RYUTist LAST HOME LIVE 「ありがとね、ほんとにね。」と大航海の終わりとわたくし
新潟にはRYUTistという最高にかっこいいアイドルがいて最高のラストステージをやりきって本当に最高だった。最高!
本稿で言いたいことはほぼ上記の一文で網羅されてしまうので、以下は読んでも読まなくても全く問題はないが、わたくしは2024年12月1日に起きたことの全てを自分の為に書き残したい。というかRYUTistの全員卒業・活動休止にあたって書きたいことは山ほどあり、実際に11月の時点で過去と現在進行形を交えたとてもセンチメンタルな文章を書き始めてはいた。コロナ禍で有観客ライブがままならない時期の配信ライブに何度も救われたこと、(エン)ツアーの人間を辞めかけたパフォーマンス、佐藤乃々子の卒業とその後数週間抜け殻になったわたくし、3人となったRYUTistが再び一歩を踏み出した瞬間、わんぱく一門入りの最終試験に6回ぐらい連続で落ち続けたわたくし、急に増えるオタク仲間、活動休止を知ってからの複雑な心境、踊る柴田聡子、特典会は人類愛の現場…等、本当にいくらでも書きたいことはあったのだ。あんな最高のステージを観てしまったらそんな湿っぽい話をうじうじと書いている場合ではない。全部書き直しだ。読んでも読まなくてもいいけど、ここまできたからには最後までお付き合い願いたい。メンバーや関係者の名前は敬称略…としようと思ったけどこれは自分の為の記録なので、メンバーについてだけは呼び慣れた「むうたん」「ともちぃ」「みくちゃん」に統一させていただく。
光る朝を踊ろう
12月1日。卒業公演前夜ということもあり、アルビレックス新潟が土曜のホームゲームで残留ギリギリラインから抜け出せずお通夜の空気でホーム最終戦セレモニーをやってしまった(この下りどうしても今言わなきゃならない?という話だが、一種の記録なのでどうしても言いたい)こともあり、目覚めはすこぶる悪かった。東京日帰りだから支度もろくに整えていない。どのTシャツにしようかと眠い目をこすって衣装ケースをひっくり返し、あれこれ悩んだ結果黒地に水色のシンプルロゴのTシャツにした。X(Twitter)のタイムラインを覗くと、今朝の新潟日報にRYUTistが新潟県警の飲酒運転ZEROプロジェクトのキービジュアルとなった全面広告が掲載されている旨のポスト(ツイート)が流れてきた。
これ今日クアトロにいらっしゃる県外のオタクの皆様欲しいだろうな、わたくしだって永久保存したいもの、と思い、新潟駅で少し多めに新潟日報を買い込んだ。ファン企画や生誕祭で骨を折ってくださっている方々や、いつも遠方から古町7番町のHOME LIVEにいらしている方々に、全員ではないけれど少しでもお役に立てれば…という気持ちがなんとメンバー全員卒業の当日に湧いてきたのである(遅)。その日の朝の新潟市は昨日から続く雨でしっとりと冷えきっており、今夜新潟に戻ってくるときはわたくしはどんな気持ちでいるのだろう、とても淋しくてめそめそと泣きながら帰ってくるのではないかな、そんなことを考えていた。
秋冬の新潟から東京へ向かう時あるあるだが、関越トンネルを抜けると本当に噓みたいに空が晴れている。カーテンを下ろして少しうとうとして、合間にX(Twitter)のTLで多くのオタクの皆様が渋谷を目指している様子を眺め、メンバーのポストに「今から行くよ!楽しみ!」とリプを送り、大宮で在来線に乗り換え、降りたのは渋谷ではなく何故か新宿だった。
長丁場になるであろう(なんか3時間って噂を聞いたよ、RYUTistのライブって長くても2時間ないよ、新幹線の終電まにあわないよ)今日のライブに備えてとんかつ茶漬けでお腹を満たし、100均を探して歌舞伎町をうろつき、「RYUTistが…歌舞伎町に…」と衝撃を受けていた君島大空の発言を思い出し、喫茶店に河岸を変えて大慌てで配付芸に用いる新聞を梱包し、配布先の皆様の推し色(緑多め)の付箋を貼り、余裕のある日程にしたのに何故か大汗をかいていた。暑いのよ東京。あと何か手を動かしていないと不意に淋しくなって泣きそうになるので。
ここだけ古町7番町
13時半を大幅に回った頃に渋谷クラブクアトロに到着。若い頃から散々通ったハコであり、いくらセンター街が街の姿を変えても目を瞑ったって辿り着ける。RYUTist最後のライブが新潟ではないことで賛否両論いろいろあったけれど、新潟からは勿論、東京近郊だったり東北だったり西日本だったり多くのオタクの皆様が渋谷を目指して集まってくるのを各種SNSで眺めるのは嬉しい体験でもあった。規模は異なるけれどちょうど1ケ月前のJリーグYBCルヴァンカップ決勝の日のアルビレックス新潟サポーターの熱量を思い出していた。
それはそうと14時からの前物販、ちょっと早めに行って並べばいい感じで物販買えんだろ、ぐらいの甘い目論見で行ったらクアトロ入り口近くの階段下まで行列の最後尾がきていた。えっクアトロって確か4階とか5階とかじゃなかったですか。オレスタだってこんな並ばないよね。最後のライブだというのにわたくしの目算は相変わらず甘かった。階段からはみ出た最後尾にそっと並ぶと、今日の出演者を貼り出した掲示のちょうど前になる。「今日ライブなんですか?」と若い男性が声をかけてきた。RYUTistを観に来た人ではないようだ。「あっはい、そうです」「ぼく大学が新大だったんでRYUTist名前知ってますよ。懐かしいなって思って。東京でもライブあるんですね」「え、すごい偶然!でも今日が最後のライブなんです」「そうなんですか…」程なくして青年は去っていったが、渋谷の真ん中でこういうご縁と一瞬の出会いってあるものなんだな、もしかしてここ新潟かな。
拷問のような長蛇の列にしがみついて1時間、なんとかお目当てのグッズ(むうたんのちょんちょりん他)を買い込んでロッカーに荷物をぶちこんで、階段を降りると顔見知りのオタクの皆様がたくさんいらした。現役の新潟のアイドルさん達も何人かいらしていて、演者とオタクというより双方RYUTistのオタクとして楽しく会話を交わすなど。それは日々の古町モール7番町、RYUTistのHOME LIVE前にオタクが集う風景となんら変わりはなかった。あまりにもいつものメンバーいつもの風景すぎて、ここが渋谷センター街であることを、最後のライブの直前であることをいっとき忘れそうになる。ちょっと歩いたら古町ルフル前みたいな広場があってそこでオタクの皆様がお酒持参でウェーイ🍻酔ってる~🍻って乾杯してるんじゃないかな。(※渋谷区は路上飲酒禁止です)
16:00開場。前物販行列から2時間以上立ちっぱなしで4階まで一気に登らされる、健脚だった若い頃なら耐えられたが中高年の脆弱な身体にはダメージが大きい。とはいえ良番を得て優先入場させてもらえるのだから贅沢は言うまい。ステージ下手側1.5列目ぐらいの位置をキープして開演まではまだ1時間ある。下手側なのでむうたん推しの皆様がやや多めに陣取っており、「もう新潟行く用事なくなっちゃうな」「そんな淋しいこと言わないでともちぃ行きつけの喫茶店とかにコーヒーだけ飲みにきなよ~お茶しようよ~」等の他愛ない話で盛り上がる。何かおしゃべりしていないと怒涛の勢いで内なるセンチメンタルが押し寄せる。これから始まるステージはわたくしが観れる最後のRYUTistで、これから聴ける曲は最後のパフォーマンスで、ライブが終わったらむうたんにいっぱいちゅき💚と言える場がなくなる。深く考えたら本当に淋しくなってしまうし、開演前BGMはNegicco「Falling Stars」に柴田聡子「ラッキーカラー」に、これでもかと情緒を揺さぶってくる(何故これらの曲がオタクの琴線を素手で掴みに来るのか詳しくは説明しません、が多分RYUTistのオタクの皆様にはご理解いただけるものと思います)。泣いちゃだめだ泣いちゃだめだ、とブレる情緒を懸命に平均値に戻しながら開演を待っており、いいところ観客がフロアに詰め込まれたところで、仲良くして頂いているオタクの方の大きな声が聞こえた。「えー、五十嵐夢羽様から『開演前にフロアを温めておけ』と!」なんだなんだ?そういえばさっきお会いした時になにかやるって仰ってたな。そこからむうたん、ともちぃ、みくちゃんの名前を3回ずつコールするゴール裏スタイルの煽りが始まった。野生のコールリーダー爆誕である。勢いで運営さん側のお名前もコールさせていただいた。わたくしは思っていたより腹の底からいい声が出てしまい、試合前のアップ時点でアルビレックスコールをして気合を入れ直すみたいな体育会系のいい準備がライブ前にできあがってしまった(※世界で3人ぐらいに伝わる文章を心掛けています)。正直に言うとこのコールで、胸の奥からせりあがるセンチメンタルがいい感じでどっかに行ってしまった。ただただこの後のステージを楽しむ、誰よりも。そんな覚悟ができあがってしまったのだ。
わたしたちはいまたのしいの!\オレモー!/
客電が落とされ、「おぉ!?」といった声がフロアのどこかから次々に上がり、「RYUTistがLAST HOME LIVEをお送りします!」というアナウンスと共にこの日の開演前SEというか出囃子「RYUTiswing」が流れてきた。恐らくわたくしは初期から繰り広げられてきたこの出囃子の現場に居合わせるのは初めてだ。そして、ステージ下手から飛び出してきたメンバー3人の姿を観て息を飲んだ(実際には「ギャース!かわいい!」とか言っていた)。沢山のフリルがあしらわれた純白のショート丈ドレスにシルバーで統一されたアクセサリー。それはまるでバージンロードに躍り出た世界一かわいい花嫁のようで、あまりにも眩しく美しかった(実際には「かわいい、かわいい」しか言っていなかった)(なお、この場合のオタクの立ち位置は新婦親族またはいい男友達のままで居続けた新婦友人一同です)。初期も初期の曲「RYUTist! ~新しいHOME~」のイントロと溢れ出んばかりの笑顔。古参の諸先輩方のコールに食らいついてメンバーの名前を叫ぶわたくし。アイドルとして成熟期を迎えたグループが、まだ半分子供だった時期のアンセムを歌うのを新参組として体験するエモさ、ご理解いただけるだろうか。始まったからもう戻らない、止まらない。東京渋谷のど真ん中に新潟市中央区古町7番町をそのまま持ってきて、最後のHOME LIVEが今始まった。
続いて「日曜日のサマートレイン」、早速名曲がきてしまった(※全部名曲だ)。まだRYUTistの現場に足繫く通い始める前、古町どんどん7番町のステージに大遅刻で辿り着いた時に聴いた曲で「あっこれ好き」と思ったのを思い出す。行ったことのない柏崎の真夏の海が、青い屋根の鯨をくぐった先にいつだってありありと見えてくる。間髪入れずに「WOOT!」、なんか気がついたらAメロで新しいコールが生まれている。柴田聡子が実はDIVA系女性シンガー好きという側面がこれでもかと反映されたパーティソング、もう楽しいしかない。「Majimeに恋して!」はかわいいに全振りした振付、見つめられて困るオタク、爆レスを喰らう前方エリアのオタク、多分だけどフロア後方であったとしてもみんな爆レス喰らってそう、古町どんどんの時だってそうだったもの。オープニングからここまで怒涛と呼んで差し支えないアッパー曲の連続で、ここ3か月間「最後のライブではきっと泣いてしまう、どの曲を観てもこれが最後だなんて耐えられない」などと心配していたのが噓のようないつもの楽しいRYUTistのステージだった。ほんとうにこれが最後なの?
最初のMCでメンバーは口々に「ぜんぜん最後の実感ない」「ないよねー」と言っており、オタク大体そうだと思うけどわたくしは1年半ほど前の、ののこさん卒業公演を思い出していた。あの時は残される側のむうたん、ともちぃ、みくちゃんが気を抜くと泣きそうになっており…というかメイクが落ちるレベルで泣いており、そんな中でののこさんだけが最後まで「実感ないんだよね~」と口にしていた。きっと今の3人も同じ気持ちなのだと思う。そのぐらい序盤からステージの完成度もセットリストの充実度も高く、センチメンタルに支配されるより先に「卒業発表から3か月間、この日から逆算して準備してきたんだろうな」という大きな納得がきてしまう。と思っていたが、「きっと、はじまりの季節」に続く「ターミナル」で情緒が早くも決壊してしまった。ののこさん含めた4人でたった一度だけ人前で披露するために沖井礼二・北川勝利・清浦夏実という鉄壁のコンポーザー陣が作り上げた、あまりにも晴れやかな旅立ちの曲。このエモさを序盤に持ってくるセトリ、このあと一体どうなってるの。1.5列目で自分でも引くほど嗚咽していて、メンバーの顔も観れなかったし周りのオタク仲間を振り返る勇気もなかったけれど、ようやく顔をあげてステージを観ればそこには、自信に溢れるパフォーマンスを繰り広げる3人が居た。シグナルが青になって、旅立つ誰かを見送るのではなく、彼女たち自身が旅立っていく、その視点に立った時に「ターミナル」という曲の意味合いは180度回転する。続く「ナイスポーズ」、現場もなく2年近く息を潜め続けていたコロナ禍の記憶と、その閉塞感を打ち払う美しいメロディ。3人になってからの振付ではむうたん&ともちぃに永遠にほっぺたを突かれ続けるみくちゃん。観客席から声を出せなかった時期に生まれた、大サビでオタクの皆様がナイスポーズなピースを無言で繰り出すリアクション。アウトロのコーラスに合わせてメンバーがくるりと回る。翻るスカート。それは何かあの頃の閉塞感がこの日で全て昇華されたかのような美しい情景だった。「ALIVE」は中盤の台詞というかポエトリーリーディングというか、静かな目覚めの刻からめまぐるしく続く朝のルーティーンを初演の時から一度も噛むことなくやりきっていて、台詞割りが4人から3人になってもそれは変わることがなくむしろ情感を増していて圧倒的ですらあった。多分まだライブは前半なのだと思うけれど、どのステージでも終盤に持ってきておかしくない勝負曲が怒涛の勢いで注ぎ込まれており、泣いたり笑ったりブチ上がったりで本当に彼女達に圧倒されていた。13年やってると勝負曲だけで長丁場のセトリ組めちゃうんだ…。
一瞬、一秒、逃さずにいて
このあと、RYUTistが新潟ローカルのメディアで披露してきた数々(というかほぼ全部)のCMソングメドレーが始まる。その数7曲。わんぱくもみくのものもダチぃずも箱推しもオタク全員が牛になる「カラフル・ミルク」から始まる新潟県産牛乳4連発、「Groovy Drive」「未来はプリズム」「フレ!フレ!フレ」の柏崎のキダタローことカンケ作による3連発、どれも新潟在住ならどこかで聴いたことがある率100%だと思われる。MCでは牛乳が体によくてお肌にも効果的であることを淀みない口調で説明しており、まだローティーンだった頃の彼女達が暗誦できるほど生真面目にこのフレーズを覚えたのだろうな…と思うと10年前に戻ってメンバー全員抱きしめて労いたくなる。楽曲やパフォーマンスの魅力だけではない、ローカルアイドルとしての矜持がそこには確かにあった。
メドレーで一挙7曲も壮絶だったけれど、このあとの2018~19年リリースのシングル楽曲3連発(「青空シグナル」「センシティブサイン」「黄昏のダイアリー」)もすごかった。RYUTistが明らかにギアを上げたな、と思っていた時期の代表曲ばかりだ。大体のライブのセットリストでピークに持ってくるであろう代表曲がまとめてセトリに叩き込まれている。パフォーマンスは最初から完成度高いと思っていたけれど、その歌声は、伸ばした指や視線の先まで計算され尽くしたダンスは更に成熟している。それでいて遊び心というか突っ込みどころはちゃんと残しており、「センシティブサイン」曲中でむうたんが飛び越えた大きな水たまりはいくらなんでも大きすぎて笑ってしまったし、夜明け待つ流星(せいー!)は前列のオタクがほぼ全員むうたんが高く伸ばした手の先にある流星に手を伸ばしていて最高だった。ステージ上もフロアも最高でない瞬間が一つもなかった。その次のブロックでは、サブスクにない最強のB面曲「echo」の妖精が舞い踊るようなパフォーマンス、一転してひんやりとして熱いダンスを伴う「PASSport」「水硝子」が続く。コンポーザー陣のチョイスが君島大空や蓮沼執太といったエッジの効いたアーティストにじんわりと遷移し、日本のインディーシーンの最先端までオタクに体験させてくれる、あくまでアイドルとして…という時期の楽曲達。それは確かにRYUTistの歴史というか足取りをそのままなぞっているようでもあった。本当に今日が集大成なのだ、と感じた。先に「卒業発表からこの日までを逆算して」と述べたが、9月以降ここまでのライブでは古参オタクにはたまらないであろう曲やメンバーチョイスのカヴァー曲などもやりきり、RYUTistと○○○シリーズでは楽曲提供者とのコラボを高いレベルでやりきり、そして必然のようにLAST HOME LIVEでみんなが聴きたかった代表曲の数々を全部ぶちこむ。一つ一つ大切に構築されてきた彼女達のステージの集大成がこれなのだ、時間が進むにつれてそういった腹落ち感がわたくし内では増大していた。そして、残された時間が少ないことも。
永遠の夢を見ていたい
キレッキレのパフォーマンスの後にほぼ雑談テンションのMCを繰り広げるのはRYUTistあるあるだが、最後のライブでもそれは変わらなかった。蝶々の形をしたヘアアクセサリー(ちょんちょりん)が激しいダンスで吹っ飛んでみくちゃんに拾ってもらった後、一旦舞台袖に引っ込んで「新潟までちょうちょが逃げちゃった」とはてしなくかわいいことを言って戻ってくるむうたん、「13年やってきて最後に残ったの2人だけになっちゃったね~」「ね~」とむうたんとしみじみするともちぃ。通常営業がすぎる。だけどその後、みくちゃんが「わたしたちが卒業しても、RYUTistの音楽はいつもみなさんの傍にあります」といったことを話し始めて、フロアの和やかな空気が明らかに変わった。オタクたちが卒業という言葉と本当の意味で直面した瞬間だった。
しんとしたフロアに流れる「春にゆびきり」のイントロ。ステージを見上げながらいろいろなことが胸中を去来した。コロナ禍で10周年ライブが中止になった時に撮影されたMVの夕闇迫る白山公園空中庭園だったり、翌年遂に有観客で開催された11周年ライブで紗幕がばさりと落ちた後のこの曲のパフォーマンスだったり、「消えないよう、忘れないようにほらゆびきりしよう」というフレーズの後に高く掲げられた小指だったり。それまでの圧倒的な楽しさで蓋をしていたつもりだった淋しさやら何やらの感情が、ここに来て頭をもたげ始め、続く「口笛吹いて」でまたもやわたくしの情緒が決壊する。泣きべそをかきながらステージを眺めていた時に、とびきりの笑顔で愛と希望に溢れる世界を歌い上げているむうたんの頬に、いくつもの涙の跡が伝っているのを見てしまった。淋しいのは我々オタクだけではなかった。彼女達こそが誰よりも淋しいのだ。なんだかもう頭がどうかなりそうで、わたくしの情緒は回復不能だった。そして活動中期の名曲である「Blue」「神話」が続く。アイドルというものはその音楽で淡い恋心だったり楽しいパーティーだったり、いつでも全ての出来事と感情を表現することができるのだけれど、RYUTistはいつだって、いつか来る別れとその先の未来のことを歌い続けてきたのだ。おそらく最初からずっと。
「春風烈歌」、曾我部恵一の手によるRYUTist唯一のシンガロング曲である。今年の早春にリリースされたこの曲だけど、次の春を迎える頃にはRYUTistはもういない、そう思うとたまらない気持ちになる。大サビの直前にみくちゃんが「クアトロ!歌え~!」と叫ぶ。恐らくフロアにいたオタクの誰もが史上最大の声で新潟の遅い春の情景を歌っている。ともちぃが堰を切ったように泣き始める。みくちゃんも泣いている。永遠に終わってほしくない、次の春が来なくてもいい、とさえ思える時間だった。
この後、メンバーがひとりひとり卒業にあたっての言葉を述べる。みくちゃんはきっと今日までに何度も考えて書き直してを繰り返したであろう言葉を丁寧に述べ、自分の弱さとメンバーにずっと助けられてきたことに対する大きな感謝を口にしていた。メディア対応などを観ていると華やかな側面がクローズアップされがちな彼女だけれど、本質はこの生真面目さにあるのだろうな、と思う。むうたんは自分の人生の半分がRYUTistであったこと、ファンはその他大勢などではなく私とあなたのオンリーワンであること(だからきっとわたくしをステージから見つけてくれたのだ、これは私信だ!と確信した)を語り、最後に「アイドル人生、悔いなし!」と右手を高く挙げ晴れ晴れとした表情で宣言しておりほぼラオウ様だった。ともちぃは「えー私事ではありますが…」と切り出し、友恵推しの皆様を『まさか結婚…?』と混乱に陥れたであろうその直後に「13年間ライブ皆勤賞」を誇らしげに報告していてこれはこれで偉業である。その後は年下であるむうたん&みくちゃんに「何かあったらいつでも連絡してね」とお姉さんとしての包容力を示し、内気だった自分がRYUTistでの活動を経て変わることができたこと、ファンへの感謝などを明るく伝えていた。ののこさん卒業公演で泣いてしまって言葉が出てこなくなり、消え入りそうな声で「ずっと友達でいてください…」とののこさんに言っていたともちぃが、いつの間にかメンバーのちゃんとしたお姉さんになれていたことがとても嬉しかった。最後の曲は「ラリリレル」。柳都MIXを叫べるのも今日が最後だ。次の日曜日はもう来ない、でも伝えたい『ありがとね、ほんとにね』の気持ちを。時折涙を見せることはあったけれど、ことパフォーマンスにおいて彼女達の歌声は最後までぶれることがなかった。本当に「笑顔でさよなら」を約束通りやりきったのだ。わたくしはといえばいよいよ胸がいっぱいになって声が詰まってしまって、大サビ前の「ラストー!」のコールが出てこなかった。本当にラストが来るのを認めたくなかったのかもしれない。それでも最後の柳都MIXを声いっぱいに叫んだ。むうたん、ともちぃ、みくちゃん、みんなの、柳都のキュートなRYUTist!
「新曲が…3曲あります!」「3曲!!!???」
メンバーが名残惜しそうにステージを去り、客電が落とされたままいっとき静かな時間が訪れたフロアに、オタクのどなたかの声が響いた。これまでに卒業していった3人を含むメンバー全員の名前を叫び、「みんなRYUTistになってくれてありがとう!」「でも俺は、まだRYUTistが観たい!」「おれたちの声を届けようじゃないか!」という趣旨の発声からの、フロアを揺らすような大きなアンコール。これまでに出会ってきた多くのRYUTistのオタクの皆様の顔を思い浮かべる。いい出会いがたくさんあり、そうでない体験も多少はあった。それでもこの場所でアンコールを叫んでいるオタクみんなが同じ気持ちであることが自分を心強くさせる。この間、流石に新幹線の終電に間に合うか気になってこっそりと時計を見たらまだ20時前。なーんだ余裕だな、でもこの場を中座するぐらいなら終電逃してエクストリーム出勤したって構わないよ。ステージがぱっと明るくなり、メンバー3人が再び現れた。入場前に配付された白いサイリウムの柔らかな光で、フロアが埋め尽くされている光景を目にしたみくちゃんが「また泣かせないでよ~」と口にする。そしておそらくこれも最後の「告知があります」というMCの時間。まず、この日のライブが円盤化されること。そうだよね~カメラも入ってるしラストライブだもんね記念に残したいよね~。次にそのBlu-rayを含めた3人体制期のベスト盤が出ること。ののこさん卒業の時に出たみたいな豪華BOX仕様かな、いいねいいね~。そして「新曲もレコーディングしたんですよ」「そうなんです、新曲が3曲」『3曲!!!???』わたくしは素で聞き返してしまったし、同じリアクションのオタクも少なからずいたものと思う。そのコンポーザー陣が君島大空・石若駿・柴田聡子であることが明かされた時点でまた大きなどよめきが起こる。卒業公演のその日にリリースが発表される音源に新曲3曲は本当に意味が分からないし、「まだまだ尖ったことやるよ~」のMCにも尖りすぎだろ特に石若駿作曲のやつ…ってなったし、何よりもサプライズ発表の後に披露されたその新曲3曲のうちの1曲、RYUTist公式お姉ちゃんこと柴田聡子の手による「Unknown us」のパフォーマンスがキレッキレすぎて、最終的にはシンプルにスゲーなこの子達という気持ちになり笑ってしまっていた。260円のバス代を節約して歩く、といった内容の歌詞はすぐに新潟駅から古町までのバス料金だなと分かったし、曲調はセンチメンタルを吹っ飛ばすファンキーさ(柴田聡子、引き出し多すぎどうなってるの…)。RYUTistはこと音楽活動においては今までもずっとそうだった。いつだって我々オタクや音楽ファンの期待を思いもよらない方向で超えてきた。最後の最後で新曲3曲をぶちこんでくるのも、ある意味最後までRYUTistらしい在り様を貫いたのだなと思った。
セットリストここまで全部やり尽くしたなと思っていたけれど、アンコール最後の曲はきっとみんなが待っていた「Beat goes on! ~約束の場所~」だった。星屑のようなイントロに続く「君の輝く瞳 また逢えたよ」というともちぃの力強いソロパート、そして天高く掲げられる小指。古くからRYUTistを観てきたオタクの皆様には特に思い入れが強い曲なのだと思うけれど、その力強さにはRYUTistに出会った年月の長短を問わずオタクを引き込み、巻き込む力があった。ラップパートの後の「Beat goes on yeah!」で後先考えない男気ジャンプをやってしまって6時間立ちっぱなしの足腰が本格的に終わったけれど、これは余生を削ってでもジャンプすべき瞬間だったし、振りコピするタイプのオタクの皆様がやっていた円陣から手を高く揚げるアレ(憧れでした)にも加われた。RYUTist自身もこの日のLAST HOME LIVEで全てをやりきっていたが、オタクとしてのわたくしもやりきった。むうたんの言葉ではないけれど「悔いなし!」を高らかに宣言したかった。
ダブルアンコールで彼女達が選択したのは、今日2回目の「ラリリレル」。本編ではほぼ爆泣きしながらコールさえままならなかったあの曲で、今度はもうこの現場でこれ以上大きな声は出せないなレベルでむうたん、ともちぃ、みくちゃんの名前を呼んだ。思いが膨らんで、RYUTistがもっと好きになった。「ラストー!」のコールも今度は一切の逡巡なく口に出せた。柳都MIXでは勢い余って「むうたん、ともちぃ、みくちゃん、のんの!」って言っちゃったけどきっとこの会場のどこかにののこさんも居ると思うからOK、そういうことにした。去り際に彼女達が残したのは「ラーリーリーレール、バッハハーイ👋」という懐かしい終わりの挨拶。どこまでもあの子達らしく、それでも名残惜しそうに会場の隅から隅まで視線をやり手を振って、メンバーカラーの大きな花束を抱えて、RYUTist最後のHOME LIVEのステージを彼女達は去っていった。
新しい船を建て 胸焦がして旅するわ
クアトロの狭い出口に殺到する人の流れに乗ってフロアを抜け、ロッカーから荷物をピックアップして、完全終了した足腰に5階からの階段退場で更にダメージを受け、何人かの県外オタクの皆様に約束していた今日の新潟日報配付芸をやりきり、配り切れなかった分は信頼できるオタクの方に託し、上越新幹線の終電が迫っていた(そりゃ17時開演で3時間以上が過ぎてますからね)ため場外にいらした皆様に慌ただしく別れを告げ、「渋谷駅ってどっちですか」「そっちじゃないです」というお約束の方向音痴を披露し(目を瞑ってもクアトロに辿り着けるは辿り着けるけど、帰りは安定に道を間違えますね)、大宮駅から乗り込んだ新幹線は当然自由席も満席で、結局前物販から帰りの新幹線までトータル7~8時間立ちっぱなしだった。もう中高年の体力はライブハウスと日帰り遠征に対応できません助けてください。
昨日の夜までのわたくしは「最後のライブが終わってしまったら淋しくて泣いているのではないか」と確かに思っていた。でもすべてが終わった今、自分でもびっくりするぐらい晴れ晴れとした気持ちになっており、最高のステージを観てしまったという高揚感だけに包まれている。淋しい感情はあの場で要所要所で泣いたりして全て発散されてしまったし、集大成という言葉では言い尽くせないほどに完璧な最後のステージを彼女達がやりきった、その場に自分が居合わせることができた、その幸運に感謝する気持ちしか今は出てこない。13年というキャリアの中で初期から彼女達を見守り続けてきた人、後になってRYUTistという大きな船のようなムーブメントに乗り込んできた人、いろいろな事情で途中でその船を降りた人、一度降りたけれどどこかの停泊地でまた乗り込んだ人、今日のクアトロに足を運ぶことはできなかったけれど遠くで公演の成功を祈っていた人。そういったオタク・運営スタッフ・コンポーザー陣・スポンサー企業・ゆるキャラ・メンバー全てを乗せたRYUTistという名前の船が今日、13年の航海を終えて大きな祝福の中で港に辿り着いたのだ。あまりにも鮮やかなグランドフィナーレではなかっただろうか。
新幹線は日付が変わる前に終点の新潟駅に到着した。新幹線ホームで同じくクアトロから帰還したオタクの方に遭遇したら半袖Tシャツ姿で「いやー新潟は破格に寒いな…」と仰っており、そりゃそうですよ!と返して別れた。駅を出たら小雨が降っており、ひんやりじっとりとした夜の空気はいかにもな新潟の冬を感じさせた。この街で彼女達は育ってきたのだ。家に向かう車中でちょうど白山公園のあたりを通過する頃、ランダム再生にしていたspotifyが「ALIVE」をチョイスした。急に「新潟って最高の街だな」という気持ちが湧いてきた。東京に比べて天気が悪くて冬は信じられないほど空が荒れるけれど、彼女達が暮らし歌に乗せて綴ってきたこの街の風景を、RYUTistの音楽はいつでもきらきらと輝いたものに見せてくれる。
みくちゃんは今日のMCで「わたしたちが卒業しても、RYUTistの音楽はみんなの傍にあります」と口にしていた。そう、彼女達の音楽はいつまでもこの街と共に在る。いつだって思い出せる、風が抜ける古町モールのトンネルを、雨上がりの路地裏から顔を出す猫を、夕日が沈む海を、光に溢れた夏の砂浜を、NEXTのビルから眺めるナイトビューを、下町のコインランドリーを、古い喫茶店を、世界の宝島こと佐渡を、白山の空中庭園を、海辺の展望台を、朝霧の福島潟を、萬代橋という「約束の橋」を、古町7番町にある「約束の場所」を。いつだって、いつまでも。
わたくし個人としてはクアトロのLAST HOME LIVEでRYUTistに対する区切りをつけるつもりでいたが、流石にここまで盛大に区切りが付けられるとは思っていなかった。クアトロの次の週末に行われた最後の特典会・ファンクラブ限定ライブには別現場(※苗場ネギー)やアルビの最終戦と被って行けなかったけれど、RYUTistのオタク人生に悔いなし!みんな楽しんでくれ!!!という極めて健やかな心持ちでいられた。でもオタク飲み会に参加できなかったのだけは本当に悔しかったので祝電(的メッセージ)を送った。
もしかしたら今後、ふとした時にRYUTistがもう居ないことを淋しく思う時がくるかもしれないけれど、そしてこれからのむうたん・ともちぃ・みくちゃんがどういう未来を歩むのか、我々オタクにはなにも分からないけれど、どうかそれが希望に溢れた幸せなものであるように、彼女達の新しい航海が順風満帆であるように、今はそう祈らずにはいられない。ありがとう、おめでとう、また会おう!(柴田聡子「後悔」より)
2024年12月1日という日の記録を余すところなく書いたら、当然のように14000字弱の長文になってしまい、わたくしはつくづく推敲というものができない人間である。ここまでとりとめのない長文をお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました。オタクの皆様、よかったら今後も仲良くしてください。いろいろ言葉を尽くしたけれど本稿で言いたかったことはたった一つ。新潟にはRYUTistという最高にかっこいいアイドルがいて、最高のラストステージをやりきって、最後の瞬間まで本当に最高だった。最高!
最後にクアトロのプレイリスト(サブスクで確認できた分だけ)を提供してお別れです。よろしかったらライブBlu-rayが出るまでの繋ぎとして個人的にお楽しみください。