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twitterにアップした詩たち。2019/10/01~2019/10/15

614

【深部】

怒りは美しくない

ルサンチマンには

引き攣れた心ばかりで

良い馨りがしない

激しく叩き付ける言葉から

逃げてゆく

煌めく光の粉を埋葬する営みに

救われることを赤子のように悶えて

僥倖を待つばかりの炎

何故不満は醜く

哀しみに美が宿るか

静かな河の中で

暗い森の中で

たしかな沈黙に指を浸し

眼を閉じるとき

清らかな闇が

そっと肩をたたく

遠くで蝶が鳴く

光が水のように

流れてゆく

615

【崩壊】

悲鳴の滝が落ちていく
滝壺には十字架が充ちている
凍結した河が昏倒する
灌木がそれを淫らに隠す
渦を巻く虫たちの祈り
個は既に分散し拡散した
ここは森ではないのに
四季が敷衍されている
永遠の肉体に成れたものたちよ
正しい雷霆を放ち続けよ
弱いものたちが立ち枯れる野に
震える秋を引き裂け
解き放たれる風土に
痙攣する機械を落とせ
斯界には獣の歌
轟く 銃声
崩れ落ちる 時代

616

【果実】

期待値を濡らして
夜が神酒を覓める
風景が心に結われて
名前が崩壊してゆく
工房から聴こえてくる祝詞は
心拍に降り注ぎ
二度と何者も忘却出来ない景色を
そっと象嵌する
「かわいそうなとりが
ゆっくりととんでゆく」
静謐に酩酊しているのだろう
時代のせいにすればよい
浮遊する言葉を捥いで
その蜜を飲みほす

早く明日になれば
世界は美しく
眠り続ける
「実り続ける」

617

【葛藤】

魂の途上で
新しい飛来が起こる
肉と精神に受けた疵の
その鮮やかな思弁
肌がゆるやかに褐色になるように
一番深い表層が煮える
誤解された寿命において
現在の追想は何を語るか
苦しみが揺れる
言葉を揺らす
秘密を打ち明けるなら
それは声である 鏡である 視界である
喜びである 幸福な口唇期を超え
再生と復活の天候が
履歴を一掃し始め
音楽の顔をした何かが
詩に名前をつけられる
油断すれば煩悶が
寝室を蒸留する
葛藤が額を割る
黒が土を錆びさせ
相応しい言葉が
秋を得る

618

【アライブ】

明け方のアガルタが
アサツキを甘やかす
飴色の淡い愛撫が
赫すぎる葦を集める
ありふれた挨拶の足跡が
剰りにも哀愁を扱い
あざとい迄の足音が
暖かい痣になる
嗚呼 闇黒の安逸の暗暁の安堵の塩梅の安住の畔の阿鼻叫喚の水馬が
浅はかで浅ましい雨宿りと
アプリオリな朝を暗殺する
あと少し あともう少し
あっさりと購われる明日を
飛鳥に誂えるアジテイト
飽くまでも顕されるアジトに
曖昧なアン牌が荒らされ
四阿に暴れる海驢が
汎ゆる安寧を漁る
悪魔が阿修羅が阿闍梨が阿弖流為が阿羅漢が阿頼耶識を遊ぶ
アンダルシアの圧迫で
アルハンブラの雨が厚い
愛してる 軋轢に憧れ
あっと云う間に阿吽が溢れ
憐れみと明るみが操る

619

【晴天雨】

マグリットの夜が
背中に迫る秋
神無月の孤独は
旧暦のこたえであった
静謐と母国語のあわいで
甦る自然の希望
反復が反復される
争えない血が炎を奪う
魂が歓喜に震える森で
途中で引き返した小路
ありふれた造形の美術が
歴史を置換する
鮮やかに降る雨が
感謝の夢を濡らす

620

【ロンド】

蒼く光るチュニカ
星の指は晴れるか
刻のダンスは甘い
適温の窓がうたう
秋の樹が寄り添う
枯葉が風と同衾し
忘れていた詩韻が
夏至と冬至を孕む
春の蹠に咲く月光
季節の伴奏に舞う
散るアウフタクト
シンコペーション
稜線に懸かる伝説
悠久の定型の美が
踊る踊る踊る躍る

621

【光】

光の声が聞こえる
せせらぎに透過する
苔むした川の流れに
鄙びた昼下がりの
馨りが吹いて

光の声が聞こえる
金木犀の図法
少しずつ色付く硝子
鮮やかな午餐に
雪からの言葉が混じりはじめる

光の声が聞こえる
幹を飾る西陽が
様々な高さで歌う
霊性の高い会話が
山の神達に聴かれている

光の声が聞こえる
時間が徐々に美しくなる
夜が季節の胸に触れる
強かな夢の陰りに
柔らかに残る 輝きの嬌声

光の声が聞こえる
光の声が聞こえる
白夜にも
驟雨にも
蝕の間さえ

地球の頬に
影を浸す温もりを
いつまでも
いつまでも
唱え続ける

622

【木霊】

朝の山 緑の躑躅の葉
陽がゆっくりと裏側に廻る
風から来たものが
風の中に帰ってゆくとき
川を下る光彩に
夢の断章を視る
透き通る笑顔が
渓谷に木霊していた
もうすぐ紅くなると云うのに
世界は照れくさそうに輝き
それぞれの季節の拍に
なよやかに撓垂れる
今日が来るように
闇が来るだろう
過ぎてゆく四季に
柔らかい足跡が遺る
苔のようにたゆまぬように
詩は森に
歌いつづける

623

【夜】

透明な夜への
止め処ない再会が
霊性までの尺度だ
暗い森のなかで
すだくのは蟲だけではない
煌めく闇のコラージュ
崩壊する冷気の序曲
季節の裏側には
紺碧の精神が刺さる
溶けてゆく視えない道
越境する静かな丘
咆哮する広葉樹
静謐な月
言葉の眼が開いたとき
夜は光になる

624

【旅】

追憶が豊かに波打つ
手触りがまだ暖かく生きる
五感の扉が開き
夢が雪崩れ込むとき
讃美歌の動脈が疼く
血の砂利が河原を造り
喪った渓を想う
流れてゆく睡眠が
海にたどり着く
水の論理のなかで
夢が架け橋となる
永遠と祈りの
たしかな可塑性のために!

625

【恋愛詩】

たなびくスカートの果てに
天の言葉が揺れる
少女の名前には真実が使われ
樹木のように喜びを求める
光の来歴が溜め息を炎やす

「雲が流れてゆくのは
空に歌があるから」

(夜が透けてゆくのは
指が陽をなぞるから)

鋭い恋の呼吸が
読経のように 霊気を護る
諳じられる灯り
切なさに星座が震え
言葉にならない言葉が
静かな詩を生む

626

【血の飛翔】

光だった その匂いは
確かに光だった
夜の炎の下で
頬を撲られた痛み
口から漏れるそれ
緩やかな血の蝶
喉を落ちてゆく呻き
その玉座
切られた硝子に似る
鋭利な泣き声
熱が加えられる
低音が滴り落ちる
指の間から零れる隕石
苔達の静かな唱和
叡知が燠になり
言葉は震撼する
光だった
確かに光だった!
痛覚の塔を登り
空にかえってゆく者よ
降りしきる煩悶を
反射して散れば良い
確かな光に射抜かれ
燃える街を見下ろし。

627

【追憶】

暖かい言語学が
血について猖獗する
不断の精霊が
夢の線路に横たわる
「心が覓めている」
どうしようもなく胸が狭いのは
四季のせいか
それとも呼気のせいか
憧れを薪にする
底面に夜が敷かれる
雨が賛美される
この世の不幸が
全て燃え去ればオーロラ

「焔がスイッチバックする」

さよなら
美しい庭よ
朝はまだ 忘れられない
そこにあった空隙
言葉にされた過去を

628

【風】

風が来る
火を吹いて来る
言葉の磁場を超えて
地軸をゆらして
慟哭と咆哮を彫り
淫靡な余裕を観せ
甘い彫刻刀
稲妻の余力を奪い
赦されない湿潤を割いて
無限とおぼしき枯渇を呑む
おお、叫びは固体であった!
一つずつ割られてゆくコモディティ
何度も何度も吐き出される指たち
ミュンヘンには罵詈の馨り
専門用語がコミットする
難破する思考の泡沫
赦される黴の呻き
深く潜ってゆく語彙
風が来る
火を吹いて来る
涙はよく切れる刃物だ
欲望を片っ端から張り倒してゆく
世界なんて下品な言葉を
容易く使わないでくれ
誤読された感嘆符が
産み出される青い山
ジンカンイタルトコロニ
ジンカンイタルトコロニ青山
何処にも降りることの出来ない感情線
何故聞き取れないのか?
何故言葉は詰まるのか?
腹が減ってゆく
ギリギリの接点が
何とか摩擦を生む
「海なんて」燃やしてしまえ
風が来る
火を吹いて来る
メキシコから来た女が
寒い床に笑顔を溢してゆく
ほら視てごらん
血が滲んで旨そうだろう?
ジンカンイタルトコロニ
セイザンアリ
命乞いしている野分
風が死ぬように
言葉が死ぬだろう
おお、おお、
その鼠径部にあまりにも深い疵
ロクデモナイ声が
未だに芳しい
風か来る
火を吹いて来る
確認される路線図で
血のことについて
食傷してはいないか
オノマトペの主食が
永遠に矛盾する
無限とファックする者たち
詩人の顔をして歌っている者たち
大風の用意は済んだか
恙無き事を祈る

629

【酩酊】

暗殺された理性が
雨に濡れている
縛られていた悔恨の
舗道に額づくとき
頼られているのは
深淵な言葉の連絡である
鍛練するほど酔うのだ
何だこれは?
容易く想起される言葉を
思い出すことに肖ている
干からびてゆくものが
却って育ってゆく
皆 木乃伊に騙されている
美しい甦生について
ジェジュに尋ねにゆく
神殿の形を借りている言葉よ!
酔っていることを忘れてはならない
そのうえ酔いを保たなければならない
投函される墓標に
切手を貼り忘れていないか?
「地声がぞろぞろと排出される」
帰り道、予約された月が
耳の後ろから息を吹きかける

630

【地層】

淡い地形が
使われなかった言葉を
そっと凍らせる
切り口は「永久」にも似た原型
未生以前のモラルが
雲の影を真似る
柔らかい水の鼓動
断層に吸われてゆく精霊
命に交換される音声
淡々と枯れてゆく季節
満遍ない夕暮れが
背後に迫っている
(燃えているかのような樹木!)
母語に無い色
母語にしかない地層
正しい坂を越えて
言葉の裏側に辿り着くとき
揺れる地の果てで
雪解けの炎
流れる

631

【 】

一編の詩が夜を凍らせ
明日には透明な亀裂に
行間を割られるだろう
心の中の言葉以前のものに
名前を付けなければ
そこに懸崖は生まれない
断絶が次から次へ
断絶を砕くだろう
飲み込んでは吐き出し
蒼い影を滲ませるまで
氷山は死なないだろう
すべてが河を流すための
自然の捨象に過ぎない
言葉のうえに楽譜が描かれ
日本語の話者が普く奏者になる
稠密するロゴス
伝説が水源に還る
光あれ詩よ すべての魂を
さきわい給えよ

632

【回転】

無限の回転に頼っている
逆上せた頭で
言葉が枯れてゆく
その向こうに火がある
北極星が代替りする
いちめんの光
流れてゆく生命
どこまでも尾行する月、
影、
名前、
履歴、
わたしであること、
魂に差す傘はない
絶え間なく吐かれる隕石が
摩擦で消えてゆく
流れない水は
やがて揮発し
廻る廻りつづける
廻る免疫
廻る後悔
廻る危惧
廻る花束
廻る警笛
廻る挽歌
廻る潅木
廻る訴求
廻る廻りつづける
わたしが着いてくるので
肩を掴む
そして、のみこむ

633

【神話】

海が流れてゆく街で
僕は森だった
風の神が受胎する夜更け
魚たちの讃美歌が聴こえる
天使の顔をした螺旋に
耳を傾ける下僕たち
王の韻律が彷徨い
天鵞絨の指環が光る
工場が遠くで燃える
馬車が空に駆け出す
ジリコーテの実が墜ちる
天を射るオーロラ

無限の滝とその結晶
血液の祝祭が起きる
祝われた性の誘発
子供たちの残酷な微笑み
犬と猫が嘗め合う尾根
湖に落ちた銅貨
絶え間ない静謐に
支配される遊具
幾重にも割られる氷山
その隙間から飛び立つ無数の骨
蔦が絡まり合うワードローブ
その中で眠る鶯

赤と青と緑の会議
それぞれの発言が記録される
語彙がぬめらかに照る
美しい散文が紙から逃げてゆくのを
ひとつひとつ掴まえては
棺に放り込むのだ
大樹の幹が光りながら濡れる
どこまでも海は流れる
舟は決して追いつけない

634

【斜陽】

四季咲きの風車が
詩を閉じ込める夕刻
高原の草木が
虫たちの疲労を寝かし付ける
一晩中助走し
羽根を渇かす雷鳥
土と風の間に走るいかづち
根を避けて泳ぐ稚魚
空を掘る蚯蚓
見えない雨で喉を潤す土竜
分解された地球が
乳房の形跡を惜しむとき
光線に名前が附けられる
未だ生まれる前の火が
過去を焼べ始めている
丁度今 落ちたばかりの雲が
香気の膜を拡げる
気圏を超える感情に
風が起こる
永遠の夕暮れ
死が変わり
日が変わり
小さな森が
通り過ぎるだけ

635

都市の暗翳が秋の排気を濡らしていた。わたしは完全な球体をポケットに収め、着ていないコートの襟を掻き合わせる。美しい女がエスカレーターに乗り込む様を幻視し、思わず地下鉄の口遊む流行歌を暗譜せざるを得ない。女?は空間の清掃に熱心で、只管に塩を嘗めている。じっくりと滲んでゆくまだ聴いたこともない声が、脳裏から離れない。脊椎を走る快楽が海馬と談笑するのが、遥か概念の埋葬場所に視える。突然の哄笑。女?は実在したのだ!胸の中で美をときほぐしていたのに、わたしはそれと知らずマチエールを定義し続ける秋だ。

636

【哀蚊】

太宰治に
十月の蚊はアワレカと言って
殺してはならない、とあった
今わたしの手の甲から
血を吸っている雌蚊を凝視する
細い管を突き差し
巨人の体液を
旨そうに吸い上げる
体幹が膨らみ縞模様が鮮明になる
そろそろか、と視ていると
管をもう一段階深く
皮膚に差し入れた
いつ果てるかもしれない
貪欲な命
次第にかゆむ皮膚
しばらく待ったが
一向に飛び立つ気配がない
わたしは潰さないように
蚊を撫でるように追い払い
読みさしの本に意識を戻す
すると蚊は
わたしの左足の踝に着地し
また食事を始めた
哀蚊を辞書でひくと
「夏の終わりの人を刺す力もない蚊」とある
大きく腫れる皮膚
嵐のせいで羽音は聴こえない
彼女たちへの繁栄の貢献は
人類への迂遠な裏切り
その幽かな背徳に
わたしは
わたしを
やさしく 掻き毟った

637

【詩人たちへ】

酷い雨が心を撲るとき
その疵は容易く凍るだろう

惨い風が膚を抉るとき
何時までも痕が残るだろう

暴れる闇が過去に忍び込むとき
未来が痩せ細るだろう

歪な情報が尊厳を蹴るとき
思惟が犯されるだろう

いま 詩人に必要なのは
怜悧で優しい声

耐え難い空気の上昇に勝つ
静かすぎる言説

暖かい星をなんのために
集めてきたのか
危急のときにこそ
詩は歌いはじめる


638

【言葉】

美しいものが
この世にあることを
忘れてしまうような
灰色の風が吹くとき
容易く壊れ得る陶器を
胸の闇のなかに
誰もが抱いていた
ことばや眦
触れあったときの圧力で
あっさりと罅割れ
やれた船のように
哀しみの浸水を赦す
もしくは
折角溜めていた温もりを
その亀裂から
土に還すだろう
優しささえ踏み躙り
言葉を奪う
ひくい気圧
その慟哭に克つものは
存在から発する
静かな温もり
少し借りて
安心のときに
そっと返す
そのようなことを
愛と呼ぶなら
器にしまっていた
柔らかい諧謔の種子を
ひとつ掘り起こし

風雨に詰られない透明な苗床に
ひとつぶ
明日を信じるように
埋める
罅は刻が癒す
滾々と器に美しい水が
湧くころ
芽が出るだろう
それが本当の
言葉であれ

639

【別離】

庭のバナナの木を伐りました
あっさり、という音がしそうな程
簡単に折れる枝
小さい鋸で 白い汁を吹きながら
裁断されるからだ
(樹の妖精は痛い、と云います)
たっぷりと汁気を含んだ切断面が
台風一過の陽に晒されて
光彩を放っています

いつもどこかで
誰かが誰かの精を
切り刻んでいるのでしょう
今 まさに
世界に入れられる刃に
人間の瞳孔は小さすぎて
気付けないでしょうか

早くも断面が
黒ずんでいます
謝ってすまないものが
空気に逃げてゆきます

祈るために手を洗います
胸の痛みを忘れないように
じっと流れる水を視ます
矛盾が流れてゆかないので
それは付着せずに
沁み込むのだ、と
誰かわからない者が
教えてくれました

640

【それが炎である】

言葉を燃やして
そこから石を掴む
指は焼け爛れ
瞳孔が引き攣る
その様な筆の中に
詩編は滴り
吐き気をもよおすほどの
過去が黒く削る
その視界の辺縁に
奔り続ける感慨が
夜をもやもやと建てる
その深い傷みの果て
間歇的な血漿の瀑布に
咆哮はあるのだ
人を堕するものには
自ずから火が降るだろう
言葉は勁いものだと
獣のように
想い出すがいい

641

【 】

忘れられた歌の名前が
瞼の燠で呟く
静かにはしる言葉の
優しいつかい方

山に落ちてゆく陽が
闇に滲むとき
枯れてしまった炎は
再び猛りだすだろう

そのかおり
どんな命も
かおりで泣く
(それが歌に咲く春)
言葉の初めだ
痕跡が消えてしまっても
残ってゆく波
世界を揺らし続ける
叫び そして ささやき
その 優しいつかい方についての
火の匂いだ

642

【街】

潔癖の時代
愛には理由がいる
何かを生むと言うことの
いとしい水
(処方箋から零れる
ただ静かな赤)
曖昧な街では
雨が夜を飲む
星が戯れる
名前も無い遊具
記憶が擦り傷を創る
片耳から落ちる雷鳴
力ある言葉が
背筋を流れてゆく
それから
土と星が
ゆっくりと離れてゆく
「確かめる事も出来ない」
何の怒りもなく
愛に距離が生まれる
祈りの言語でさえ
伸びて千切れる程の

そのとき新しい位置が
分娩台に乗る
街路樹とサイネージが
黙示録に なる

643

【空についてのデッサン】

奔流についての韻律が
世界の半分を慈しむ
誰かと誰かを繋ぐ
甘い糸の寓意は
滴る青を
必然の符号に頼る

汲み上げた井戸水が
朝陽に照らされ
そこに浮かび上がる文字を
読み取る至福がある
鳥たちの連詩
魚たちの遡上の説諭
太陽の物語が
暖かい日報として
喉を濡らす

残された世界の半分は
いつも夜だろう
そのことについて
想像するとき
闇はいつも流れてゆく

美しい女性を聴く
さながら一滴のエーテル
生き物を撫でながら
澄んだ空を見上げる
青、

644

【復活】

炎に油断がある
わたしは甦る
水槽が奏でる音楽
星の寿命を測る
熱源が遠ざかる
生命の発生
聖なる高域に配置される弓
波が髪をくしけずるとき
そっと秋が木の実を落とす
天体の嗚咽
その前奏が始まる
奇蹟がゆるやかに燃え立つ
言葉たちが降る夜
人間の背中が
消えようとする火に照らされて
遠ざかる
わたしは甦る
それを見送るために

#詩 #現代詩

いつか詩集を出したいと思っています。その資金に充てさせていただきますので、よろしければサポートをお願いいたします。