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「オトナ対応」を超えて大人になりたい

「私も痴漢に遭いますが、私の見た目はアレですか?年齢はアレですか?」と、上長に返した。

 いつものトーンで、怒り狂ってなかったと思うし、かといって笑ってもいなかったと思う。その後、自分が社会人になってから遭遇した中で一番怖くて一番気色悪かった痴漢の話をした。会社帰りの地下鉄で、上長も乗っているはずの路線だった。
 
 少し前までいた職場は外資だったせいもあるのか、性差別や人種差別などに対する研修はしっかりしていたし、セクハラ被害の救済が機能していた例も知っている。だから、Twitter などで見かけるようなとんでもないセクハラや性差別を仕事中に受けることはほぼなかった。仕事後の飲み会で、酔っぱらって契約社員さんの手を握り出したり、「もっと女子力高いもの(お酒)頼みなよ」だの言う男性はいたし、頼まれてもいないのに独身の男性社員に街コン(懐かしいな)の情報を送る女性社員はいたけれど、と書いてみたら結構酷いな。まあでも一応業務時間外ではあった。
 ただ、その時の私の男性上司は「どぎついジョーク」が得意だと自分で思い込んでいるタイプで、その時も、何の話からか痴漢被害の話になり、いつもの調子でこう言ったのだ。

「痴漢痴漢って騒ぐ人って大体見た目がアレだったり、年齢がアレだったり、あなたが痴漢に?嘘でしょう?って人ばっかりだよね。」「本当に痴漢なんているの?」と。

 SNS 上でも痴漢の話題にこういうコメントは絶対出てくるし、「女扱いされてるアピールウケるw」みたいなコメントも多い。そういうこと言う人に自分が受けた被害を告白する人なんていない。だから、実態を知る機会が極端に少ないのだと、少し考えればわかるはずなのだが。

「娘さん、中学校から電車通学ですよね?娘さんが痴漢に遭ったって相談してきたら、おまえは若くて可愛いからしょうがないって言うんですか?」と、本当はそこまで言いたかった。そう言って詰め寄りたかったけれど、そこは我慢した。職場で他人の家族の話を出すのはふさわしくないと判断したから。
 
 それまでの私だったら、顔だけ笑って「またそういうこといって、セクハラだって言われますよー」だの「酷いなーカワイイ子だって痴漢に遭いますよー」だの、適当に流していた。求められている対応はそれだと思っていたし、多分それで合っていたから。これこそ、まだまだ男性社会の職場の中でスイスイと泳いでいくためのオトナ対応。
 でも、この時にはもうそういう対応が出来なかった。

 私がこの発言を、ドギツイけれど核心を突いたジョークだと認めてはいけない。痴漢の被害者はそこここにいて、そういった発言に憤慨したり、何度も思い出してしまい苦しむことを、伝えなければいけない。そう思った。誰かに頼まれたわけでもないのにね。
 趣味のコミュニティで自分の半分以下の年齢の人と交流する機会が増えたり、小学生になった姪っ子と話したりするうちに、自分の気持ちの持ちようが変わったように思えた。
 彼ら彼女らが大人になって仕事を始める頃になっても、こんなことを平気でいう大人がうじゃうじゃいるのは我慢ならないと思った。私が向かい合える人の数などたかがしれているけれど、それでも向かい合って、それは無礼で、事実誤認で、人を深く傷つけるということを伝えなくてはだめだと思った。

 自分がそれまで得意としていた「オトナ対応」とはなんだったのだろう。心の中で「こいつマジで最低だな」と思いながら、適当に笑って「また酷いこといってー」などと流していたのは、誰のためにも自分のためにもならなかった。仮に困ることがあるとして、一瞬その場の空気が凍りつくとか、ネタにマジレスする扱いづらい人間だと思われるくらいだ。いや、後者は別に困らない。
 自分が受け流すことによって、「慣習的な」侮辱や性差別、容姿や年齢への攻撃を是とする笑いは少しも薄まってはいかない。ほんの微々たる量であっても、そういうのはもういらない、垂れ流すなと言っていかないといけなのだと思った。
「オトナ対応」を超えて、大人になりたい。


 「#大人になったものだ」のお題を見て、ふと書きたくなったので少し前の出来事を思い出しながら書いたのだが、多分ここで募集してることってこういう話じゃないと思う。

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