見出し画像

取ったら鳴らしてラ・ステッラ

目次

 からんからんと鳴る袋を抱えて、街から村への帰路を歩く。村の入り口に差しかかった辺りで少年は、見覚えのある金色を見付けた。柔らかな金色をもつ少女の名前を呼びながら手を振れば、もう片方の腕の中にある袋の中で音が踊る。少女はその髪や瞳に惜しみなく昼の光を浴びながら、少年の声に振り返った。
「ノイさん!」
「ニケ!――あっ……それ、新しい商品でしょ!」
 腕の中の袋を少女は指差し、その顔に笑みを浮かべる。少年もにこにこして頷くと、地面にさっと布を敷いてその上に胡坐をかいた。それから袋の中身を取り出し、自分の前に並べていく。それらは一つ一つに異なった模様が描かれている銅色の小さな鐘だった。
「――さぁさ、今回仕入れてきましたのは鳴らすと幸運を呼び寄せる鐘であります。どうですお客さん、一度鳴らしてみるというのは? こちら、とても綺麗な音が鳴りますのでこれを聴けるだけでも小さな幸運ですよ。……ちなみに鐘の模様――星は夢、花は恋、心臓は愛、燕は待ち人、太陽は強さ、月は静けさを呼び寄せるらしいです。さて、どれを鳴らします?」
「うーん……〝冒険〟は?」
「〝冒険〟?」
「うん!」
 そう頷いた少女の姿を少年はしばらく見つめていたが、やがてもう堪え切れないというように声を上げて笑い出した。肩を震わせながら、自分の前に並べた小さな鐘を再び袋に仕舞っていく。ひとしきり笑うと少年は布の上で背筋を正し、少女の金色を見上げた。
「〝冒険〟……それならちょうどいいのがありますよ」
「ほんとう?」
「ほんとうです」
 少年は右の手のひらを少女に向けて差し出した。それから目を細めてにっこり笑う。それはまさしく悪戯を思い付いた子どもの表情に等しかった。
「――おれ!」


20160822
シリーズ:『仔犬日記』〈ドッグ・イヤー〉
※ノイちゃん(@hiroooose)をお借りしました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?