twitterにアップした詩たち。2019/2/16~2019/2/28
176
【祈り】
例えば妻が
血を吐いて倒れたとして
俺や誰かの書いた詩が
その血を止めるだろうか
どれだけ愛しても
詩の 言葉の 美の力は
その程度に過ぎない
そして そのように
詩は現在を変えられず
過去は嘘にしてしまう
詩と言葉が干渉できるのは
ただ手遅れの
未来だけに過ぎない
そんな言葉など
燃えつきてしまえばいい
天の灰になればいい
そして
暖かくしたい
喜ばせない
悲しませたくない
そんな想像力を
優しさなどと呼ぶな
そんなものは
言葉と同じく
一服の止血剤を拒む
その意思に勝てはしない
あまり長生きしたくないなんて
言わないでおくれ
たのむから
この文章は詩ではない
祈り
絶対者不在の祈り
ああどうか
二つながら
護らせたまえ
愛するものを
二つながら、
あの人と
それでも
ことばを
177
少女たちはいつも
自らの一瞬の価値を
兌換していた
最果てのヒエラルキーは
しばらく長者に次いで
少女 ここ数十年は
彼女達はいつも賢く
誰かを蔑みたい
毎年新しい魚たちが
海に光るように
電車の床に座り込んでいた者も
今では幼子を膝にのせ
未来のことについて
少し怯えている
【時価】
178
春を分ける
清い明かり
穀霊の雨
立つ夏の夜
小さく満ちる
芒の種子
夏に至り
小々暑い
大部暑い
立つ秋の夕暮れ
処さねばならぬ暑さ、を
白い露が来て
秋が分かたれる
寒い露が来て
霜が降りつ
立つ冬のつとめて
小々の雪
大部雪
冬に至り
小々寒い
大部寒い
立つ春の曙
雨の水よ
啓け、蟄を。
179
ビーガンの人も
母乳はあげるんだろう?
特例なんて駄目さ
矛盾を許容するのが優しさって
言ってたのだれだっけ?
俺の手のなかにある光は
意識したときに生まれるから
ほんとは お前にもある
見えてるひとと
見えてないひとの
違いは何かな
俺がユタの末裔だからかな
でも見えない奴にでも
あげられるからさ
貰っといてくれよ
愛してるよ 言葉は嘘だけど
特例なんて無い
光は嘘をつかない
180
静かな湖が
病んでいくのが分かる
体の繊維の奥で
誰も采配をふるわない
黎明にも似た空腹
薬は毒の異体字
空咳が掌をファックする
只管重い肺胞 肺胞 仕事が好き
体の廃坑を小人達が採掘する
徘徊する 闊歩する 跋扈する
死にたくないなあ。
妻よ
もう少しだけ
鹹湖の水液を
頒ちあいたい
181
男の子が
脳死と認定され
その幼い臓器が
待つ人に移植される
ご両親は
「求められれば
なんでもあげる子だったので
本人の意思に
添っていると」
なんでも
なんでも
なんでも
あげる
形を変えて
生き永らえる
少年
そこに
幽かな希望を抱くご両親
命永らえる若い患者たち
とそのご家族の喜び
携わる医師たち
報道する者たち
移ろう肝臓や、腎臓
の気持ち
なんでも
なんでも
なんでも
あげる
優しさが満ちている
(ことになってしまった)
空洞
額縁の、笑顔
182
久しぶりに虫歯が痛む
命って なんだっけ
そう言えば
なんで人が亡くなると
悔しいんだろう?
喘息の
発作が出たよ
水飲んで寝たら
少し良くなったけど
昔骨髄バンクに登録して
適合者が見付かりました
って云うから病院行ったら
1年前の喘息の既往歴で
弾かれちゃったよ
あの時の患者さん
どうなったのかな
生きていてほしい
あなたも
生まれてきた意味とか
まだよく分かんないかも
知れないけどさ
出来るだけ生きてほしい
虫歯がいたいな
菌すら必死に生きてる
183
【ナワスレソ】
才能とは
美しい欠落
本当は他者の気持ちなど
微塵も解らない氷の心の上に
優しいひとはこうするだろうと
真似て慈しむ
いわば想像力の想像
過去の苦しみや自らの弱さを
着飾って披露する
糞便のようなわざは
与えているようで
実は奪っているのだ
決して
忘れてはならない
優しい悪は
被害者の仮面を被り
すぐ側に在る
悪は一見
才能にみえる
184
言葉の秘密を知ってる
言葉が人を動かす
その仕組みと悲しみを。
感情と記憶の
編み物の縫い方を
歴史と損得の
うたの音程を
罪と罰の
車輪の運転を
思い遣りと厳しさの
傘のさし方を
言葉の耳はいつも
静かにあなたの声を
集めている
そこに隠った死の影と
美しい行いを
優しく蹴り飛ばすために
185
胸の中の猫が
一日の寒い時間に
ごろごろと甘える
すると咳が出て
異物を排斥しようと
肉体が斗うのが分かる
名前はないけれど
幼い頃からの
友達
男は
大きな孤独の前で
楽勝、とでも云うように
ニヤリと笑わなければならない
その時
胸の中の猫は
紫煙に呼ばれて
ゴロゴロと
寂しさとじゃれるのだ
186
常夜灯が消える
部屋に潜んでいた獣が
夜に帰っていった
カーテンを揺らして
僕は詩の涙を流し
闇の文目がつかない
ありがとう
美しい翅
僕は忘れない
消されてしまった歌
昂った夜の言砂
187
不可逆の舟の甲板に
悲しみと安寧が風を受ける
舳(みよし)が水を切り
巨大な河をくだる
いくつかの舟が
並んで為す 美しい隊列
旧いもの 技巧を凝らしたもの
舶来のもの 形のないもの
朝日が差している
海が近い
揺れる木の葉の影が
風を描くように
韻律を抱いて光る
舟達の群れ
188
ひわ色のクリシェが
黄昏をなめてゆくので
耳から咲いた蒲公英が
笑った気がしました
明日の準備と
人生の宿題が
透明な鞄にいっぱいにつまって
帰らない未来が
下駄箱を疎らに埋めます
外れた管楽器の匂いと
走る男子の色
やわらかいさよならが
けだるく恋をしてました
【放課後】
189
死に墓石と神話があるように
生に詩と詠唱がありたい
過去に錠と瑕があるように
未来に光線と筆蹟がありたい
森に死と触角があるように
海に陽光と出帆がありたい
感情に混融や迷入があるように
理性に気丈と柔和がありたい
源に混沌と包摂があるように
先端に革命と昇華がありたい
月に引力とクレータがあるように
太陽に黒焔とフレアがありたい
神話に太古とセックスがあるように
終末に躍りと祈りがありたい
詠唱に敬虔と奇蹟があるように
叙唱に独白と崇敬がありたい
錠前に秘密と選別があるように
鍵穴に解放と餞別がありたい
真実に冷淡さと完結があるように
誤謬に間歇と曖昧がありたい
陽光に温もりと萌芽があるように
月光に伝説と眠りがありたい
並列と陰陽のなかで
慟哭と輪廻がしたい
190
言葉は(それ)ではない
(悲哀)は悲しみ
そのものではない
けれど決して
(全てが嘘()虚)という訳ではない
言葉と(それそのもの)の間に
流れる深い河に口をつける
話者の精神だけではない
季節の温感
そのようなものが確かにある
誰も気づかない
自転のような
さりげない永遠が
その河には
ある
191
3匹の生物が
冬を囀ずっている
青い海獺は仄々と
紅い栗鼠は胡桃を貯蔵し
傍若無人な洗熊は何もしない
(嗚呼、冬)、と、想うとき
森々とした、優しい孤独
美しい不羈、の、とう
冬をひさぐ者が
品を春にした
季節が過ぎるとき
獣たちは惜し気もなく
昨日の会話を
脱ぎ捨ててゆく
192
新たな畏怖を産まなければならない
現世のifの総量が減少している
情報の河が氾濫し
生理的の傷が追憶の眼球を抉る
美談が純粋な地獄を隠匿し
無嘘の輝きを溶かす
世界で綯われた鎖が
擦りあわされて切れる
鳥肌も立たずに
傷だけがついてゆく
現代の恐怖は
冥い
193
オーニソプターに載って
滑空する感情
それはあなたの耳を霞め
記憶に辿り着きたい
(鼓膜を揺らすのは
限りなく撫でるのに近い)
肩に風 そびらに空をうけ
柔らかく突き刺されレドーム
いつか朝に溶ける前に
羽よ
光をはこべ
194
彼女はテレビを消す
彼女はコートを着る
彼女は鞄をかける
彼女はブーツをはく
彼女はマスクをする
彼女はイヤフォンをはめる
彼女は電灯を消す
彼女は玄関から出る
彼女は鍵をかける
残された夕暮れが
静かに 逝く
195
1
7人の詩人 食卓に集う
食卓に蝟集し死海を詠う
ひとりは呶
ひとりは礼
ひとりは視(Mi)
ひとりは華(huá)
ひとりは祖
ひとりは裸
ひとりは師
について担っている
2
呶のものは喋り
無限にわらう
人々を導き 女衒を装う
礼のものは女性
馬の群れから来る
甘い猫に光を添える
3
視のものも女性
巷より来たれり
蒼い蒼い言葉を
丁寧に植える
華のものも女性
意外と近くにいる
髪も服も高貴で
薬のせいて少し睡い
4
祖のものはおとこ
あまり眠らないので
神様に愛されている
裸のものもおとこ
美声と耳殻の良さと
迸る優しさの
書物を携える
5
師のものは死を愛す
甚大な愛すべき諧謔
新しい扉を索め
闇を睥睨する
7人はうたう
宴を囲み 血と漿液と
愛と蹉跌と 血塗れの額と
様々な詩人の道の行方を
ひとりも驕らず
調和の上に
屹立すること
その事でもはや
鎮魂歌だと
誰も知らない
196
小さな恋は
ふたりを
かばん語のように
分かちがたく
する
体温はいつも
移動している
魂も 知識も 意思もすべて
熱いものは うごく
冷たいところへ
くっついた言葉の
意味が均され
恋は かたく 膨らむ
偽恋が
誠情になり
唇の間で
熱が
飽蒸 する
197
【尾行】
闇に屹立する男
トレンチコートの裡
鉄塊が持ち重る
ハットを目深に被って
眦の刺傷を匿す
1ブロック先の獲物は
他者に観られないよう
静かに四面を探りながら
深闇に向かってゆく
獲物もまた何者かを
追跡している
追跡するものを追跡する夜更
曇天に稀に通る対向車ばかり
眩い
追跡されるもの
に追跡されるものもまた
何者かを追跡し、逆無限退行
その時
疾風が叢雲を流し
月光が男の背中を照らす
男の1ブロック背後
ハットとトレンチコートの男が
こちらを観察している
満月に照らされた
その男の眦にも
刺傷
光る闇の中
無限の男たちの傷が
振り返る
持ち重る
銃
198
交差点を歩いている亡霊
誰にもぶつからない
誰にも聞こえない
未練があるわけでもない
成仏したくないわけじゃない
夕日が透ける
見上げると 天からの血が
全ての歩行者を透過している
一歩ずつ 足が消えていく
世界の真実に触れた日
歩く全てのものが
掻き消えてゆく
黄金の黄昏
199
誰もが抱いている
心の水晶を
言葉で砕く
水晶割り
彼(彼女かもしれない)
優しい言葉で
少しずつ 美しい心に
皹を入れ
ほどよい頃に
一気に仕事にかかる
水晶を割られたものは
皆 一様に泣く はじめは
しかし
いつか気付く
肥大しすぎると
胸腔を内から圧迫し
持ち主の世界を内部から
浸食する美しいだけのその珠が
砕かれることで
傷付かなかった想いが
あったかも知れないと
水晶割りは
皆に疎まれながら
粛々と
自らの仕事を熟(こな)す
200
月明りは皓々
その光 焙煎し
一日の精を飲ましむ
哀しみの
衷心より来たれるあり
温もりの
渙発より来たれるもあり
風伯の静かに恕す夜
闇夜越しの龍神様が
朝の尖端を奔る
静謐が哭いているのが
聴こえる
201
ことばを きずつけられたものが
やさしさのはてに
こころをすいとられてゆく
せかいじゅうでみられる
みえない さくしゅ
どうかあなたの
きずついた ことばに
やさしいきせつと
あんしんのひかりが
むかえにきます
ように
うつくしい なまえが
ほんとうの おとが
おとずれますように
いつか詩集を出したいと思っています。その資金に充てさせていただきますので、よろしければサポートをお願いいたします。