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2020年 春 東京

母親になるということは

自分の体も心も神経も

全て子供に捧げるということなのだ

望むと望まないと

きっとそういうふうにできている


独身時代一人であることから

たくさんのものを生み出してきた

言葉も写真も


娘と二人きりの生活

友人と会うこともなく

ただただ毎日毎日娘と散歩に行き

毎日毎日手を繋ぐ


その手の感触は

涙が出るほど暖かく

小さく

でも力強くて


私の心はずべて彼女に奪われてしまう


想像することをやめ

創作することもできない


いつかこの経験が創作の糧になることがあるのだろうか

もしかしたらないかもしれない


それでもきっといいのだろう

それ以上のものがあるのだろう

彼女はとてもとても大切なことを

教えてくれているに違いない


こんなにも長く彼女と過ごしたのは

きっと2年ぶりだ


生後10ヶ月で保育園に預け

働き出した


毎日毎日抱いて

毎日毎日それしかない日々

ミルクの匂いの中の幻ようなあの時間


今またその愛おしい日々を少しだけ味わう


生活の不安はある

けれどそれに代え難い

本当に貴重な時間なのだと思う


カメラが重くて

写真も撮ることはほぼできないけれど

胸にきちんと刻んでおきたい


愛おしい人との

この切ないほど二人きりの春のひと時を


この生活の先に

一体どんな世の中が待っているのだろうか

色々な人が色々なことを言う


それでも彼女を守っていかなければ

彼女たちの未来を少しでも美しいものにと誓う


けれどいくら考えても希望なんて浮かばない

想像すらできない


だから今を味わうしかない

ねえあなたの未来は幸せですか?

私はあなたをこの世界に送り出してよかったの?

わからない

悲しいけれど、わからないよ


だからせめて

あなたも今のこの二人の愛おしい時間を

全身に刻んでください


私も

あなたのこの暖かさを

全身に刻んでおきます


死後の世界に持っていける記憶は一つだけで

その記憶の中でずっと行き続けられるという 話がある


もしかしたら今がその時なのかもしれない


小さな娘の手の感触と

春の暖かな光と風 新緑の香り 鳥の声

小さい花々の微かな輝きとともに


2020年 春 東京

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