twitterにアップした詩たち。2019/3/1~2019/3/16
202
オルガン
が
鳴る
太陽神経叢から
響く
美しい地獄
"誘惑者に注意せよ"
と、
ヴェルレーヌの言葉が痛い
コンパーティブル(相性の良い)
な
オルガン、は
【適合臓器】
聖堂に高らかに歌う
内臓
その賛美と
十字架
203
雨は空の色
透き通る輪廻の色
晴れている日の雨垂れ
雪は空の色
空を路傍に積み上げる
白くそのうち夜
涙は何の色?
唾液は
血は
何の光?
心が赤い
上澄みだけが
透明
204
燃えるような言葉が
過去を優しく焼べる
わたしは掬えない
言葉が救えない
いつも言葉に潜む
他者がなぜか暖かい
あなたはなぜ
そんなに柔らかく
口と喉を撫でて
胸に滲むの?
心の声を聞く耳が
静かに透き通る
湖面になる
火が すぐ そばで
はぜる
205
天空のデキャンタを
倒してしまったから
空にひかりがあふれ
傷口に沁みています
喉元を過ぎた様に
思い出が散る夜が
来てしまう季節が
往々にして在って
だから太陽の様に
永遠で、ありたい
時が来れば自然と
硝子の容器は起き
静かに朝は溜まる
白ワイン 血に残る
せめて、永遠でありたい
206
くるっと回って
にこっと笑って
さらっと浚って
ころっと参る
ふらっと寄って
ぽろっと溢して
がらっと変わって
じわっと泣ける
ずばっと宣い
するっと逃げる
ずるっと剥けて
ぶるっと寒い
ぱかっと開いて
ざばっと被って
がばっと覆って
ぱりっと乾く
むしっと湿度が
めりっと割れて
もじっと照れる
ふわっと優しく
さらっと撫でて
すかっと快晴
さくっと帰って
がぶっとひと口
ごくっと飲み干し
すらっと立った
しまったこれは
すぱっと終われん
スコッチ呑んで
しれっとこれにて
207
柔らかいカトラリー
で食んでいた愛が
無言の終着駅に
捨てられたりする
食卓の思い出が車輪に挟まって
最果てまで運ばれたら
遅延証明書には
なんと書かれるのだろう
電車の上りと下りの腰付き
踏み切りが鳴る
ナイフの落ちる音
終点で吐き出される
無数の
客
208
チャンネルを合わせている
背中に気配がする
目を閉じると顔が浮かぶ
何度も名前を呼ぶ
香りの記憶を探す
声が脳裏に響く
一緒に並んだ道を
ゆっくり過ごした午後を
共に傘差した雨を
増えていった通話時間を
どんなに離れていても
チャンネルは繋がる
優しい孤独の始まり
それは絶望の終わり
209
曖昧なニュアンスが
蒙昧として不定
定まらぬ蟠りが
模糊のイデア
量子力学さながらの
万物の流転
重ねれば重ねるほど
触れられぬ真実
感情は熱
空気は風
言葉は音と紙
電子は光
確かということの
頼りなさの果てに
微かな影の響きが
心をそよいで
優しさを赦したりする
210
おもかげがかさなって
ひとびとの かおは すくない
だれもかれも あのひとに みえる
おもいでだけ あるいてくる よる
がいろじゅが がいとうを
せにうけて だんせいは ぎゃっこう
する ひとごみを
かおのないきせつ
はなのなも ゆきのなも
あいまい
211
コノテーションと
デノテーションが
コンフェッティと
シャルウィダンス
シニフィエと
シニフィアンが
フェットチーネと
スウィングしてた
ランゲージを食む
パロールとラング
ラング ド シャが
サリサリ甘い
コトバアソビ
ハオシマイ
(ココマデヨン
デクレテアリガトウ)
アナタノ言葉
ガスキ
212
あなたとあなたは
ぼくを挟んで 対の存在
僕と彼は
あなたを挟んで 対の存在
とても似ている
離れているのに干渉しあう
あの人とあの人が似ている
そう思うとき選択が始まる
人生がクイズを出す
答えはどこにも記載されない
過ちだけが
未来の中で優しいのだ
ただ過ちだけが
213
天から降る言葉に
わたしは傘をささない
光に濡れる歓び
前髪を落ちる雫の
その温もり
どうしても あの時
言えなかった気持ちを
空が代弁する
街をゆくひとびとの
色とりどりの傘を
輝かせ跳ねる
追憶の波紋
わたしと輪唱する
かつて空だった
詩
214
円本を買い漁る
少年は書斎で
父親の初版本に
憧れていた
白秋も直哉も
龍之介も一葉も
有明も鴎外も
言葉の蝶と戯れて
綺麗な本に展翅した
少年は虫取り網を
胸に描いて
書斎の森で狩人になる
戦争の音が
遠くでする
少年は
蝶が焼け出されないか
ぼんやりと心配している
215
ガラスが
くだけて 散るのが
ゆっくり 見える
とうめいで
かたい液体
が
わたしたちを風雨から
まもっていた
柔らかな
心をまもる
とうめいで かたい
水が
くだけて光るとき
それは目には見えない
さらけだす者が
涙するとき
すでに ておくれで
透きとおる血漿は
うたうことしか できない
216
11弦楽器"ウード"
宗教で調律が変わる
典獄が牢を開けるような
寂れた音階や
糸を引く月光が
胸元に垂れる倚音
炎の震源を受胎するメロディ
その中から
光っては滅んでゆくリズム
オリエンタルな休符
インサニティな調性
分裂する12月
一本足りない架空の絃
が縒れてなる月
217
自画像の中の
未完成の男が
唇を動かす
画家は耳を欹て
乾きかけた油絵具の
剥がれては着く音を
聴く
結局 絵の言葉は
判じられず
画家は立ち去る
絵の中の男が
無人の部屋で
自画像を描き始め
呟く
四/死角の中で続く
永遠
絵の中の画家までも
退席し また自画像が
描かれる
218
さんがつのさくらが
さよならを ささやく
いくつになったって
わかれは じょうずにならない
つぼみのなかにある
やわらかなみらいが
うごきだすけはいを
ゆうひのなか
ひからせている
219
猥雑な街をゆく
売人が指先を舐める
万引犯が客の顔をする
青春が兌換される
閉店して開店する店舗
嗤う娼婦
塵埃に絡む塵埃
いつかの血痕
膝を抱く黒い存在
残飯を漁り
街が火傷する
売人の吐き棄てた煙草で
リムジンでよぎる政治家
合うべき眼が合わない
歴史だけが排水溝に
吸い込まれてゆく
220
シオンの丘
羽根が降る
神様のいないところに
静かな湖がある
天使は豹に乗りたがり
堕天使は鴉を喚ぶ
陽の光のなかに
讃美歌が金色
どこにもゆけない過去を
優しく くるむ
聖なる水
落下しかないのか
飛翔さえ 揮発さえ
天へ墜ちる旅程か
気圏に泛かばない
耽溺する 静謐の
影
221
風の中に
春の絵の具がまざる
入学式や
新たな出逢いの
旧い記憶が
はなうたを歌い出すとき
街路樹の幹の後ろから
優しい朝日が
のぞく
青かったあの春
樹の幹の皮の内側
剥き出しの導管から
溶け出した色が
季節の馨りになり
今
よみがえるのだ
222
虹の麓を濡らす
鍍金の剥がし方を
誰も教えてくれない
夜になったら
否応もなく
通過儀礼に投げ込まれ
使途の振りを
せなばならない
荼毘に付せない後悔
天に召された
優しい言葉
いつか旅立つ
抽象
それらが
光の河を下り
静かな偽物の
聖なる森を
芽吹かせようとしている
223
ペットボトルの中を
雨が泳いで行く
ブラックウォッチの呂律が
春を撥水しない
亀裂に染み込んで行く
過去の季節と
季節の過去の楽音
雷のシンバルと
窓を撃つロール
下ろし立てのスニーカーを
ねぶりながら
細やかに
地球はうたうように泣く
224
架橋が溶けてしまったので
あなたの言葉は届かない
見えない部分を司る
コンクリートの箴言
労働者たちの思念
その残滓が
届くと言う音の意味を忌む
白蟻たちに再建される橋
剥がれてゆく目的
摩擦とその係数が
モンスーンを考慮しない
割れてゆく大地
その人心にかかる
セメントの
虹
225
春雷と
黄昏の美術室
鑢のバスタオルに
包まれた
トルソ
石膏の唇が
罅割れの
うたをうたう
画架から
青い血が滑り落ちる
食麵麭を食べさせ合う
顧問と生徒
停電と雷光
どうしても美しい
一瞬の横顔
割れて倒れる
胸像
226
夜の深海
そこにのみ住む
海月が啼く
月の涙腺
赤潮の嗚咽を割って
天の破風に
帰ってゆく
なんの象徴でも
なんの暗喩でもない
空をゆく
海月が
文字通り
儚く満ちて欠ける
乳歯のような星が
流れる
227
たった一言の侮蔑で
氾濫する河
たった一瞥の矛盾で
崩落するダム
たった一毫の油断で
逃げ出す家畜たち
たった一瞬の悠久で
燃え尽きる星
だれもかれも
ゆっくりと不幸になる
幸福を獲るために
あたらしい哀しみを
斥けるように
昨夜の水が
朝を光らせる
たった一枚の紙を
海に流してゆく
228
悲しみの帳は
毎日の片隅に隠れて
ふとした仕草の裡に
片鱗だけ滲ませ
記憶の襞の中で
道を失う孤独
失語症の思い出
重力の紛失届
批准された約束
の中に眠る脛骨
その事に潜む哀れみ
言葉はいつも
間に合わない
事後処方されるのだ
隠された傷の
化膿にも気付かず
その傷を庇う
仕事であれ
229
白い日は何故
聖人の名ではない
(紅白の幕と同じく
体液の謂いか)
男たち返礼に忙しなく
女たち期待と遊ぶ
新たなブラックホールの
83個見付かる宇宙
新種の鯱が見付かる海洋
精神の奥に潔白は見付かる?
あまりにも強い色調が
カレンダーを染める
ノエルの夜ほどに
白くなんてないのに
230
愛を嘉しているとき
闇は何処を彷徨う
夢を嗟歎するとき
悪魔は何を暴掠している
光を信憑するとき
蟲たちはどうやって這いずる
花を斉(いつ)くとき
汚水はいつ流れる
善と悪の
陰と陽の
朝と夜の
男と女の
境界に立つ亡霊
夢が夜に立つとき
冥府は誰が統べる?
231
他者を傷つけただけ傷つく
精神の反射装置
優しいその場凌ぎや
未来のための厳しさが
瘡蓋に爪を立てる
機械が壊れているもの
逸らし上手の目線
神様の声の余韻
心に生える光
透明な雑踏のなか
詩だけが優しかった
うた だけが暖かかった
言葉だけが涙だった
涙だけが言葉だった
232
闡かれる無明
精神の歴史の
鍵が弾みで外れ
恥ずべき夜話が
滲み出る音
心の一番奥
深いその底に
白い光
母乳や産褥の記憶
最初の声が
自分のものか
他者のものか
分かちがたい
神話が音をたてて 割れる
滲む記憶の縁
傷痕から顔を出し
明日の影を伸ばす
軟らかな闇
233
隼のペレット
その中の種子の発芽
汚泥にまみれた希望
枯れなずむ 伝説の花
豪遊する黄昏
15時が蹉跌する
プラネタリウムの甘さ
相対性が焔える時
季節の速度が
天の落下が
刺青の飛翔が
瑞祥の繚乱が
地球に聳え立つ
夕闇を切り裂く
隼を見上げろ
いつか詩集を出したいと思っています。その資金に充てさせていただきますので、よろしければサポートをお願いいたします。