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ことばにするということ (12/29)

・朝は爆睡、昼は前日の日記を書き、午後はだらだらシャニマスをやり、夜は友達に誘われて、近くの居酒屋で1年間お疲れさまの会をしてきた。

・料理にもこだわりのあるチェーンではないお店で、なるほどおいしい。食べるのに夢中で写真を撮り忘れたのだが、あんなにおいしい角煮は食べたことがなかったし、あれほど優しい味がするだし巻き卵は初めて口にした。

・これはあらかた食べてしまってから気付き慌てて撮った刺身三点盛り。メニューには三点盛りと書いてあったのに平気で六点くらいやってきた。嬉しいね……。

・普段はお酒を飲まないから「この料理はビールでしょ」とか「これ日本酒と一緒に食べてえ〜〜」みたいな感覚が分からない。数ヶ月前に日本酒好きの後輩と飲んだときにも同じことを言われて、さも理解しているふりをして適当に頷いていた。でも日本酒普通に美味しいからOKです。焼酎より好き。

・私は日本酒の銘柄の知識は皆無だから、注文するときに毎回困ってしまう。こちとら獺祭しか知らんのよ。この名前だけ覚えているのも、ミサトさんの部屋に転がっていた空き瓶のおかげだし。

・前にネットの記事で読んだけれど、よく見る「吟醸」とか「大吟醸」というのは精米の具合を表す指標だそうだ。精米歩合が60%以下だと吟醸、半分以下だと大吟醸というんだって。いかがでしたか?

・寒い冬の夜にあったかい屋内で食べる鶏鍋、うま………。養鶏業者としめじ農家とえのき農家に感謝。

・ということでお酒も料理もとても美味しかったのだけれど、唯一欠点を上げるとすれば、通された席の隣で大学生8人くらいのグループが宴会をやっていたことだ。横から若者たちの談笑が大音量で響いてきて、会話がかき消されることが度々あった。まあ忘年会シーズンだし大学が近いし、仕方がないね。


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・ここまで書いておいてあれだが、今日の本題はシャニマスです。樋口円香の限定pSSR「ギンコ・ビローバ」がとてつもなくとてつもなくとてつもなかった、という話を!! したくて!!!!!!

・いやこれマジですごかった。5つの断片的なエピソードを通して、樋口円香という人間の中にある屈折した核のようなものを描いているこのカードには、何気ないセリフが深い意味を内包している印象的なシーンばかり。とどめを刺すかのように画面の前に座る私たちをぶん殴るラストシーンにはただただ圧倒された。

・惜しむらくは、このコミュが去年の秋に出た限定カードであることだ。限定なので恒常的に開催されているガチャでは引くことができず、読もうと思ったら高確率で課金をすることになる。けれども、その価値はあったと思わされるくらいこのコミュは凄かった。というわけなので、全人類はどんな手段を使ってでもこのカードを手に入れるか、持っている人に読ませてもらうかしてほしい。

(ここから重大なネタバレ)


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・「ギンコ・ビローバ」にテーマというものがあるのなら(野暮だとは知りながら言うと)、それは「言葉」と「嘘」になるのだろう。樋口円香がどういう物事を「嘘偽り」と感じるのか、これから先、それらとどう向き合っていくのか、そういったものについての話だ。

円香W.I.N.G.より「夜に待つ」

・出会った当初から円香は、人が口から理想を語ったり、優しい言葉で励ましたりするたびに不信の目を向ける人だった。

・オーディションを受けた円香を「きっと合格する」とねぎらうプロデューサーに対し、彼女は「本当にそう思ってます? それ、あなたの本心ですか?」と問う。

円香W.I.N.G.より「二酸化炭素濃度の話」

・心からではない言葉を口にすることに対して、極端と言っていいほどに嫌悪感を示す円香。その感情はどこからくるのか、円香が許せないのはいったい何なのか。それに答えるかのように、「ギンコ・ビローバ」では「信」「噤」「偽」という3つの印象的なコミュの中で、3つの「嘘」が描かれる。


「信」

・電車で移動中のプロデューサーと円香の近くで、女子高生2人が会話をしている。かつてのクラスメイトだという片方が、円香が乗っていることに気がつかないまま彼女の話を始める。

「かわいいからアイドルになれそうだねって だけど、その時は興味ないって言ってたんだよね」
「誰彼構わず、媚びるのは好きじゃないって」

・車両を移動しようというプロデューサーの提案を、そんなことしても無駄だからと円香は撥ねつけ、黙って聞いている。

・ここで分岐。

・ある選択肢では、言葉を尽くして同情しようとするプロデューサーの話を一通り聞いたあと

と言い捨てて、終わる。

・また別の選択肢では、女子高生が電車を降りてから、気を遣って寝たふりをしているプロデューサーに聞かせるように、円香がぼそっと呟く。

「さっきの『アイドルになれそうって言った時』の……返事」

・「俺は円香の言葉を信じるよ」と言うプロデューサーに対して、円香は「…………寝てたんじゃないんですか」と答え、暗転。


「噤」

・仕事で出席した映画の試写会が終わり、喫茶店にやってきたプロデューサーと円香。円香はどこか心ここにあらずといった風で、店員が話しかけたのにも気づかない。

・そんなとき、映画の関係者に話しかけられるふたり。営業モードに切り替わり社交の定型句を並べ立てるプロデューサーの横で、円香も如才なく映画の感想をつらつらと言ってのける。

「最初は……恐縮ながら、主人公をつまらない男だと思っていたのですが」「途中で、主人公の心情がピアノの音とリンクしていることに気付いて本当に驚きました」「ラストシーン、埃だらけのピアノに触れた瞬間、世界が金色に染まったのは……」「彼の心が世界に溢れ出た表れなのだろうなと」

・長引いた世間話のあと、帰路に立つふたり。ここで分岐が入る。

・ある選択肢では、「映画、好きなのか?」と話しかけるも、特にそういうわけじゃないと返され、好きなものが見つかったら教えてくれ、とプロデューサーが言う。それに対する円香の返答は、こうだ。

「……仮に見つかったとしたら、それこそ話さないのでは」

・別の選択肢では、円香が試写会で観た映画のことを話し出す。

「……あの映画は、できればひとりで観たいものでした」「感想を言葉にしなくていい時、しばらくの間、誰とも話さなくていい時に」

・プロデューサーは何も言えずに、そのまま暗転。


「偽」

・オーディションのために待機する間、緊張で震えている別のアイドルに円香が何かを行っている場面に遭遇するプロデューサー。会話は断片的にしか聞こえないが、どうやら彼女のことを慰めているらしい。

・終わったあと、アイドルを励ましていたことに言及するプロデューサーを、円香は次のようにはねのける。

「別に、私は優しくないので」「願いは叶わない、適当に生きる方が楽……」「そう教えてあげなかっただけです」

・ここで選択肢が現れる。

・プロデューサーのセリフ「……円香は優しいよ」から始まるルート。

「……円香は優しいよ」「たぶん、嘘をつこうとしてないし」「たぶん、何を言うのが正解だったのか、今も考えているんだろうから」「(前略)なんていうか……」

・プロデューサーの描写する円香像を聞いて、彼女は不服そうに「じゃあ、それで構いません」と言い放つ。

・別の選択肢を選んで始まる円香の独白はとても示唆的だ。

「……この寒いのに」「アイドルだからって 薄手の衣装とかありえない」

・意図がわからず「今日は一段と冷えるもんな」と同意するプロデューサーに対し、円香「今日だけじゃ、ありませんが」と吐き捨てて、暗転。


* * * * *


・「信」「噤」「偽」でなされるやりとりはどれも示唆的で、言外の意味がこめられたセリフばかりだ。これらのコミュは一体何を表現しているのか、個人的な意見を簡単に書いていこうと思う。本編中で円香が言うように、素人の感想だから当たっているか分からないが(G.R.A.D.編とLandingPoint編が答え合わせになってほしいな……)。

・「信」では、円香の元同級生の噂話という「嘘」が登場する。高校生がいなくなった後に、あの子の言ったことは嘘ですから、と円香は言う。もしかしたら嘘を言っているのは円香かもしれないし、そうでないかもしれない。しばらく寝ている、と言ったプロデューサーが実は円香の話を聞いていたのも「嘘」だし、円香の言葉を信じる、と言ったプロデューサーの内心を知る術はない。

・「噤」では、心を掴まれた映画を観た直後に発言を強いられて、不本意ながら感想をひねり出す円香の様子が描かれた。そこで紡がれる言葉は、明らかに定型的で、映画のレビュー記事っぽくて、チープだ。仕事相手がいなくなったあと、あの映画はひとりで観たかった、とひとりごちる円香。そうすれば、観たあとに感想を言葉にしなくて済むから、と。

・思うに円香は、「言葉にすれば何かが損なわれる(≒本当でなくなる)」ことに人一倍自覚的なのだ。ひとたび言葉にしてしまえば、生み出されるものには何らかの人為が介在してしまう。円香は人の心の奥にしまってあるものの純粋性/聖性を誰よりも信仰していて、言葉のもつ”嘘”という側面に無頓着な人間が言葉を並べ立てることに屈折した不信感を持っているように見えるのだ。

・「信」で円香の気持ちを代弁されることに異常なほど抗議したのも、自分の気持ちを言葉にした瞬間に(しかも他人の言葉だ)不純物が入ることを知っているからだし、「噤」で円香が大切なものほど人に話したりしない、と発言したその意図も、そういうことなのだろう。

・「偽」では、円香が嘘をつく側にまわる。心が折れかかっておびえるアイドルに円香がかけた慰めの言葉は、「願いは叶う」「願い続けることが大事」といったもので、円香の本心から出ている言葉ではない。むしろこれは担当アイドルを励ますときのプロデューサーの手口そのものだし、彼女が最も軽蔑する考え方だ。

・にもかかわらず、そのアイドルは円香の放った偽りの言葉に”心を動かされて”立ち直り、感謝の言葉を口にする。励ましの言葉をかけられたところでそのアイドルの実力が変わるはずがないのに。プロデューサーは、信じていればいつか願いは叶うと言う。そんな言葉は偽物で、人工的で、嘘だ。今の円香は、そういった風に考えることしか知らない。

・プロデューサーが円香を「言葉に誠実」な人間と評したのは、うまいことを言ったものだと思う。言葉に誠実であることは、誠実な言葉、心からの言葉を口にすることを意味しない。そうではなく、言葉の持つ負の側面に意識的である、ということだ。円香はずっとそうしてきたし、だからこそ、スカウトされて以来プロデューサーがかけてくる”綺麗事”のセリフにいらだちや不信感を募らせてきた。円香にとっては純粋なものこそ価値のあるもので、言葉のもつ虚構性に無自覚な人間に我慢がならない。

・ところが、円香はそういった自分の信念と矛盾する選択をする。彼女は、アイドルになってしまったのだ。

・アイドルとはまさしく「虚構」を売る仕事である。ステージの向こうが喜ぶ”像”を演じ、ファンが喜ぶ言葉を喋り、本当の自分を出すことは求められていない。浅倉透を見上げるままではいられない、そんな一心で飛び込んだ業界の先にあったのは、自らの価値観の変更を迫るような出来事の数々だったのだ。

・しかも、アイドルという虚構を演じることは大きなリスクを伴う。大勢の人の前に出るということは、批判や妬み、噂話といった心ない”言葉”たちの矢面に立たされることを意味する。トップアイドルの座をめぐって他のアイドルと争うことは、自らが常に評価され査定されることを意味する。「偽」のコミュに、〈アイドルには冬でも薄着をさせるのに、まわりの人にはあたたかい服に守られている〉と円香が訴えるくだりがあるが、ここでいう「衣服」が”自らを守る心理的な鎧”の暗喩であることは言うまでもない。逆説的だが、虚像を身に纏うことによって、人はかえって無防備になってしまうのだ。

・円香はいつか、「アイドルをやっているわたし」と「虚構性を嫌悪するわたし」の折り合いをつけなければならない。今の彼女はまだ、答えを出すことができずに感情のやり場に困っている段階のように思える。もちろん円香がその苦悩を口に出すことはない。本質的なものだからこそ、絶対に言葉にしてはいけないからだ。何があっても言うことはできない。

・そんな円香の心の叫びが、あのTrueEndなのだと思う。

・TrueEnd「銀」で、円香はプロデューサーを強い言葉で糾弾する。真面目で誠実でユーモアもある好青年、それはすべてあなたが身に纏っている「虚構」の人格であり、「ガワ」にすぎないのだ、と。

「あなたは欠点も愛嬌に変えて、結果『いいひと』『すごいひと』にしか見せないですよね」

円香pSSR「ギンコ・ビローバ」よりTrueEnd「銀」

・それに対してプロデューサーは嫌な顔ひとつせず、いつもの声で「はは」と笑って、立派な肩書を背負っても結局、何をするかでしか語れない、だから俺は頑張るしかない、と答える。この発言、プロデューサーが円香の指摘を認めているようにも解釈できるが、どちらにせよ、今の円香にとってプロデューサーは、幾重にも重なった皮につつまれた底の知れない人間にうつったみたいで。

・円香がこう吐き捨ててコミュは終わる。

・出口のない迷路を歩く円香が、この問題にどう決着をつけるのか。見届けるのがたまらなく怖い。


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・「ギンコ・ビローバ」、深読みしてもしきれないくらい緻密に描かれていて、あるセリフが後々の伏線になっていたり、選択肢をすべて読んで初めて全体の意図がわかったりするのが本当に素晴らしかった。目新しい演出もたくさんあったし。

・ここにきて「嘘」というテーマの話を書くの、確信犯的にやっているよね。だってこれは曲がりなりにもアイドルマスターシリーズの話なのだ。「アイドルもの」というお話の類型がすでに壮大なフィクションであり、十年以上何度もこすられ続けた題材であり、その中には現実に即していない描写だったりお約束だったりがあるわけだ。そうした数あるアイドルもののストーリーのひとつである「アイドルマスター シャイニーカラーズ」がこういう話を出してきた、ということは、製作陣、というよりシナリオライターが「虚像であってもアイドルを描くことはどういうことか」に意識的である、ということだと思う。しかも、それを最もアイドルらしからぬ幼馴染み4人組ユニット「ノクチル」のメンバーに代弁させるのはもう本当にお見事と言うほかない。

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