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僕の好きな詩について 第三十五回 町田康

おはようございます。あれ、今年がもうあと二ヶ月間も無いのでは、、?ふおぉ。(言葉にならない)

さて、第三十五回、今回の詩は町田 康氏です。サイケな世界観です。ではどうぞ。
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「俺は走る」町田康

俺は臭い森を抜け家郷に走る
俺は臭い森を走る
痰と唾で輝く大地
その大地を走る俺
まるで黒粒のようだろう

秩序がひかり輝く家郷
左右の両巨頭が手を結び
邪悪と悪徳が輪切りになって放置されている

俺の家郷では
俺の大地では

しかし凪

家郷でない場所で俺の心は凪いだ

武運赫奕
そんなものは褒め殺しだ
若い俺を殺したのは誰?
苦い俺を苦しめたのは誰?

俺はお調子者だった
みなが喝采するものだから
わざと気取って気障な振る舞い
バーで酢を持ってこさせて
それを一気に飲んだりした
そして口をすぼめて俺は笑ったのだ
酸っぱさをこらえて
うはうはうは、と、或いは
いひいひいひ、と

しかし俺は知っている
おまえらは口では、スゴーイ、なんて賛嘆供養しながら
内心では俺を軽蔑していただろう
おまえの心の楽屋
それは女の楽屋だ
マックスファクターやカネボーが ばらばらに散乱している

だからもう俺は
おまえらを捨てて家郷を目差す
ぬめり輝く大地を走る
臭い森を通り抜けて
家郷を目差す

はあはあいって
心臓の痛みをこらえ
俺は家郷を目差して
臭い森を通り抜けて
輝く大地を走る

家郷を目差す
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謎の疾走感が心地好い逸品ですね。

伝説のパンクバンド「INU」でデビューしその後三ヶ月で解散。それから無数のバンドやユニットを経て小説家になり賞を採りまくるというすごい人、町田康、またの名を町田町蔵氏。

僕も昔「くっすん大黒」とか「夫婦茶碗」を夢中になって読みましたし、なんだかよく分からない侭「けものがれ、俺らの猿と」の映画版を観たりしました。

この方の文章は小説もエッセイも歴史物まで読んでて夢を見ているような心地になります(どちらかというと悪夢)。

今回たまたま違う作者の本を図書館で探していて見付けた町田康氏でしたが、久しぶりにがっつり読み直してみようかなと思いました。皆様も「不安定だけど疾走してるから倒れない感じ」が欲しいときは是非読んでみてください。


#詩 #現代詩 #町田康 #土間の四十八滝 #俺は走る

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