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Modular Synthesizer を知る

本記事は、筆者がモジュラーシンセサイザー(以下モジュラーシンセ)についてのワークショップを行う機会があり、それに伴い自身の知識整理のためにまとめたものを入門用記事として書き起こしたものです。
複数のケーブルが挿さったその外観から難解に思われる一方で、日本語の情報源や身近なユーザーも少ないモジュラーシンセについて、できる限り噛み砕いた解説を行っています。
また、本記事では無料バーチャルモジュラーシンセのソフトを例に解説しているので、ソフトをダウンロードしていただければ実機が手元に無い状態でも、手を動かしながら理解を深めることもできるようにしています。

モジュラーシンセワークショップ @ たゆたう

1. はじめに

本記事は「東海岸シンセシス」の考え方をベースとし、モジュラーシンセについての基本的な知識とパッチング、実用的な内容についてざっくりと書いてます。
シンセサイザーについての知識が無い方、導入を考えているが具体的に使用するイメージが湧かない方などを対象に、モジュラーシンセの世界に踏み込む糸口になればと思います。

2. モジュラーシンセサイザーとは

そもそもモジュラーシンセとは何なのかについて、その言葉の意味を紐解きながら理解していきましょう。

①「Synthesizer」の意味するところ

「Synthesize」は「合成する」という意味であり、シンセサイザーをそのまま日本語訳するならば「(音を)合成するもの」という意味になります。
「音」はその音源・音色・音量・ゆらぎ・時間変化などの様々な「要素」により、そのキャラクターが決定されます。
ここではギターを例に、音が鳴るプロセスを見てみましょう。
弦をピックで弾くと弦が振動し、空気の粗密の波として我々の鼓膜に届きます。
弦を弾いた瞬間が一番音量が大きく、硬い音色が鳴り、その後は時間経過とともに柔らかい音に変化し、音量が減衰していきます。もし奏者がビブラートをかけていた場合、音程がわずかにゆらぐでしょう。

ギターのストロークした波形

これら一連の音の変化を電気的に合成するものが「シンセサイザー」です。

②「Modular」の意味するところ

「Module」には「部品」や「要素」という意味があります。
先述の通り、「音」はその音源・音色・音量・ゆらぎ・時間変化などの様々な「要素」により我々に違った印象を与えます。まさにこれらの「要素」を担うものがモジュラーシンセにおけるモジュールであり、以下のようなモジュールが存在します。
「音源」→ VCO (Voltage-Controlled Oscillator)
「音色」→ VCF (Voltage-Controlled Filter)
「音量」→ VCA (Voltage-Controlled Amplifier)
「ゆらぎ」→ LFO (Low Frequency Oscillator)
「時間変化」→ EG (Envelope Generator)
モジュラーシンセでは各機能を持つこれらのモジュールをお互いに接続することにより音を合成します。前述のモジュールは極めて基本的なものであり、その他数多くのモジュールが存在します。

ちなみに、一般的な鍵盤型のアナログシンセサイザー(例えばMinimoogなど)はこれらのモジュールが筐体内で結線され、一つのプロダクトとして仕上げられています。これに対しモジュラーシンセにおいては、各モジュールを自身で選別し、任意にパッチングすることができる点で自由度が高いと言えるでしょう。

Moog - Minimoog Model D を例にした各セクションの機能

③ Patch Cable内を流れているもの

モジュラーシンセといえば、たくさんのケーブルが接続されているイメージを持つ人が多いでしょう。これらのケーブルの中には大きく2つに分類すると
1. オーディオ信号
2.Controll Voltage (CV)
のどちらかの信号が流れています。
前述のモジュール名称の中に「Voltage Controlled 〜」という言葉が出てきますが、これは「電圧制御」という意味になります。すなわちモジュラーシンセとは「電圧」によって「モジュール」内のパラメータを制御して音を「合成」するもの、ということになります。
この制御に使用される電圧のことを「Controll Voltage (CV)」といいます。

先ほど、大きく2種類の信号に分類できるとありましたが、厳密に言うとどちらも電圧であることには変わりありません。その信号が可聴域にあるかないかの違いだけです。以下に、モジュラーシンセに用いる主な信号の簡単な略図を示します。
パッチングする上で重要なことは、それぞれのケーブル内に流れている信号がどのようなものかを把握することです。

パッチケーブル内を流れる様々な信号(電圧)

④ Eurorack

モジュラーシンセサイザーを使用していた日本人アーティストとして「YELLOW MAGIC ORCHESTRA(YMO)」を想像される方が多いかもしれません。原始的なシンセサイザーであり、「タンス」と通称からも伺えるように、かなり大型かつ高価な機材でした。

Moog Synthesizer IIIc

その後、シンセサイザーは鍵盤の搭載、内部結線によるパッケージ化、デジタル技術の発達により、様々な進化を経てきました。(前述のMinimoogもその過程の一つです。)こうして進化したシンセサイザーにはモジュラーシンセサイザーにはなかった演奏性・携帯性・音作りの手軽さを持ち、その一方でモジュラーシンセは80年代には廃れていきました。しかし2000年代に入り、より複雑で実験的な音作りを求めるアーティストの需要に応えるため、モジュラーシンセのリバイバルが起こります。
このリバイバルのきっかけとなったのが、ドイツのDoepfer社が提唱したユーロラックという規格です。1990年代に発売した「A-100」というシステムに用いられたラッキングシステムは「Moog III」に使用されていたものよりも小型化されており、さらにその電源・電圧・サイズ・プラグを規格として公開しました。この規格に合わせて他社メーカーが続々とモジュラーシンセサイザーを製作・販売し始め、結果的にユーザーはユーロラックという統一規格に沿ったモジュールをメーカーの枠組みを超えて組み合わせることが可能になりました。

Doepfer A-100 Eurorack Modular Synthesizer
ユーロラック規格で作られた様々なメーカーのモジュール

3. パッチングの実践

基本的なモジュールを用いてパッチングを実践しましょう。
ここでは
・自動で演奏するモノシンセ(同時発音数=1)
を目標にします。

  • パッチケーブルは「OUTPUT」から「INPUT」に接続する

  • 信号が「オーディオ」か「CV」のどちらかを把握する

ことを意識すれば、スムーズなパッチングが可能でしょう。

本記事ではバーチャルモジュラーシンセの無料ソフト「VCV Rack 2」を使用例として解説しています。実機と同等の挙動を行うソフトですので、自身でパッチングを試しながら実践してみてください。

以下のファイルは今回の実践で使用するモジュールとパッチングのプリセットです。
※ 標準で収録されていないモジュールもありますが、VCVに登録して無料ダウンロードすることができます。

STEP1 - 「OUTPUT」で音をモニターする

まずはVCV RACKでの事前準備としてOUTPUTモジュールを用意しましょう。【Audio 2】というモジュールを追加します。
「出力先デバイス」にPC・MAC・オーディオインタフェースなどを選択し、「AUDIO INPUT」にオーディオ信号を入れると音が鳴るようになります。

OUTPUTモジュール【Audio 2】

実機においてもOUTPUTモジュールは存在します。モジュラーシンセで扱うオーディオ信号は通常のラインレベルよりも大きいため、そのままミキサーやオーディオインターフェースに接続すると歪みが生じることがあります。OUTPUTモジュールを経由することで適正レベルまで落とすことができます。

STEP2 - 「VCO」で音を出す

続いて【VCO】というモジュールを追加してみましょう。
VCOというのは、ギターで例えると「弦」にあたる音源部であり、なくてはならないモジュールなります。
「Oscillator」は発振器という意味を持ち、その名の通り振動を起こし電圧の「波」を発生させます。このモジュールでは
「SIN」:正弦波
「TRI」:三角波
「SAW」:ノコギリ波
「SQR」:矩形波
の4種類の波形(オーディオ)を出力することができます。
FREQノブで周波数(音程)の調整が可能です。

VCAモジュール【VCO】

このモジュールには波形の違いによる4種類のアウトプットが存在していますが、それぞれ何が違うのでしょうか?ここで、それぞれの波形のアウトプットをOUTPUTモジュールに繋いで音色の違いを見てみましょう。

※ 動画内の【SCOPE】【ANALYZER】は解説上追加しているモジュールです。それぞれ「電圧の動き」と「音の持つ周波数成分」を可視化することができます。

波形の種類によってかなり音色が違うことが分かります。
この音色の違いは波形に含まれる倍音(OVERTONE)構成の違いによるものです。倍音とは基音に対して整数倍の周波数を持つ音であり、音色を決定する要素です。
単音で一つの音程(基音)を鳴らしていても、実は1,2,3..オクターブ高い音が同時に鳴っており、それらが共鳴することで「音色」が決定します。

スペクトルアナライザーで観測できる基音と倍音

ここではSAW(ノコギリ波)を用いて構築していくこととします。
現状では一定の音程の音が出っぱなしの状態で、音程を変えるにはFREQノブを調整するしかありません。
そこで、このFREQノブの動きをCVで制御しメロディーを作るためにシーケンサーを追加してみましょう。

STEP3 - 「SEQUENCER」で演奏する

【SEQ3】というモジュールを追加してみましょう。
このモジュールはシーケンサー(SEQUENCER)という種類のモジュールです。シンセサイザーにおけるシーケンサーとは「演奏データを記録・再生するもの」になります。自ら鍵盤で演奏するのも良いですが、今回はモジュラーシンセらしくシーケンサーを使ってみましょう。
「TEMPO」ノブで演奏するテンポ、「ステップごとのCV値」で音程を調整します。「CV OUTPUT」から音程を制御するためのCVを出力します。

シーケンサーモジュール【SEQ3】

実際にどのような電圧の動きを持ったCVが出力されるかを見てみましょう。このタイプのシーケンサーは、ノブが①〜⑧と8つ横に並んでいることから、「8ステップシーケンサー」と呼ばれます。それぞれのノブが音程を制御するCVを調整するため、「8つの音符」を記録させることができると理解しても良いでしょう。
出力されたCVを見ると、それぞれノブの位置に対応した大きさの電圧が①→⑧の順に出力されています。(⑧以降は再度①に戻り、繰り返されます)

【SEQ3】から出力されるCV

ここで再び【VCO】のパネルに着目してみましょう。
「V/OCT」と表記されたジャックがあります。これはオシレーターの音程を制御するCV INPUTで、「V/OCT」というのは「1V電圧があがるたびに1オクターブ音程が高くなる」という仕様を意味しています。この仕様については、「Hz/OCT」といった電圧と音程が比例関係にある仕様も存在しますが、ユーロラックモジュールの場合「V/OCT」を採用しているメーカーがほとんどです。
「V/OCT」=「音程を制御するCV INPUT」
という認識で良いでしょう。

【VCO】のV/OCT INPUT

それでは実際に【SEQ3】の「CV OUTPUT」を【VCO】の「V/OCT INPUT」へ接続してみましょう。

音程がステップごとのCVに合わせて変化することがわかります。
これは【VCO】のFREQノブを自らの手で動かす代わりに、シーケンサーからのCVで電圧制御して自動的に動かしている(モジュレーション=変調させている)ことに他なりません。

CVによるパラメーターの自動制御

メロディーが演奏できたので、続いては「1音の長さ」を「VCA」と「EG」を用いて制御してみましょう。

STEP4 - 「VCA」「EG」で音量変化を作る

【VCA】【Pip Slope MK2】というモジュールを追加します。
それぞれ「VCA」と「ENVELOPE GENERATOR (EG)」という種類のモジュールです。
「VCA」は「Amplifier(増幅器)」という意味を含みます。ギターやオーディオ機器に詳しい方であれば「アンプ」という言葉は聞き馴染みがあると思いますが、「入力した信号のレベル(大きさ)を増幅・減衰して出力する」モジュールになります。

VCAモジュール【VCA】とEGモジュール【Pip Slope MK2】

まずは【VCO】→【VCA】→【OUTPUT】でオーディオの経路を作り、【VCA】のLEVELフェーダーを操作して音量の変化を見てみましょう。
LEVELフェーダーの位置によって出力されるオーディオの音量が大きくなったり小さくなることがわかります。

このLEVELフェーダーの動きを、STEP3で【VCO】のFREQノブをCV制御したのと同様に、手ではなく電圧によって制御していきます。

例えば、「音の鳴り始めが一番大きく、徐々に減衰して音量が0になる」ような音量変化の動きをLEVELフェーダーを用いて再現する場合、フェーダーは「鳴り始めで100%に一気に上げてから徐々に0%まで下げる」という動かし方をすれば良いでしょう。このような、「上昇・下降する」電圧は「ENVELOPE GENERATOR(EG)」というモジュールを用いて作ります
【Pip Slope MK2】にはATTACKとDECAYというノブがついており、それぞれで「上昇 / 下降にかける時間」を調整することができます。TRIGGER(もしくはGATE)の信号がモジュールに入力されると以下のような上昇・下降の動きを持った電圧(エンベロープ)が生成され、この電圧でVCAを制御することにより、音量の時間的変化をつけることができます。

ATTACKとDECAYで生成されるCV

※ TRIGGER信号とは、瞬間的に上昇・下降する電圧のことでPULSEと呼ばれることもあります。「きっかけ・引き金」という意味通り、「EG」を作動させる合図などに使用されます。似た機能を持つ電圧としてGATEがあり、こちらは「長さ」のパロメーターを持っています。

TRIGGER信号とGATE信号

実際に【VCA】のCV INPUTに【Pip Slope MK2】で生成したCVを接続してみましょう。「ENV」の起点となるTRIGGERには【SEQ3】の「TRIGGER OUT」を用います。(ステップが移り変わるごとに出力されるTRIGGER)
SCOPEには【Pip Slope MK2】で生成されたCVが表示されています。
ATTACKとDECAYノブを調整することで、エンベロープの形状が変わり、音量変化の挙動も変わることがわかります。

STEP5 - 「VCF」で音色を変える

続いて、音色について調整を行ってみましょう。【VCF】というモジュールを追加してみましょう。これは「VCF」という種類のオーディオ信号を処理するモジュールになります。「Filter」という言葉の意味通り、「音の成分(周波数)を濾す(カットする)」機能を持っています。パネルに着目すると、AUDIO OUTPUTに「LPF(LOW PASS FILTER)」と「HPF (HIGH PASS FILTER)」の2種類を持つことがわかります。これらはフィルターでカットする周波数域に違いがあります。

VCFモジュール【VCF】

ここではLPFについて具体的に見ていきましょう。
「LOW PASS」の言葉が意味する通り、「低周波数成分はそのまま通過させ、高周波数成分は減衰」させる機能があります。
また、CUTOFF FREQ周辺の音量を「RESONANCE」で指定した音量分増加させることができます。これにより、音にツヤ・クセを付加することができます。
ここでは解説を省略しますが、逆にHPFは「高周波数成分はそのまま通過させ、低周波数成分は減衰」させる機能を持ちます。

LPFでカットされる周波数成分

STEP1で倍音について解説しましたが、このLPFでは高周波数域にある倍音成分をカットして音色の調整を行います。シンセサイザーでの音作りにおいて非常に重要なモジュールになります。

それでは【VCA】と【OUTPUT】の間に【VCF】をパッチングして、フィルターを経由した音を作っていきます。
フィルターは基本的に音量を減衰する機能を持つためアウトプットからの音量は小さくなる傾向にあります。【OUTPUT】のLEVELノブで適宜音量調整を行いましょう。

STEP6 - 「LFO」でゆらぎを作る

最後に「LFO」を用いて「VCF」をモジュレーションし、音色のゆらぎを作ってみましょう。
「LFO」は「Low Frequency Oscillator」の略で、「低周波発振器」という意味になります。「VCO」と同じくオシレーター(発振器)という名称を含みますが、その周波数域が可聴域(およそ20Hz以上)にあるかどうかの違いがあります。LFOでは音として聴くことができないほどの低周波数(低い音程)を持つCVを出力し、各モジュールのパラメータに対して周期的なモジュレーションをかけることができます。
ここでは【LFO】のモジュールを追加し、【VCF】のCUTOFF FREQを変調させてみましょう。

【LFO】をパッチングする前に【VCF】にある「Attenuverter」と呼ばれるノブについて理解する必要があります。

Attenuverterノブ

「Attenuverter」とは信号を増幅・減衰・反転させる機能です。このノブを調整することにより、CV INPUTに入力された信号の大きさ・極性(+or -)を調整し、モジュレーション量を操作します。
以下の動画は、【8VERT】(Attenuverterを8つ搭載したモジュール)を用いてLFOの大きさ・極性を可視化したものです。(赤色=Attenuverter経由の信号、青=オリジナルの信号)
12時位置から右回りでプラス方向の増幅・減衰、一方12時位置から左回りでマイナス方向の増幅・減衰が行われます。
同様の機能に「Attenuator」という種類があり、こちらはプラス方向のみに増幅・減衰が行われます。
使用するモジュールの種類によりますが、CV入力に対してAttenuverterもしくはAttenuatorが内蔵されていることが多いです。内蔵されていないときは【8VERT】のようなモジュールを経由するのが良いでしょう。

【LFO】のモジュールを追加し、【VCF】のCUTOFF FREQを変調させてみましょう。【LFO】の「OUTPUT」を【VCF】の「CUTOFF FREQ CV INPUT」にパッチし、Attenuverterノブでモジュレーション量を調整します。
Attenuverterノブが12時位置から遠ざかるにつれて音色にかかるモジュレーションが大きく、【LFO】のFREQを変えることでモジュレーションの周期速度が変化することがわかります。

ここで、オーディオとCVの経路について一度整理しておきましょう。
以下にこのパッチングを表した簡単な模式図を示します。

パッチング模式図

いかなるパッチングにおいても、まずオーディオの通り道を作り、それらを経由するモジュールに対しモジュレーションするというプロセスが重要になります。

STEP7 - 自由にパッチングする

これで「自動で演奏するモノシンセ」のパッチングができました。
このパッチングは基本的な知識を紹介するためのほんの一例であり、より自由な発想を持ってパッチングすることにモジュラーシンセの醍醐味があります。
例えば

  • 【LFO】で【SEQ3】のTEMPOを変調すると..

  • 【SEQ3】のCH2で【Pip Slope MK2】のDecayを変調すると…

  • 【VCO】からのオーディオ信号で【VCF】のCUTOFFを変調すると…

  • 【Pip Slope MK2】のエンベロープで【VCF】のCUTOFFを変調すると…

など自由にパッチングを行いましょう。その際には、

  • パッチケーブルは「OUTPUT」から「INPUT」に接続する

  • 信号が「オーディオ」か「CV」のどちらかを把握する

ことを意識してみてください。
紹介したモジュールもほんの一部なので、自身で好きなモジュールを追加してより複雑で実験的なパッチングにトライしてみましょう。

4.  ユーロラックシステム構築のススメ

実際にモジュラーシンセの実機を導入するには、金銭的な面・流通量的な面においても依然ハードルが高い状況です。そこで、モジュラーシンセサイザーシステム構築のモチベーションを得るためのきっかけとして、今日どのような目的で、どのようにモジュラーシンセが使用されているかについて見ていきましょう。具体的に何を購入すればよいかという内容ではなく、自身のシステムのコンセプトを見つけるヒントになればと思います。

① 省スペースなライブシステムとして

例えば、以下のようなシステムを構築している場合を考えます。
① シンセサイザー×2
② エフェクター×3
③ ミキサー
④ラップトップ(HOST)
それぞれの機材のサイズや電源ACアダプタ・接続ケーブルを考えると、かなりのスペースと機材量が必要になります。

ライブセットの一例

上記のシステムをユーロラックモジュラーシンセサイザーで(あくまでも同機能で最小になるように)構築すると、例えば以下のようになります。

モジュラーシンセでのシステム構築の一例

このことからわかるように、モジュラーシンセの利点として「省スペース」であることが一つ挙げられます。一見たくさんのケーブルが接続されていて巨大なケースに入ったイメージのモジュラーシンセが省スペースであるとは思えませんが、構成次第では必要とするスペース・機材量で圧倒的に有利と言えます。

実際に筆者は「シンセサイザー+エフェクター+ミキサー+Digitakt(HOST)」としてモジュラーシンセをライブで使用しています。

② 楽曲製作における中枢として

「モジュラーシンセサイザー」=「アナログシンセサイザー」という認識は実は誤りで、近年ではDSPチップなどデジタル技術を盛り込んだモジュールが多く販売されています。たとえばリバーブやディレイなどのエフェクターも多くのメーカーによってモジュールが生産されており、各種パラメータ(Time / Decay / DryWet…)をCVで制御できるなど、モジュラーシンセサイザーとしての強みを活かせる設計となっているものがほとんどです。その他にも、サンプラー、デジタルオシレーター、オーディオインターフェースなど様々なデジタルモジュールが存在します。
パッチケーブルが挿さった外観からアナログに見えるモジュラーシンセサイザーですが、実際はほとんどのモジュールでデジタル技術を取り入れており、より多彩な表現が可能となっています。

例えば、以下のようなラックには

  • オーディオインターフェース

  • デジタルドラムマシン

  • 物理モデリングシンセ

  • ウェーブテーブルオシレーター

  • ディレイ

  • マルチエフェクター

  • グラニュラーシンセ

  • ビジュアライザー

  • デジタルミキサー

  • レコーダー

などのモジュールが含まれており、楽曲製作においても大いに役立つ構成となっています。

様々なデジタルモジュール

③ 実験的な音作りの場として

モジュラーシンセはパッチングによる自由度の高さにより、パッケージ化されたシンセサイザーでは出せない音を簡単に出すことができます。
例えば、キック・スネア・ハイハット・FXなどの音をモジュラーシンセでサンプルとして録りためれば、オリジナルのドラムキットとして使用できるでしょう。また、ギターやマイクを接続して、既存のエフェクターでは出せなかった音像を得ることもできるでしょう。
シーケンサーを用いた場合、思いがけず良いリズムであったりメロディが生み出されることもあります。
そういったインスピレーションを授かるための機材として傍らに置くのも良い使い方のひとつです。

Make Noise - Shared System

④ 瞑想・サイケデリックのお供として

モジュラーシンセサイザーはパッチング次第では、心地の良いトリッピーな音像、ドローンのような瞑想体験に誘う音像など多彩な表現が可能です。シーケンサーを使用すれば演奏する必要もなく、パッチングという簡単な物理的操作で完結するので、自身の直感をそのまま音として表現するのに適した楽器と言えます。(状況次第では、大抵の難しいことはできなくなるので..)
実際、シンセサイザーの先駆けのメーカーのひとつであるBuchlaの成り立ちはLSD(Acid)と密接に関係しており、インスピレーションを得ながらの演奏がされていたそうです。
直感的な音楽制作、アンビエントやドローンによる瞑想のお供としてモジュラーシンセを導入してみてはいかがでしょうか?

5. おわりに

モジュラーシンセの仕組みとパッチング実践、運用方法について簡単に解説を行いました。

モジュラーシンセは日本語の情報が少なく、まだまだコミュニティも狭いため、その入り口に立つことが最も困難と感じます。しかし、ここまで読んでくれた方はすでに入り口に立つことができていると思います。
思い通りの音が出せたときの感動、システム構想での葛藤、モジュールをケースにはめるときの高揚感、試行錯誤のパッチングの楽しさ…、これからモジュラーシンセを始めたいと思っている方々にこのような体験があることを願ってます。

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