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わたしのきもの はたらきもの

 やっとテキスタイルのことを書きます。着物のお話です。

 一番初めに着た着物は3歳の時で写真があります。本人は忘れていましたが大事に取ってあったようで、のちにいとこのお嬢さんに着てもらいました。

 それ以降、浴衣以外は持ちませんでした。興味ないので用意しないでと母に頼み、振袖を買うかわりに大学生の際、1ヶ月パリに行かせてもらいました。

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 借りて着る事はありました。そんな私が初めて買った着物について。大変役立つ「はたらきもの」。これから和装始めようという方の参考になれば幸いです。

初めてのきものはリサイクル

 初めてのきものは「買った」。「あつらえた」ではありません。お休みの日に「着物パトロール」と称して、銀座のリサイクル着物屋さんとデパートの呉服売り場を数件見て回っていました。仕事で市場調査する洋服と同じように、数を見て歩くトレーニングを積むことで、だんだん好き・嫌いが分かってくるのではないかと考えたわけです。

 銀座一丁目に、(今は移転してしまいましたが)リサイクル着物店が何件か入ったビルがありました。その中の「ながもち屋」さんで、トレーニング中に目にとまって着てみたのが私の初めて買った一枚です。

 私の場合手が長いので、裄丈が合うリサイクル着物はなかなかありません。しかし仕立て上がりですから実際身につけてサイズ感は確認できました。ちょっと小さいけど、まあ着ることはできる。

 着物関係の購入したものは、ノートに詳細を控えてあります。うっかり洋服の調子でいろいろ買うと、あっという間に金額が捗ってしまう。記録を取り、反省することは今でも自分との約束です。その着物、なんと1万8900円でした。

色が好きで買いました

 ピンク系の、藤色がかったグレートーンに見える、江戸小紋です。お店の方に着つけてもらうと、顔色が明るく見えました。そういえば、似た色のニットを持っていました。

 江戸小紋は黒白なんかもシャープでカッコいいのですが、顔映りは千差万別、私にはちょっと地味なようです。明るめの色のほうがよそ行き感があり、あとはお好みと用途でお考えください。

 あまりに安いので、シルクですか? と聞いてしまいました。ポリエステルかと思ったのです。この値段なら汚すんじゃないかとびくびくしなくて済む。どんどん着て行って着物に慣れていこう、と買いました。裏地がついている「あわせ」の着物です。着用シーズンは10月から5月までと長い。

お茶会で着るために買いました

 お茶を習い始めて4〜5年経った頃、地元の市民お茶会の手伝いを始めました。その場で着る着物が必要だったのです。公園の日本庭園にテントを貼って、傘を仕立てる、立礼席です。そこでお菓子やお茶を運んだり。着付けを習いに行って、初めて自分で着て参加しました。

 袋帯ならお茶会に、普段のお稽古なら名古屋帯で。帯で着ていく範囲を変えることができます。

江戸小紋の着回し力

 初めての市民お茶会では、同じように「パトロール」で銀座のリサイクルのお店「灯屋」さんで購入した袋帯を締めました。

 梅のお茶会の時には、赤系の袋帯で紅梅のイメージ。桜のお茶会は、白っぽい帯。秋のお茶会は、灯屋さんの、カラシやカーキがアクセントに入った銀色っぽい帯を合わせます。

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 お気づきですね。初めはこの一枚で全てのイベントを乗り切っていました。帯は、ご自分では着ないからという友人から格安で譲り受けたものです。大きな柄のイメージのない着物なので、組み合わせで季節感を出せる便利さがありました。

 私たちの参加するお茶会はこのように屋外でした。雨の時もあり、落ち葉が降りしきる中でもやります。風情があっていいですよ。ご近所に市民お茶会があったら、是非一服、味わいにいらして下さいね。

 そんな中で、私のような若手!(お茶の世界限定)は、もちろん箒持って落ち葉を掃除したり、テントが風で捲れないようガムテープ貼ったりといった仕事もします。

 その時に「着物が汚れてしまう」と一瞬でも思いたくないのです。もちろん人前に出るから汚さないように気をつけます。でも、もし貯金はたいて買った着物だったら、やはり躊躇ってしまうと思うのですよ。

江戸小紋について

 さて、この着物はごく小さな模様があります。遠目には無地に見えるのですがお茶を手渡すくらい近づくと、小さな柄があるのが分かります。布が動いた時にちょっと表情が出て、無地よりも面白みがあります。

 無地は紋付にしてお茶会で着ますが、江戸小紋はもう少しカジュアルな着方もできるので、初めの一枚としては良いチョイスだったと思っています。

 私の着ているものは木賊(とくさ)という柄です。江戸小紋の中では格の高い行儀、鮫、角通しといった柄の名前をよく聞くかと思います。それよりはすこしカジュアルな位置づけになります。

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 お茶会の水屋(バックヤードですね)で一緒にしごとしていた方から、「こんな細かい柄を見たことないわ」と言われました。言った方も私も分かっていなかったのですが、どうやらこれは褒め言葉にはならないらしい(後から知りました)。

 伝統的な江戸小紋の柄は手作業で捺染(プリント)します。50代の方は「プリントごっこ」をイメージしていただくと良いと思いますが、柄の部分だけに染料が通るように加工した「型」を生地にのせて、染料をさっと板のような道具で手前に摺るようにして均一に生地に乗せます。

 プリントごっこは、その「型」が枠にはめてありましたね。40代以下の方は「シルクスクリーン」でわかるでしょうか。紗、と言われるオーガンジーのような生地を木の枠に貼った「型」を使ってプリントします。着物でも「シルクスクリーン」で作られることもあります。工業製品ですから当然安いです。私の江戸小紋はもっと安いインクジェットプリントかもしれません(今回接写してみてわかりました)。

 伝統工芸品の江戸小紋の型は、和紙を重ねて柿渋で張り合わせて、紗を貼ったり、絹糸で補強して作るのだそうです。一度、呉服屋さんの実演コーナーで見せていただきました。そのぺらりとした、枠のない型を布の上にあてて、四隅を合わせて、40cmずつくらいでしょうか、きっちりずれないよう見定めて柄を置いていくのだそうです。

 一コマずつ、とばして染めるのですか? と聞いたところ、それは安物の作り方です、と言われてしまいました。洋服の生地はそのように作ると工場で聞いたことがあったのです。機械で作ると、均一で細かい柄を作ることができますが、つるんとしてニュアンスがない。

 手作業なら、染める職人さんの呼吸に合わせての作業の時間が染料の浸透にわずかな表情として留めておかれるのでしょう。

 江戸小紋は「はたらきもの」だと思います。着用範囲が広く、これから着物を着ようと思う方の一枚目におすすめします。もし、お下がりの中に江戸小紋がありましたらまずは袖を通して、音楽会や展覧会、もちろんお茶会など、着物を汚さないですむところに着てお出かけしてみて下さい。

 いずれは、伝統工芸品の江戸小紋を着てみたい、と憧れています。一方で、汚れを気にせず着ることができる(手入れのコストも少なくて済む)ポリエステルの単衣の江戸小紋もあったら便利だな、とも考えます。真面目なお茶会に出る機会が増えるなら伝統工芸品。そうでなくもっと日常に寄せて雨の多い時期にも必ず着て行きたい、となったらポリエステル。

 自分の「あり方」が決まらないと、次の一枚をどれにするかは決断できないですね。悩んでいる時間も楽しいのが、きものです。もちろん、資金のふんだんにある方はどちらも手に入れて思う存分楽しんでくださいね!

 私のように、思い立ったらかなり低いハードルから超えていくこともできますよ!自分に「必要な」きものに出会って、きもの世界を楽しんでみませんか。

<この項、了>



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