カラスの魔法 7
夕食はお父さんの好きなカキフライだった。お父さんは、うれしそうにそれを食べていた。僕とお姉ちゃんは、あまり食欲がなかった。
「もう一度、会社を興そうと思うんだよ、紅葉。」
お父さんが、お母さんの名前を呼んだ。
「そうね、それがいいかもね。前の会社より、うんと大きな会社にすればいいのよ」
お母さんが、何度もうなずいた。僕は、本当にそれでいいの、と聞きたかった。
あの会社は、お父さんが、お母さんのお父さん・・・おじいちゃんからもらった会社で、ぼくやお姉ちゃんが生まれる前からあったという。
加藤はあとから入ってきたんだ。そして、何故か専務になった。労働組合の会長だから、といってた。
「取り戻さないの?」
僕が聞くと、二人は黙った。しまった。僕たちは、知らないことになってたんだった。
「新しい会社をつくるにしても、おかねはどうするの?場所は?」
お姉ちゃんの畳みかけるような質問に、お父さんはぽつりと言った。
「・・・取り戻す、ための、説明ができる場所さえあればなあ」
「それって、ぷれぜんとってやつでしょ?」
「プレゼンだよ。お姉ちゃんって、ほんとに」
バカだなあ、とは言わないでおいた。
「・・・物を、しらないなあ」
言ってから、あんまり意味が変わらないことに気付いたけど、まあいいや。
カキフライのほとんどがお父さんのおなかの中に消えたころ、ピンポーンと玄関の呼び鈴が鳴った。
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