目を通してみてください。3分でどうぞ。

表1. 日常会話カバー率90%最頻出単語721(アルファベット順)

(出典:New General Service List-Spoken 1.2 (NGSL-S) URL: https://www.newgeneralservicelist.com/ngsl-spokenより筆者作成)

あなたが見たことも聞いたこともない単語はいくつありましたか? ほとんどが、あなたが中学・高校で習った単語ではないでしょうか。たとえ完璧に覚えていなくても、うっすらなんとなく見覚えある単語も多いのではないでしょうか。

 もちろん、語彙力はあればあるほど良いです。しかし、もともと語彙力が少ない初級者の方が、最初から20000語を目指すと、かなりの時間と労力がかかり、途中で挫折してしまうでしょう。そんなにたくさんの語彙を習得する時間があるのなら、まずは先ほど紹介した最頻出語彙721語を完全に習得し残りの13000語に費やす時間と労力を文法や発音の強化に充てる方が、早く英語でコミュニケーションをとれるようになると思いませんか?

習得するといっても、皆さんが会話をするために必要な単語は、単なる知識としての単語ではなく、「アクティブ化している=瞬時に発話できる」単語です。会話を上達させたいのであれば、まず最頻出単語を「アクティブ化」させてしまうことです。アクティブ化した単語をどれだけ持っているかが話せる為の鍵となります。

英会話で使うための効率的な単語習得方法とお勧め教材は?

単語を効率的にアクティブ化するには、正しい音を聞き発話して覚えることをお勧めします。
 
多くの人は、中学高校で、単語を見たり書いたりして暗記しています。「正しい音を聞き発話」して覚えた人は少ないのではないでしょうか。それもそうですよね、聞いて発話して覚えるなんて、時間がかかって面倒くさそうです。電車の中では恥ずかしくてできません。ましてや、受験の英語読解用に発音なんて必要ありませんしね。前述したように、スピーキングとリスニングでは単に単語を沢山「知っているだけ」では使えません。

人は、聴こえた音を脳内の引き出しの音と一致させて初めて知覚します。正しく発話して身に着けた単語は、聴覚から入った音と脳の引き出しにある音が一致しやすいのです。皆さんの脳の引き出しに「意味」だけではなく、正しい「音」とその「発話方法」がインプットされていて初めてその単語をSpeaking&Listeningで「使える」状態になります。

具体的な方法としてはフラッシュカード形式と興味ある記事や動画を使用することをお勧めします。

フラッシュカードを使って身に着ける

フラッシュカード形式は多くの皆さんが一度は経験したことのある方法です。アクティブ化しているということは、

①条件反射的に単語の意味をイメージできる
②瞬時に発話できることです。

フラッシュカード形式はこの二つを同時に達成できます。めくれる小さなカードでも良いですし、ノートでも構いません。カードの表または、ノート左半分に意味、カード裏またはノート右半分に英単語を書きます。発音がわからなければ、発音記号も記載しておくとよいでしょう。音声をきけるネット辞書を使うのも手です。 意味を見たら0.8秒以内で「英単語」を発話してください。よく受験勉強の時のように英語をみて日本語を発話している方がいますが、今、あなたに必要なのは日本語を発話することではなく、英語を発話することです。ですから、意味をみて英語が瞬発的に口からでてくる訓練をしましょう。

意味は日本語でかいても、英英辞典をつかって英語でかいてもかまいません。私達日本人は日本語をみれば簡単にイメージができますので、英語が苦手という方は、最初のうちは日本語で書くのがよいでしょう。最終的には、日本語を一切介さず、イメージから英語が発話されるという状態にすることがspeakingでは必要となりますので、意味も英語で記載し、英語で意味を読んだ後に1秒以内で英単語が出てくれば理想的です。 

興味ある記事や動画の中で身に着ける

フラッシュカード形式で単語を覚えていると途中で飽きてしまったり、無味乾燥だなと感じたり、記憶の定着が悪く感じることもあるでしょう。そんな時は自分が興味のある文章や動画を使うことをお勧めします。

人の脳は、複数の記憶と関連付けて記憶(知識・概念)が形成されていきます。例えば、「猫のように四本足で動く生き物は哺乳類」、「赤ちゃんを出産するのも哺乳類」といった記憶が関連づけられて、「哺乳類とはこういったもの」という記憶(知識・概念)が形成されていきます。

それと同じように、記事の内容が興味深ければその内容自体を記憶していたり、動画であればある映像が目に焼き付くでしょう。こうした記憶とともに関連付けて単語も記憶されやすくなります。

もし、あなたが自然科学の話ができるようになりたいのであれば、自然科学系のトピックを扱っている記事を読んだり、動画を視聴し、その中で気になった単語、自分が良く使いそうと思う単語を優先的に覚えていきます。

単語学習用のお勧め無料サイトをいくつかご紹介しますね。

単語学習用のお勧め無料サイト
・Voice of America (VOA)  Lessons of the day

様々なジャンルの記事がほぼ毎日追加されており、最新の時事ニュースも読めます。音声付の記事もあります。https://learningenglish.voanews.com/z/952
 
・DMM英会話
「教材」の「Daily News」で、様々なジャンルの記事が読めます。比較的平易で短い文が多く初心者には向いているでしょう。キーワードとなる単語やイディオムの英英辞典&発音音声付。
https://eikaiwa.dmm.com/app/daily-news

TED Talks
動画でプレゼンテーションやアニメーション等が楽しめます。「Read transcript」でプレゼンの書き出しを読むことができます。https://www.ted.com/talks


 

目的にあった単語リストを使用する

自分の興味ある記事や動画を使った単語学習方法ではなく、従来型の最頻出単語リストを使って覚えてしまいたいという方の為に、ご自分にあった教材選択のヒントを二つあげておきます。

まず一つ目は、あなたの英語習得の「目的にあった教材」を選んでください。当たり前のようですが、意外とご自分の目的が曖昧な方が多いです。一口に英語上達の目的といっても、日常会話、学術英語、プレゼンテーション、ビジネス英語、TOEICやTOEFLスコアアップ、 医療英語、旅行英語、接客英語等、人によって習得したい英語の分野は違います。目的及び分野が違えば、最頻出単語も変わってきます。

二つ目は、ご自分が選んだ教材に記載されている語彙が「どのような基準で選ばれているのか」を確認することです。テキストの帯や本書の目的といったテキスト紹介ページに書いてあるはずです。作成者の経験や勘といった限定的なものよりも、データベース等を用いて客観的に抽出されたものをお勧めします。例えば、英語「コーパス」を用いて抽出された最頻出語彙です。

「コーパス」というのは、新聞、雑誌、書籍、テレビ、ラジオ、日常会話等で実際に使用されている言葉を集めた膨大なデータベースです。英語のコーパスには、イギリス英語、アメリカ英語、TV、映画、英語試験に特化したもの等、様々な種類のコーパスがあります。代表的な英語コーパスの一つとして、「Cambridge English Corpus」 (ケンブリッジ英語コーパス:以下CEC)があります。CECにはイギリスおよびアメリカ英語の話し言葉、小説、雑誌、新聞、学術誌、テレビ、ラジオ等で使用されている約20億語が収録されています。

こうしたデータベースの中から、目的別の最頻出単語を抽出し教材として使用している教材は安心して使えるでしょう。

 日常会話、ビジネス英語、学術英語、TOEICを目的とした方には以下の単語リストをお勧めします。

お勧め単語リスト

New General Service List Project (NGSL)
https://www.newgeneralservicelist.com/

言語学者Charlie Browne, Brent Culligan Joseph Phillipsが先ほど紹介した英語コーパス「CEC」の20億語の中から、一般的な会話や読んだり聞いたりする語彙の約92%以上をカバーする約2800語を抽出しました。発表された当時これまでのコーパス由来の一般英語の最頻出語彙リストの中では最高のカバー率でした。この2800語は一般的な会話や見聞きするのに必須な基本語彙となります。2800語のうち700語は会話に必須の単語です。話せるようになりたいという人はまずはこの700語を最優先でアクティブ化してください。

ビジネス英語を目指す人は、基本2800語+ビジネス英語必須単語約1700語=合計5500語を習得してください。学術英語を習得したい方は基本2800語+学術英語必須英語約960語=合計約3760語、TOEICスコアアップを目指す方は必須2800語+TOEIC必須1200語=合計約4000語をまずは習得しましょう。

図1.目的別必須単語数(約90%カバーする単語数)

(出典:New General Service List Project URL: http://www.newgeneralservicelist.org/)

このサイトではフラッシュカードをPCサイトとスマホアプリ両方で提供しています。フラッシュカード、アプリ、Quizすべて無料で公開されています。是非利用してみてください。

語彙力不足で英語が話せないと嘆いている皆さん、本当にあなたは語彙力不足ですか?

単語は知っているのに使えていないだけ、アクティブ化していないだけではないですか?

英語を話せるようになりたい方は、発話しながら覚えアクティブ化した単語を増やしてください。


参考文献
[1] 中学校学習指導要領 1982年~2021年施行
[2] 高等学校学習指導要領1981年~2020年施行
[3] Nation, P., & Waring, R. (1997). Vocabulary size, text coverage and word lists. In N. Schmitt & M. McCarthy (Eds.), Vocabulary: Description, Acquisition and Pedagogy (pp. 7-8). Cambridge: Cambridge University Press.
[4] New General Service List Project URL: http://www.newgeneralservicelist.org/

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