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いい子って、どんな子
4歳になる娘がお腹にいたとき、身体のコンディションを整えるために臨月まで通っていたサロンがあった。
院長は適度な距離感を取れる方で、心地よかった。産後出かけられるようになったら必ず調整に来てくださいね、お子さん連れでね、という言葉もいただいた。
それで、初めての出産から数ヶ月して、そのサロンにふたたび予約をした。子連れ歓迎、との言葉もいただいたので、改めて報告も兼ねて。
家から電車で40分ほど、早めに近くまでいき、授乳を済ませ、ご機嫌からの、お昼寝娘。
まだそれほど慣れないベビーカーを押して、
半年ぶりのビルへ。
入口に5段の昇り階段がある。
まだ娘は小さかったし、このくらいの階段はベビーカーを持ち上げればOK。
思えばこれが、きっと予兆だったのだけど、
その時はまだ、気付いていなかった。
サロンにつくと、下駄箱に靴がある。
お客様の少ない平日の日中を選んだけれど、
他の方がいらしているということ。
身体を整えに来る場所で、幼子の泣き声が聞こえたら、クレームにならないだろうか。
そう思いながらも、
ご無沙汰していたサロンの皆さんにご挨拶して、まだ寝ている娘をベビーカーに乗せたまま、着替えて施術開始。
臨月の時が思い出せないくらい、物理的には軽くなっていたけど、初めての、慣れない子育てでずっしり重かった身体を預け、数分。
娘が泣き出した。
施術を止めてもらい、抱っこで泣き止むものの、ベビーカーに置けばやっぱり泣く。
結局、落ち着かない気持ちのまま、泣いてる娘をあやしたり、そのままにしたりしながら、40分が過ぎる。
あれほど長い40分は、久々だった。
身体は全然整った感じもしないし、なんなら申し訳なさが先に立って。
でも「赤ちゃんは泣くのが仕事ですからね!」という院長の言葉に少しだけ救われながら、エレベーターを降りた。
忘れていたけど、入口の階段は、帰りは下りだ。
心もずっしり重くなっていたけど、再びベビーカーを持ち上げて、5段を下る。
人通りのない立地が、こんな時に災いするものだ。
その次に訪れたのは、夫が休みの日曜日。
娘は預けて、単身で。
娘と6時間も離れて一人で外出するのは、初めてだった。
髪を切って、サロンに寄って、大急ぎで、なんだか半泣きになりながら帰った。罪悪感とかはなかったけれど、毎日ほぼ一緒にいたから、身を切られるような思いだった。
泣き疲れた娘も、半日相手していた夫も白目になりながらも、結果として、はじめてのおでかけは、多分、うまくいったのだと思う。
でもそのサロンにはその後通わなくなった。
他のお客様にどうこう、が理由でもないし、遠いから、でもない。
元旦に届いた年賀状に
「いい子にしてられるようになったら、またきてね」と、娘あてにコメントが書かれていた。
娘は、いい子だ。
なんならいい子にしてるわけじゃなくてもうそれは生まれながらに世界一いい子。
もうここには行けないと思ったのは、それだけ。
4人のお子さんの親である院長が、そうコメントを書いてくるとは、参った。
このサロンに通うようになったキッカケは知人の紹介で、臨月には、4回の出産を見てきた彼のコメントが、支えにもなっていたのだけど。
いい子にしてられたら。
泣く子は、いい子じゃない。
言葉にはそんなに深い意味はなかったのかもしれないけれど。
母に付き合って遠出してくれた娘に、
母の外出を泣きながら留守番(父ちゃんと)してくれた娘に、
合わせる顔がない。
それなら、もう行かない。
その後縁あってもうひとり授かることができ、二人目の産後は、家から歩いて行ける距離で、信頼できるサロンに出会えた。
ご夫婦で経営されていて、わたしが予約している時間は、他のお客様はなく、なんと、ひとりが施術、ひとりが息子をずっと抱っこしてくれていた。
途中泣いてる声がきこえても「大丈夫ですよ〜見てますから!」と一声。終わって「ずーっといい子でしたよ!よく泣いてよく笑ってました!」と一声。大きくてずっしり重かったであろう息子は、ママ先生にとても懐いていた。
それはそれで、申し訳なさもあったけれど、「全くそんなふうに思わないでください。産後の身体を整えること、お母さんが元気でいることが、お子さんにとって最善なんです」
と言ってくれて、更衣室でマジ泣きしたほど。
もう2年、コロナ騒動の渦中も、そこだけは定期的に通っている。もちろん、育休明けてからは、単身で、2歳の息子は「おかあさん、にちようびは、おせなか(背中)しにいくの」と快く?送り出してくれている。4歳になった娘は「おかあさんごはんもお外で食べてくる?」ともはや母ちゃん自由時間。
やっぱり、いい子だ。
もう、あのサロンには行かないけども。
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