カラスの魔法 8

 ー聞いた?山口社長の話。
 ー知ってる知ってる。加藤専務がさ・・・
 ー社長代理って言わないと、解任させられるよ!
 ーやだー!

 会社の事務担当の鎌田さんと梅森さんという女性二人が、社長と加藤のことを噂していた。
 みんな、反応は一緒だった。
 社長はいい人だけど、加藤についていけば、もっと給料がもらえるかもしれない。それだけ。
 僕のプロジェクトチームは空中分解して、リーダーの僕は本当の意味で窓際族になってしまった。
「高橋さん、お茶どうぞ。」
 鎌田さんに煎れてもらったお茶を飲む。僕以外の人の情報が知りたかった。
「ありがとう。えっと・・・次の開発企画とかって、もう立ち上がってるのかな?」
「えっと・・・ここだけの話ですよ。」
 鎌田さんが声のトーンを一段下げた。
「高橋さんには話すなって言われているので・・・メールします。高橋さんは文章を読むだけ。私、話してませんよね?」
 いたずらっぽい笑みを見せながら、鎌田さんは個人で使っているのであろうメールアドレスを教えてくれた。社内メールは見られている可能性があるから、いい手段だ。
 昼休みに、高橋です、とだけメールをしておいたら、帰りには添付ファイルが届いていた。
 ・・・それは、山口社長が見たら怒るだろうな、という企画書だった。

 ー話せるペットウォッチ、ワンダー君3980円とニャオンちゃん3980円!
 ワンダーくんは犬の男の子!別売りでわんこちゃん3980円と一緒にお話しさせよう!友達のワンダー君、わんこちゃんニャオンちゃん、にゃん蔵くんとバトルだ!バトルには別売りケーブル1080円が必要です。
 ニャオンちゃんはネコの女の子!別売りでにゃん蔵くん3980円と一緒に歌を歌うよ!
 ワンダーくんとわんこちゃんとニャオンちゃんとにゃん蔵君のすべてを買った方には、激レア!うさぴょん君3980円を買う権利がついてきます!
 カラーリングはそれぞれ3種類ずつ!いっぱい集めて友達に自慢しちゃおう!
 育てたペットウォッチは、ゲームセンターにあるペットびよりバトルゲーム一回200円でバトルもできるよ!ランキングに入って、学校の人気者だ!

「・・・すごい企画書だなこれ・・・」
 家のパソコンを立ち上げた僕は、鎌田さんからきた添付ファイルを見てため息をついた。
 少なくとも一人二つ買わせる計算のおもちゃ。こういうのは、山口社長が一番嫌う奴だ。
 加藤には、お客さんがお金にしか見えていないんだろうなということが手に取るようにわかった。
 けれど、これをどうするのだろう?こんなの、全国規模の玩具会社じゃないと、流通すらさせられない。
 ひょっとして、加藤はなにかコネがあるのだろうか?
 だから、みんな社長じゃなくて加藤についたのかもしれない。
 鎌田さんのメールには、最後に一文添えられていた。
ー大手の玩具会社、株式会社タカラへのプレゼンが決まっているそうですよ。
 僕は、やはり会社に残ることに決めた。
#小説 #カラスの魔法 #連載小説

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