twitterにアップした詩たち。2019/09/16~2019/09/30

597

【分水嶺】

口腔が叫ぶ
人の間、至るところに
磁場があるのだ
石は悲しみを知らない
すべてはその後に刻まれる
夜が口を開けて笑う
打ち寄せる感情
頭、に来るとか
腹、が立つとか
胸、が痛いとか
自己は常に分類され
わたしと我々を上手に切り替えない
分裂しないように
傷みの作用点を捜し
わたしとあなたの沸点を捥ぐ
おれとお前の河を裁り分けるのは
ただの言葉
緑に燃え盛る
ただの言葉に過ぎない

598

【風の経路】

星の岐路に立たされ
絶海は信仰をうたう
風の帰路に夢は揺蕩い
まほろばが即ち肉体である
独りである魂は
刻の隔絶を信じ
一分の微睡みが
無限ほどに感じる
お休み 愛するものたち
また同じ場所で逢おう
お早う 愛するものたち
東をぬくめる炎が
揮発させる
狂喜の風
季節の体躯よ

599

【蜻蛉】

蜻蛉が風の絨毯になる

朦朧とした記憶が
世界を浸潤してゆく

「時が少しずつ詰まってゆくのは
言霊のせいだったか?」

緑が剥がされてゆく
空が透過性を増す

生まれたての季節が
静かに死んでゆく

柔らかい敷物の下
次の風を育てながら


600

【無限の井戸】

無限の井戸が
胸の中にある
胸に痣のある獣が
時々水を飲みに来る
そこには世界の履歴の断章が
滾滾と湧き
視えない程の生命が
死と嘘を繰り返している
「疵を洗うのに相応しい液体」
打ち寄せる月の揺らめき
呼称がすべて沈澱し
釣瓶が星の亡骸である
水を汲み尽くしてはいけない
少し言葉を残し
月光や南中する獅子を
睡らせなければなない
水源からゆっくりと滲む
血のような罵声
地中を駈けてゆく鳥が
けたたましく啄む歴程
罅割れた液体が
幻の喉を
冷たく潤すとき
おれの声は勝手に
詩の残滓を
叫ぶ

601

孔の空いた白橋に
夜の太陽が横たわる
橋から落ちれば
境界を越えるから
「左折することも出来ない」
夜は独りでに優しく
眠れない夢を撫で
正し過ぎるサインが
「今は佇む時」と 置く

遠く橋を渡る勇敢の
打ち寄せる汀を
今は御待ちなさい
これ以上
涙で路を濡らす前に

602

【呼吸】

頭蓋が一時の胡弓を鳴らす
無花果がもたらす透明な味覚。
その果てにある暗闇。
眼を閉じた後に
もう一度閉じられる瞼。
浸透してゆく音楽が
宇宙にとって周波である。
無限後退する韻律に
鮮やかな詩が感嘆符を落とす。
さようなら 蝟まる者たち
ひとりびとりの音色が重なるとき
孤独な集合体が密かに群発し、
季節は寂しく燃える。

603

【深く潜る】

火の粉が耳穴に届く
深い膜が震動する
変拍子の星辰が
地雷原を敢行する
映し出された無意識
迸る 迸る 迸る北極星
次々と吐き出される印象画
割れては薙ぐ空のフラスコの中で
沸々と形成されるホムンクルス
掴み出された心象が
蛸のように交わう
猛烈な懺悔を詠み
神様は語源にまします
宇宙 律動 宇宙風の風威
どうしてこうも抵抗が?
前進を遮られ肋骨が順番に撓む
虹の影が森に落ちるように
ゴビの地を這うアミュレット
「内面の混沌が言葉として射出され」
透明な天の中心に着床する
詩という名前の澄んだ液体に
新たな相が注ぎ込まれる
硬い孔から少しずつ流れ出る
隠喩を放ちながら

604

ゆらゆらゆれる夢
生い茂る一瞥
風を愛撫する指
透明な思想が
肉体の曲線を爆ぜる
水のような季節に
永遠を祈る瞳
声の中にある声が
花々と唱和する
太陽が優しい記憶
神様の木漏れ日が
人の核(さね)を温める
ゆらゆらゆれる夢
揺れるだけの余地を
観測するうちに
新しい落涙がはじまる
黎明がはじまる

【ゆれる】

605

リラ色の飛行機が
宜なるかな 夜を排気している
セールスマネージャーが
パラシュートを開いて
空の中に吸い込まれてゆく
重篤な塔がそれに追い付く
マゼンダの薫りが
おまえの髪から漂う
語気が荒くなるガラス窓に
未来の肖像が映し出される
おれたちの柔らかい過去が
真っ逆さまに滑空する
もうすぐ着陸する
スピードが媚薬される
加速度で破壊される言語に
美しい地下がある
上空に落下するように
中心に拡散する魂
スプーンに朝日が当たる
口含むと発芽する
土の中の温み
飛行機雲が直角に燃える
花の種子のように
塔が静かに聳える

606

【星の呼吸】

海の絶叫が休暇する
横たわる過去に
潜在する要素がある
鳥達の囈言が
秋の汀に寒い
少女が森に入っていく
声の生え変わる時期だ
美しい地面に
絶え間なく刻まれる陽光
サイクルが結局は言葉である
足元が割れて
青い星が拡がる
空が割れて
大量の貝殻が降る
滑らかな太股に
虹が建っている
それこそが
星の呼吸
海の絶歌

607

臨界の左舷には
寄る辺なき光が視える
周遊する湖水には乱反射の蝶
歴史は静かにカルデラに耽ってゆく
党派は寡黙さを耳に棲まわせて
嗚咽にも似た太陽が福音を呟く
伝染するアトモスフェアの天稟
概念の百合が馨りを放っている
動脈に肖る相貌の光
アウタルキーの稟質が
科学の中で安らかに割れる

【波】

608

【恐怖論】

異化の落差が恐怖であるとき
その安心が笑いとなる
「不可思議の中にしか美は存在しない」
誰が果たして灼熱の沼に腕を浸し
その奥に睡る落款を握り締めるのか
火がゆっくりと脳内物質を抓み
文字通り霊気を搾取する
雨がビルの中に立っている
それから
血の跡がコンクリートやガラスに遺る
笑い声が秘書室になり
沈黙の歯が警邏している
セキュリティキーは位牌で燃え
ストゥーバの階段が暗い
躍り出る約款 その文字を成す鳥たち
羽音が肋骨になるとき
金庫から湧き出る痩せた女
魚の首が校門に刺さっている
深夜二時の白線はしばしば黝ずみ
窓には女性名詞の亀裂が入る
陰湿な回廊から食み出した者達の
孤独を餌にする黒板が
チョークの中の蛾を
静かに火葬している
卒業するには ある種の憑物が
不可欠であった 即ち
変質は繰り返される
家庭でも、ラボでも、裁判所でも、路上でも、車内でも、競技場でも、ステージでも、街中でも、森林でも、病院でも、役所でも、宇宙でも、深海でも

それは眼を汚し脳を汚し言葉を汚し振る舞いを汚し、ひとつの朗読として血の理解になる凶器である

609

【誰何】

最後の場所にいた女は誰だったか?
漂白された幻術が問答を確約する
世界は逐一 確かめられ総てが侵入する
真実のことは真実に尋くのが良い
美についての肩の重さが嗚咽を孕む
言語だけではない言葉が鯨飲する音
鏡が割られる度に偶発する悲鳴
小刻みに肉が詠うので耳を塞ぐ必要がある
羽が散っているときに撮った写真に無数のオーブが写る
声に殺される快感が視線として胃を掴む
交流と直流が過たれて台詞は詩の構成を持つ
最後の場所にいた女は誰だったか?
笑い声が壁を割り
地面に無数の杭が打たれる
全てかゆっくりと暗転し
電灯に名前が付けられてゆく
蟀谷に罅が入るとき草原に雨が刺さる
呂律の犠牲になった高揚が爪から零れ続ける
詩だ 総てが詩だ 人間と言う単語で出来た詩だ
組織と言う文法で出来た詩だ
歴史と言う詩集の一編の詩だ
死だ 総てが死だ 異化に与えられた不安の根元的な未来は死だ
言葉に依って与えられた場所のその空間に死が満ちてゆく
時間が生き生きと死んでゆく
最初の場所にいた女は誰だったか?
それを連れて帰って来たのは
誰だったか?

610

【秋の声】

滑翔する月長石が
朝の風を傾かせている
長い間寝そべっていた林が
気付けば森になるのに
一体どれだけの時間が
必要だっただろう?
湖を跳ねる獣達の窓
形通りのリズムに
座面は速やかに濡れる
言葉を愛しているものが
言葉に溺れてゆくのを横目に
音楽はつづいてゆく
傾く樹木のなか
夢視る漣のした
時の窓の向こう
濡れた月の真下で
秋の声だけが聴こえる

611

傘が何に肖ているか
人々は知らなければならない
夜が降ってくるのを
闇に濡れてしまうのを
その死で想起しなければならい
草が眠っている岩石の
その麓の温もりを手織り
地面に根を張る水に
生前の天気図を
問い続けなければならない
その拡がる様が邪悪であると
自らのリズムに賭けて
宣言しなければならない
傘よ祈れ
雨よりも優しい夢に
美しく燃える幹に
地球を踏む光に
限り無く人造の
言葉を護り続けよ

612

【風】

靴が秋の風を滑り
太陽に進んでいくとき
鉄柱が朝の見えない星を刺すだろう
地盤が涙を流して赦しを乞うとき
夢は水平の世界を装飾する
朗々と声は体の芯の疲労を慰め
持って帰ってきたものを
生贄として正しい神に供える
匿名の座席には美しい権利が座る
その時彼方では犬が吠える
優しい人が泣く
灯が勝手に堕ちる
夜が懐かしい
太陽が真摯に燃えている間
秋に刺さる地球

613

【マーケット】

闇の側面が激昂する市場では
少女だったものが
堂々と売られている
ソドムについての見解が縛られ
脱臼した貨幣が流通する
関税のかけられた言葉には
少女を蘇生させる魔力があり
河を昇ってゆく枝が
賄賂を握らせていると気付く
紫色の商品に客の唾液が飛ぶ
鏡面に磨かれた野菜が発芽する前に
道幅は無力にも拡張される
この店では火事が売られ
あの店では葬儀が売られる
電気の痕跡が委託される世代
最寄品には呪いがかかっている
遠くでは工場が燃える
漏れ出た顧客名簿には
呪文が犇めいている

#詩 #現代詩


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