D型のスーパー (01/03)
・墓参りに行ってきた。運転は父親なので、私は助手席に座っているだけ。気楽なものだ。
・三が日ということもあり、普段よりずっと人が多かった。正月のために帰省してきたのだろう、特に親戚一同で墓参りにやってきましたといった集団ばかりだ。嫁姑らしき二人が空虚な世間話をしていたり、無理やり連れてこられた子どもたちが退屈そうにしていたりするのを尻目に、一家の墓へと向かう。
・敷地内にある水道から水を汲むという作業を仰せつかった。洗面台でよく見るような、蛇口の先に細い管がL字に曲がってついている形ではなく、大理石を四角く切り取って古代ローマの水路みたいな形にしたものになっていたのだが、つまみを勢いよく回したらものすごい水圧で水の塊が大量に噴出してきてえらいことになった。ちょっとしか濡れなかったから今回のところはこれで勘弁してやる。
・帰りがけにスーパーで買い物を済ませた。墓参りのときにしか寄らないせいで年に数回行くか行かないか、という感じのスーパーだ。今回もそうだけど、知らない土地にドライブしにいったときに訪れる地域のスーパーからしか摂取できない栄養素がある。
・そのスーパー、品物の配置がよく行くスーパーと鏡像の関係になっていてとてつもない違和感があった。普段行くところは入り口に対して左側が野菜コーナー、右側が生鮮食品や乳製品なのだが、今回入ったスーパーはその逆で、順路が右から左にかけて設定されていることに強烈なインパクトがある。
・全国のスーパーをパリティで分類したら面白そう。そういうことやっている人だれかいないかな。
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・家に帰ったのは午後2時くらいだったはず。元気なうちに、ということでシャニマスを起動する。今日は待ちに待った円香のG.R.A.D.編を読んだ。凄かったね……!(ここからネタバレ)
・自分の中でも考えがうまくまとまっていないので、今回は雑多な感想文となります、ごめんなさい。
・先週の水曜日に円香pSSR「ギンコ・ビローバ」を読んだとき、樋口円香は、言葉にすることで損なわれるものや、事物のもつ虚構性に非常に敏感な人間なのではないか、みたいなことを書いた。
・円香と接しているときに感じるプライドの高さやガードの固さ、プロデューサーへの不信感は、彼女が言葉の持つ人為性に自覚的だからこそ生じるもので、それが樋口円香という人間を魅力的にしている要素のひとつであると思う。
・一方で、そういった態度は人の心の純粋性への極端な信仰と読むこともできる。言葉にすれば損なわれてしまうと信じているから、軽薄な言葉を発する人間を軽蔑し、自らは沈黙を守る。そういった彼女の態度は、無垢なものの盲目な崇拝であり、円香の”青さ”でもある。今回のG.R.A.D.シナリオは、彼女が自らの未熟さを自覚する、まさにそんな話だったように感じる。
・仕事先のエレベーターで、以前言葉を交わしたことのあるアイドルに偶然出会った円香。彼女は円香を見ると嬉しそうな様子で、円香と同じくオーディション番組「G.R.A.D.」に出ることになったことを報告する。それから、G.R.A.D.で良い結果を出せなかったら私はアイドルをやめる、とも。
・このアイドルの子は、何を隠そう「ギンコ・ビローバ」で円香が出会ったアイドルその人だ。あのとき、オーディション会場で緊張に震えるそのアイドルを、円香は「願いは叶う」「願い続けることが大事」といった言葉で励ましたのだった。
・感謝の言葉を残して去っていくアイドルを横目に、円香はプロデューサーにこう言ってのけた。私があの子に言葉をかけたのは優しさからじゃない、願いは叶わない、適当に生きるほうが楽、それに……
・「持てる者」である円香と違って「持たざる者」の側に立つあの子が、いま、おそらくは円香が過去に言った言葉に励まされて、自らの決着を付けようとしている。
・青空を見上げながら、円香はこう口にする。
・その横には、電話で円香への新しい仕事のオファーを受けているプロデューサー。
・物語が動き出すのは、円香があるバラエティ番組の生放送に出たときだ。プロデューサーのもとに、彼女からメッセージが届く。
・そのバラエティ番組には、円香がエレベーターであった、あのアイドルの子も出演していた。
・番組の台本通りに、自分の報われない半生を自虐的に語るアイドルの子。共演者や客席からは大きな笑い声が響く。台本という「嘘」に書かれた、「嘘」の言葉を口にするアイドル、筋書き通りに「偽物」の笑いを発する出演者だち。円香は耐えられなくて、静かに語気を荒げる。
・しかし、良かれとおもってした円香の行動は大きな誤算だった。収録後、円香が庇ったアイドルの子に、次のような言葉をかけられる。
・嘘に塗り固められた言葉の応酬に耐えられなくて発した言葉が、結果的にその子を傷つけてしまった。自分の心からの気持ちを表現したつもりの言葉は、ただの欺瞞に過ぎなかった。
・終盤、喫茶店に座り、プロデューサーの前で自らが抱えていた苦しみを吐露するシーンがとても素晴らしかった。円香がなぜ沈黙を是とするのか、なぜ言葉の軽薄さに拒否反応を示すのか。それが明らかになる重要なやりとりだと思う。
・恵まれてきたからこそ、「持てる者」の側に立ってきたからこそ、自分の発する言葉は残酷なほど軽い。だから、樋口円香は浅い言葉が飛び交うやりとりを毛嫌いしてきたし、ずっと口を閉ざしてきたのだ。
・しかし、「沈黙は金なり」はつねに真なのだろうか? 円香が言うように、バラエティ番組の場でアイドルの発した自虐のセリフは、たとえ台本に書かれたものだとしても、彼女の今までの努力や苦悩に裏打ちされた、「重い言葉」だった。円香はここで、彼女の嫌う「言葉」であっても重みを持つことがあるということを知り、価値観の変更を迫られることになったのだと私は思う。
・だから、ラストシーンでエレベーターを降りていくアイドルの子に向かって、円香が「言葉」を発したことが、私はたまらなく嬉しかった。
・円香の紡いだ言葉は、以前の円香だったら軽蔑するような、稚拙で未熟なものだ。けれど、沈黙していては彼女に自分の気持ちは伝わらない。軽薄であることを自覚しつつそれでも伝えたくて口に出したその言葉は、しっかりと重みを持つのだと私は信じている。たとえそれが樋口円香の言葉であろうと。
・円香の「……頑張ろう、お互いに」が序盤のアイドルが発したセリフと同じになっているのも、憎い。
・円香G.R.A.D.でいちばん大好きなセリフ。なにしろ、彼女の口から「行きましょう」という言葉が出たのはこれが初めてなのだ。
・エレベーターを降りるプロデューサーと円香のそばを、何かを象徴するように風が吹き抜ける。W.I.N.G.〜ギンコ・ビローバ〜感謝祭〜G.R.A.D.の順に連綿と語られてきた樋口円香という個人についての物語は、これにて一区切り。ここから円香がどういう道を歩んでいくのか、見逃せない。
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・おまけ:円香とプロデューサーの関係性の深まりの話を全然していなかったけどそれもめっちゃ良かった! 車で送ろうか、という申し出を毎回拒否していたのにバラエティ番組での一件のあとは素直に車に乗るところとか、何よりG.R.A.D.優勝コミュのゾウのくだりでPと円香が笑うシーンが好き……。
・あと「ギンコ・ビローバ」〜G.R.A.D.では本題になっていないから省略していたけれど浅倉透と樋口円香の関係性についてもいつか語りたい。「UNTITLED」とかいうやばいコミュの話とか、話とか……
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