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デジタル庁が立ち上がる今だからこそ、UK GDSの失速について語ろう

本記事は、CivicTech & GovTech ストーリーズ Advent Calendar 2020 の24日目の記事です。23日は misatokunaga33 さんの、「Code for Fukuoka 2020年振り返りと来年に残すもの」でした。

デジタル庁の役割

日本政府は、12月21日に開催されたデジタル・ガバメント閣僚会議にて、デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針(案)を公開しました。

その中でデジタル庁の役割として以下のように述べています。

1.基本的考え方
デジタル庁は、デジタル社会の形成に関する司令塔として、強力な総合調整機能(勧告権等)を有する組織とする。基本方針を策定するなどの企画立案や、国、地方公共団体、準公共部門等の情報システムの統括・監理を行うととともに、重要なシステムについては自ら整備する。これにより行政サービスを抜本的に向上させる。

また、デジタル庁の業務としては、以下のようなものになるようです。

(1)国の情報システム
(2)地方共通のデジタル基盤
(3)マイナンバー
(4)民間のデジタル化支援・準公共部門のデジタル化支援
(5)データ利活用
(6)サイバーセキュリティの実現
(7)デジタル人材の確保

そして、担うべき機能と位置づけについては、

・ 各府省等に対する総合調整権限(勧告権等)を有する強力な司令塔機能
・ デジタル社会の形成に関する基本方針を策定するなどの企画立案を行う機能
・ 政府全体のシステムを企画立案し、統括・監理するとともに、自らが予算を計上し、重点的なシステムの整備・管理等の事務執行をする機能

と記載されており、強力な司令塔機能を担い、民間人材の大規模登用を行う予定になっているようです。

イギリスのGDSについて

実は、このような司令塔機能を担う組織の設立というのは海外にもお手本があり、イギリスのGDS(Government Digital Service)が良く知られています。GDSは Mike Bracken 氏を始めとする優秀な民間人材を招き入れることで行政のデジタル化を一気に進めた代表的な組織であり、その後の米国の GSA (U.S. General Services Administration) にも大きな影響を与えました。私も2013年の Code for America Summit で Mike Bracken 氏のプレゼンテーションを見て、度肝を抜かれたのを覚えています。

GDSが開発した「gov.uk」は、それ以前の費用に比べて何倍も安く開発され、2013年にはデザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。

実際、日本国政府においても、GDSはベンチマークの一つとして大いに参考にしていると思われます。

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内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「デジタル化の推進について」より

日本においても、gov.uk のような統一ウェブサイトを開発する、という計画があります。

GDSは失速している

しかしながら、多くの改革を進め、成果を出しているように見えた GDS は、2015年頃から徐々に陰りを見せ始め、今では失速しているように見えます。Mike Bracken を始めとするGDSの立役者も離職していきました。実際、2019年に神戸市に来てくれたGDSのメンバーも、現場からの揺り戻しが起きた結果、一時期の勢いが無くなっているようなことを言っていました。一体何が起きたのでしょうか?

2018年9月に書かれた記事、「The rise and fall of GDS: lessons for digital government」を見てみましょう。

2011年に設立された英国政府デジタルサービスは、オンラインサービスの変革において世界をリードしてきましたが、その後、英国のデジタル改革は停滞しています。GDS立ち上げの主要人物3人が集まり、その遺産について検討することでその理由を明らかにし、他の政府がどのようにしてその教訓から学ぶことができるのかを説明しました。

この記事によると、GDS は"圧倒的な大成功"とは言えるものの、素晴らしいユーザーインターフェースにより改善された利便性と対象的に、依然として裏側のシステムは古いままで、行政職員はレガシーなシステムに振り回されている状況のようです。Bracken 氏は、上記のパネルの中で、GDSが「プラットフォームとしての政府」を追求する上で直面した障害、すなわち、政府の各部門で使用するための本人確認、ユーザーコミュニケーション、オンライン決済などの標準化されたデジタルサービスを提供することに、明らかに不満を感じていたようです。

「部署を運営している多くの人々は、プラットフォームモデルが自分の権力を奪うと根本的に考えています。政府内での権力は、『自分の世界でどれだけのレバーをコントロールできるか』というように認識されることが多いため、彼らはそう考えているのです」とBrackenは続けます。「部署内の主権争いの文化は驚異的です。」

内部から組織構造を改革していくには、権力構造があまりにも強力に固定化されすぎているという発言もありました。また、インタビューの中で、「サービス利用者よりも主権を優先する指導者文化」が根本的な課題であるとも述べています。また、財務担当省庁のITに対する無理解も、Bracken氏を悩ませました。

財務省との調整は、おそらくGDSで我々が抱えていた最大の問題でした。

GDSから学ぶべきこと

ここから得られる教訓は、デジタルのことがわかる人が政治的にも力を持つべきであることと、関わる職員全体がデジタルについての理解を深める必要があるということです。そして、そのような学びを得るには、政府外部の人々とのオープンな交流が有効です。

Bracken 氏は、セッションの締めくくりとして、「私のシステムを使えば私の勝ち、あなたのシステムを使えば私の負け」といったような組織の論理を排除し、部門間で問題意識を共有し、部門を助ける素晴らしいツールを提供することが最も重要であると言っています。

失速したとはいえ、GDSが行った数々の改革は素晴らしいものでしたし、これから外部の高度IT人材を多く雇用する予定の日本においても参考になることは多いはずです。Service Standard は何度読んでも良いものですし、政府内のIT人材の能力フレームワーク Digital, data and technology (DDaT) も素晴らしいものです。

GDS の失速と同じにはならないよう、日本政府も、外部人材とプロパー人材とがフラットかつオープンに話し合えるような環境づくりを考慮していただきたいと思っています。


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