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【随筆】視界が大回転した

事のあらまし


 ある夜、さてそろそろ寝ようかと身体を動かしたところ、ぐるりと世界が回った。たまらず床に倒れ込む。いきなりのことで、ちょっとびっくりした。直近の忙しさが祟ったか、はたまたとある漫画作品を一気読みした精神的疲労によるものか……。めまいに効くツボを検索して押してみたりしたけど、いまいち効いた感じはしなかった。
 ともあれ、私はなんとか寝る支度を終え、朝には回復していてくれと願って横になり、目を閉じた。

 すんごく回った。

 人生で経験のないめまいだった。目を閉じていても、無限に後ろに倒れていく感覚がある。いつかテレビで見た、後ろ向きに落ちるジェットコースターのことを思い出した。私は苦労してあれこれと体勢を変え、眠りについた。

 朝になって、状況はひとつも好転していなかった。頭を動かすととにかくぐるぐると視界が動く。起き上がろうとしても身体の平衡が保てず、立つなんてもってのほか。家の中を這って移動したが、あまりの気持ち悪さに戻してしまった。そこから夕方まで、ひたすら安静にして過ごした。幸いにも(?)、頭の向きを変えなければめまいは起きなかった。
 夜になって、翌日以降のことを考えなくてはならなくなったので、まずは自分のめまいの原因を探ることにした。
 自分の症状と一番近いのはこれだった。

 メニエール病も疑ったが、めまいの持続時間はそれほど長くなく、聴力もいたって正常だったため候補からはずした。

 次に、このめまいをどうするかについて考えた。いろいろなWebサイトを見たところ、どうやら耳鼻科に行くと良いらしいので、Google Mapで近所の耳鼻科を調べてリストに追加した。

 しかし、不安が燻った。仮に明日になっても全く歩けない状態だったら、どうやって受診するのか。タクシー? 頭を動かすだけででろんでろんになってしまう人間が、そもそもタクシーに乗るため家を出られるか?

 そんな中で、とあるnoteの記事を見掛けた。自分と同様、一人暮らしでめまいに襲われた方の記録。それが大変参考になった。私は救急に頼ることを決心して、まずは#7119に電話した。

 回線が混んでいるようで、3回ほどかけ直した。
 症状や周辺の状況などの確認の後、看護師さんは「家の中すら歩けないようなら救急車を呼んだ方が良い」とそのまま119に回してくださった。

 強烈なめまいに耐えながら、荷物をまとめ、玄関の鍵を開け、救急車の到着を待った。
 玄関の外にはシート状の担架が広げられており、そこに横になった。よく晴れた寒い夜だった。空がすごく綺麗に見えた。不調の時に見るものは大抵普段より美しい。

 救急車の車内で氏名・生年月日・今処方されている薬などを訊かれた。搬送先が決まるまでの間に、腕を挙げたり指を動かしたりと、おそらく脳に異常がないかのチェックが行われた。
 また、救急隊の方の指を目で追うよう言われた。不快感が強く、うまくできなかった。「水平眼振」と記録する声が聞こえた。
 念のため、脳の検査ができる病院に向かうことになった。

 病院につくと、血液検査と点滴の準備が行われた。点滴にはめまいを抑える薬が入れられた。
 症状の聞き取りの際、医師の方が「1日もよく頑張ったね」と言ってくださって、不覚にも泣いてしまった。医師の方は「泣かないでよ」と笑っていた。

 3時間ほど横になっていた。深夜の救急科にはいろいろな人がやってくる。その慌ただしさを聞きながら、うとうとしていた。

 点滴が終わる頃、看護師さんが様子を見に来た。血液検査の結果は何の問題も無かったそうだ。「身体を起こしてみましょうか」と言われ、ストレッチャーの背が上がった。少しぼんやりしたが、強いめまいはもうなかった。
 別の医師も来て、私の目に光を当てた。「瞳孔が少し開き気味なのが気に掛かるね」と言っていた。
 身体を起こしてなんともなかったので、立ってみることになった。点滴スタンドに掴まりながら、なんとか歩くことができた。医師や看護師に「背大きいねえ」と声を掛けられて、少し照れた。

 家に帰ることになった。薬の処方を待ちながら、点滴を外してもらい、上着を着た。薬の説明を受けてから、窓口に向かった。深夜のことだったので料金は後日の支払いとなった。私が書類の記入を済ませると、病院の方がタクシーを呼んでくださった。

 階段を懸命に登って、家についた。室内は、朝に這って移動したときに散らかしたままになっていた。疲れていたので、すぐに寝た。

 目が覚めると、もうめまいはほとんどなかった。歩行も、ふらつきながらではあるが出来るようになった。
 今も、寝すぎて頭が痛いくらいで他は至って普通である。

おわりに

 めまいは軽く見ない方がいい。受診するなら耳鼻科、あるいは脳神経外科。
 一人暮らしだと自分以外に自分の世話をしてくれないので、動けるうちに打てるだけの手を打つべき。歩けないなら救急車の利用を考える。

 これを読んでくれた人たちが、こんな目に合わなくて済むことを願っています。

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