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おそろいの欠片

目次

 緑と白の絨毯に寝転がると、若い草たちのにおいがした。それをめいっぱい吸い込むと、少女は自分の髪が草だらけになったことは気にも留めず、自身の隣に腰を下ろしている少年に声をかけた。
「今、私……原っぱになった気分かも」
「……何言ってるの」
 そう呆れ顔で言う少年のまなざしには、どこか柔らかな光が宿って見える。その光は、やさしい春の太陽に似ているかもしれない。心の片隅でそんなことを想いながら、少女は丸い瞳を細めて笑い声を上げた。楽しげに笑う少女の瞳にも、少年と似た春の太陽が宿る。少女はひょいと起き上がり、少年のあたたかで柔らかな栗色の瞳を見て、今度は顔を綻ばせた。
「ね、いいもの見付けたんだ」
「いいもの?」
「うん。……ほら――四つ葉! あげる。もしかして、いいことあるかもしれないよ」
 少年は少女の手のひらから緑の四つ葉を受け取りながら、小さく笑った。それからおもむろに少女の髪に手をやる。そこから指先で何かを掴むと、掴んだそれを今度は少女の手のひらの上に置いた。少女が首を傾げて手の中に視線をやると、そこには心のかたちをした、緑色の小さな葉が四枚、茎に繋がっていた。それは少女が少年の手に置いたものと、同じ形をしている。少年は小さく微笑んで、言葉を風に乗せた。
「――四つ葉、俺も見付けた。……あげる、いいことがあるかもしれないから」
「……」
「どうしたの」
 少女は何とも難しい顔をしてから、モモイロタンポポのような色をほっぺたに浮かべて再び草の上に寝転がり、それから内緒話をするかのように小さく小さく、笑い声を零したのだった。
「もう、いいこと……あったかも」
「……確かに」


20160822
シリーズ:『仔犬日記』〈ドッグ・イヤー〉
※のぞくん(@tori_mitsu)をお借りしました!

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