薬剤師が男性の不妊症についていろいろ調べたことをまとめてみました(3000文字程度)

こんばんは、ほるみんです。
今回は不妊治療における、男性側の不妊症についていろいろ調べたこと、薬剤師として治療のアドバイス等をお話したいと思います。
私自身が不妊症で妻に迷惑をかけていることもあり、この記事を書かせていただきました。同じ悩みを抱えている方々のご参考になれば幸いです。



1.不妊症とは

不妊症とは、「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないもの」を指します。
日本産科婦人科学会では、「一定期間=およそ12か月」を一般的なものと定義しています。この期間に妊娠に至らない場合、何かしらの要因が潜んでいると考えられます。



2.不妊症の割合

不妊症により妊娠に至らない夫婦の割合は、およそ10%と言われています。
不妊の原因を見てみると
・男性にのみ不妊の原因がある割合・・・約25%
・女性にのみ不妊の原因がある割合・・・約40%
・男性、女性ともに不妊の原因がある割合・・・約25%
・原因不明の割合・・・約10%
というデータがあります。

これは、不妊の原因の約50%は男性に原因があるとも言うことが出来ます。なかなか妊娠に至らない場合は、男性も泌尿器科を受診して精液所見を確認するようにしましょう。



3.男性不妊の原因

男性不妊の原因は、主に以下の3種に分けられます。

(1)造精機能障害・・・80%以上
(2)性機能障害・・・10%以上
(3)精路通過障害・・・10%以下


(1)造精機能障害

精子に問題がある全般を指し、主に以下の4種類が該当します。
こちらはWHOマニュアル2010による、「100人中下から5番目の人の値」を「正常下限値」としており、それを下回る数値が見られると自然妊娠の可能性が低くなるようです。

1)無精子症・・・そもそも精液の中に精子がいない
2)乏精子症・・・精液の中に精子はいるが、数が少ない
3)精子無力症・・・精子の動きが悪く、卵子まで到達しない
4)精子奇形症・・・正常な精子の割合が少ない
5)精索静脈瘤・・・精巣やその周辺に瘤(こぶ)がある

1)無精子症

そもそも精液に精子がいない状態を指します。
これには精子は作られているけど精液まで精子が到達しない閉塞性無精子症」と、精子をうまく作ることが出来ない非閉塞性無精子症」の2つがあります。

精液の中に精子がいなくても、精子が作られる精巣の中には精子がいることもあるため、直接精巣から精子を回収することで受精は可能です。

2)乏精子症

正常下限値は「精液1mL中の精子の数が1500万個」とされており、それ以下の場合は乏精子症とされます。
精子の数が少ないと卵子まで到達する確率も下がるため、妊娠率低下の原因となります。

3)精子無力症

正常下限値は「精子の運動率が40%」、「前進運動率が32%」とされており、それ以下の場合は精子無力症とされます。
精子の数が多くても運動率が低いと、やはり精子が卵子まで到達する確率が下がるため、こちらも妊娠率低下の原因となります。

4)精子奇形症

正常下限値は「正常な精子の割合が4%」とされており、それ以下の場合は精子奇形症とされます。
精液の中には正常な精子のほかに、一定数の頭部か尾部に奇形のある精子が含まれています。このうち、尾部に奇形のある精子は受精することが出来ますが、頭部に奇形のある精子は受精することが出来ません
名前的に奇形の精子が受精したら奇形児が生まれるのでは、と思う方もいると思いますが、実際にはそういうわけではないので心配はいりません。

5)精索静脈瘤

精巣やその上の精索部に静脈瘤が出来ている状態です。
この状態では本来血液が流れる方向に血液が流れず精巣に血液が逆流し、血液が停滞することで精巣の温度が上昇し、精子の質を保つ温度である32~34度を超えてしまい、精子の運動が低下してしまいます。
こちらは程度により外科的処置が必要になることがありますので、専門の医師に相談しましょう。


(2)性機能障害

ガイドラインでは「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が持続または再発すること」と定義されています。
原因により「器質性」「心因性」「混合性」の3種類に分けられ、それぞれに対処する必要があります。


(3)精路通過障害

こちらは(1)造精機能障害 の中の 1)無精子症 の「閉塞性無精子症」にあたります。
射精は出来ても精管が詰まっており、精子が排出されず妊娠に至らないケースになります。



4.男性不妊の治療


(1)ホルモン検査

1)ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)

男性においては性腺(精巣)に働きかけて精子の形成を促すホルモンです。黄体形成ホルモン卵胞刺激ホルモンの2種類があります。
ホルモン検査にてゴナドトロピンの低下が認められた造精機能障害の場合には、ゴナドトロピンの自己注射により精子の形成を促します。

2)プロラクチン

女性においては乳汁分泌に関わるホルモンですが、男性で高くなると精液所見が悪くなることが多いです。
ドパミンと呼ばれる神経伝達物質により、プロラクチンの産生を抑制されていますが、精神疾患に用いる一部の抗ドパミン剤の服用でドパミンの産生を抑制することでプロラクチンの値が高くなることがあります。
特に「スルピリド(商品名:ドグマチール)」という薬剤を服用している方はこの数値が顕著に高くなるケースがあります。私は神経性胃炎で服用しており、プロラクチン値が基準の3倍になっていました。
該当薬剤の中止により改善するケースが多いため、妊娠を希望される方は代替薬を担当医師に相談してみましょう。


(2)薬物治療


1)クロミフェン錠(商品名:クロミッド錠)

通常保険適用では性腺刺激ホルモン作用により女性の排卵誘発剤として5日間だけ服用されるお薬ですが、男性の精巣に働きかけ、精子の形成を促す効果が期待出来ます。
この際は精液所見を確認しながら、3か月以上を目安に毎日服用することになります。

2)カベルゴリン錠(商品名:カバサール錠)
  ブロモクリプチン錠(商品名:パーロデル錠)

ドパミンの量を増やし、プロラクチンの量を減らすことで精液所見を改善する効果を期待するお薬です。
脳内のドパミンの量を増やすことで精神症状が発現することがあるため、服用の際には注意が必要です。

3)漢方製剤

補中益気湯、八味地黄丸、牛車腎気丸、柴胡加竜骨牡蛎湯 等の漢方を男性不妊に対して用いることがあります。これはそれぞれの漢方が精子の運動を悪くする原因に対して効果を示すことによりますが、効果には個人差があります。詳しくは泌尿器、漢方専門の医師と相談しましょう。
・補中益気湯・・・虚弱体質で倦怠感が原因の造精機能障害の改善
・八味地黄丸、牛車腎気丸・・・腎虚による泌尿生殖機能低下の改善、テストステロン濃度の上昇
・柴胡加竜骨牡蛎湯・・・ストレス、不眠、ED等による造精機能障害の改善、牡蠣に含まれる亜鉛摂取によるテストステロン濃度の上昇

それ以外にもいくつかの漢方が男性不妊の治療に使われることがあります。

4)その他

ω-3脂肪酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE、葉酸、亜鉛等は精子形成に良いとされています。
精子の質を保つ温度は32~34度が良いとされているので、陰嚢を温めないようトランクスの着用がおすすめされています。また長時間のデスクワーク、膝の上でのパソコンの使用も陰嚢の温度を高くするため避けた方が良いです。
ストレス、喫煙、生活習慣の乱れ等も精子形成に影響を与えると言われています。規則正しい生活を心がけましょう。



5.まとめ

今回は男性側の不妊の原因、対策についてまとめてみました。
私自身はスルピリド服用による基準値の3倍を超えるプロラクチン値、精液所見による乏精子症の診断が確認されました。
治療については必ず検査をしたうえで主治医の先生と相談し、適切な治療を受けるようにしてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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