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②9月4日

わたくしの生い立ちなどは、混沌とし、暗く悲しみに満ちています。
暗いお話が嫌いな方もいらっしゃると思うので、出来るだけスパッと端折った方がいいのかなぁと悩みましたが、辻褄を合わせるのが難しく避けては通れない自分の礎ですので、思い切って綴る事にしました。
よくある話と言えばそうですし、大した話ではないですが、幼いころに起きた出来事が大人になってどのように身体や精神的な構築に大きく影響をしたのかと今になって解るのです。
約半世紀も前の事になります、聞いてみたいなと思ってくださる方は
お付き合いください。
悲しい話が嫌いな方はこの先暫く記事を読まずに、もう少し先に進むまでお待ちください。



【蛍】
私は6歳。
9月3日の夜。

家族で夜ご飯を食べた後、蛍を見に近所の河原に散歩に出かけ、幼い私は散歩の途中で寝てしまい、父の背で負ぶわれてそのまま熟睡・・・

母はその夜に産気づき、9月4日の早朝に、弟を出産して力尽きて突然亡くなってしまいました。

【朝】
 目覚めると、狭いアパートの部屋には見たことがないキラキラした物が沢山天井に飾られていて、寝ぼけた目で初めて見る仏具を、
(?ナニコレ?きれい~・・・)と思って周りを見回しました。
部屋は白と黒の布で覆われていて、いつもと全然違う様子になっていてビックリして頭の中は「?」でいっぱいに・・・

みんな見たことがない黒い服を着ているし、、父も兄も近所の人や知らない人も、嗚咽しながら目覚めた私を見ている。
私だけ小さな布団の上でパジャマ姿でいることが急に恥ずかしくなり、
「お母さんは?!ねェお母さんは?!お母さんっ!」
と大きな声で母を探したけど、返事はなく、誰も答えず、あちらこちらでみんなが一斉に号泣しだして、父も泣き崩れて私はものすごく怖くなった。

何が起きているかよくわからない。
でも、とんでもなく悪い事が起きたのだということは理解できた。
ここにはいられないと、パジャマのままその場から逃げ出して、私の住むアパートの隣のご近所の仲良しの竹本のおばちゃんの家に向かって走って逃げた。

【竹本のおばちゃん】
 ご近所に住む竹本夫妻には子供が出来なくて、代わりにチコという名の少し毛の長い赤茶色の大きな雑種犬が居て、私はこのチコが大好きで頻繁に訪れて居座り、遊んでもらったり、ご飯を食べさせてもらったり、チコと一緒に寝ていたりと、他人の家で好き勝手にさせてもらっていました。
竹本のおばちゃんはそんな図々しい私をとても可愛がってくれて、
「おばちゃんの家の子になって」と冗談で言われて、
「おばちゃんチの方がいいかも」私は本気で悩んでいた。

 「はるこちゃん、どこ行くん?!」という誰かの声を背に、パジャマのまま全速力で走って家を出て、竹本のおばちゃんの所に向かったが、鍵がかかっていたので(おばちゃんは私の家に居た)庭の犬小屋へ行き、チコの元へ駆け寄り、チコの首に全力で抱きついて
「チコチコチコチコチコ...……」
と呪文のように言いながら訳も分からず泣いた。

犬相手にべそをかいていると、家の前の道路に回転灯だけ点けた救急車が音もなくやって来て、丁度見える位置にスッと止まった。

待ち構えていた人たちが救急車に駆け寄っていく様子が見える。
私はそれがお母さんを運んできた車だと何故だか解ったのだけど、お母さんは何か得体のしれない恐ろしいモノになっているような気がして、怖くて知らないふりをしようと決めて、足元に生っている季節外れのいちごを勝手にちぎって食べた。
何かを食べていると少し不安が薄らいで、このままここで寝てしまおうと地面に仰向けに転がった瞬間、
「はるちゃん!なんしょっと!お母さんに会えるのこれが最後たい!早よ家に戻りんしゃい!」
と、泣きながら探しに来た竹本のおばちゃんに怒られ、強く抱きしめられてから抱っこされて自分の家に連れて帰られた。

 みんなの号泣する声と、初めてのお坊さん異様な風体と、お坊さんの御経が怖くて・・・
知らない人は入りきれないほど沢山家に居るのに、今すぐ一番会いたいお母さんはどこにもいなくて、ピンボケの白黒写真のお母さんの顔はいまいちで怖かった。
それ以来、母とは2度と会うことが無いとは思いもしなかった。
棺桶の中の母を記憶もなく、葬式は退屈で、この時の事はあんまり覚えていない。


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