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僕の好きな詩について。第四十四回 西脇順三郎

僕の好きな詩について好き放題言うnote、第四十四回目は、シュルレアリスムの巨人、西脇順三郎です。

1000行を超える詩もありますが、短めで有名なものを幾つか。

ではどうぞ。

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天気
 
(覆された宝石)のような朝
何人か戸口にて誰かとささやく
それは神の生誕の日


太陽

カルモヂインの田舎は大理石の産地で
其処で私は夏をすごしたことがあった
ヒバリもいないし 蛇も出ない
ただ青いスモモの藪から太陽が出て
またスモモの藪へ沈む
少年は小川でドルフィンを捉えて笑った





南風は柔い女神をもたらした。
青銅をぬらした、噴水をぬらした、
ツバメの羽と黄金の毛をぬらした、
潮をぬらし、砂をぬらし、魚をぬらした。
静かに寺院と風呂場と劇場をぬらした、
この静かな柔い女神の行列が
私の舌をぬらした。



旅人かへらず 

旅人は待てよ
このかすかな泉に
舌を濡らす前に
考へよ人生の旅人
汝もまた岩間からしみ出た
水霊にすぎない
この考へる水も永劫には流れない
永劫の或時にひからびる
ああかけすが鳴いてやかましい
時々この水の中から
花をかざした幻影の人が出る
永遠の生命を求めるは夢
流れ去る生命のせせらぎに
思ひを捨て遂に
永劫の断崖より落ちて
消え失せんと望むはうつつ
さう言ふはこの幻影の河童
村や町へ水から出て遊びに来る
浮雲の影に水草ののびる頃

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西脇氏は友人の娘の女学生に「何故詩を書くのですか?」と尋ねられ、「それは、美しいものが書きたいから、、」と答えたと言います。

確かに「天気」の覆された宝石や「太陽」のドルフィンの暗喩の美麗さは筆舌に尽くしがたいです。

西脇氏は激烈ひねくれもののようで、最初英語で詩集を出版しますが、萩原朔太郎の「月に吠える」を読んで、日本語の詩の可能性に目覚め、日本での第一詩集「Ambarvalia」を300部だけ出版します。このたった300冊の本が、その後の日本の詩壇を(結果として)決定的に変容させます。

西脇氏はノーベル文学賞を取るか!と目された程の文豪で、第二次世界対戦中に戦意賞揚の詩を(金子光晴氏と並んで)書かなかったことでも後輩の詩人諸氏に物凄く尊敬されており、その影響は直接間接を問わず計り知れません。

彼の「詩学」という書籍は本当にお薦めで、碩学によるポエジーの究明は、(何故か)あまり上手じゃない日本語も相俟って、それ自体が長い散文詩のようです。詩「論」ではなく、「詩学」。そこに西脇氏の意志と矜持が感じられます。

絵の学校に通おうとしたこともあり、終生絵も書き続けた西脇氏の詩の行間には東洋美術の精気が滾々と湧いています。

美しいものを。その意志は瀧口修造や田村隆一や吉岡実や多くの天才達に引き継がれてゆきます。

#詩 #現代詩 #西脇順三郎 #旅人かへらず #あむぶるわりあ

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ハル(黒崎晴臣)
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