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東京大学Urban Sciences Labでのシビックテック講座に関する質問と回答

先日、東京大学まちづくり研究室 Urban Science Lab の吉村先生にお誘いいただき、シビックテックとまちづくりの関係について講義をさせていただきました。下記にスライドを公開しています。

スクリプトが無いと何を話したかよく伝わらないかもしれませんが、Sli.do を使って集めた質問がとても質が良いものばかりで、時間的にもすべて答えられなかったのでこちらにて回答したいと思います。

Q: 共創のプロセスに実際に参加される住民は,もともとまちづくり等に関心のある人など限られた層にならないのでしょうか?

A: シビックテックのポイントは参加の仕方の多様性にあります。従来のタウンミーティングなどでは、昼間仕事がある人は参加できません。そもそも行政が場を設定する時点でだいぶ参加者のバイアスがかかってしまいます。Code for Japan などのシビックテックコミュニティでは、サミットのような場やシビックテックライブ、ソーシャルハックデイなど様々な参加機会を作っていますし、大学に出ていくなどのアウトリーチの機会も作っています。オンラインで参加できる場もあり、ライトなことからガッツリプロジェクトに参加するようなことまで、様々な参加のレイヤーがあることが重要です。

Q: Code forのイニシアチブは、ハッカソンのような場にも(単発/短期)、戦略やビジョンづくり(長期)にも、両方活かせそうですが、前者のイメージが強くあります。 長期ビジョン・戦略づくりに生かされている例や可能性はどのようなものがありますか?また、短期・長期の連携はどのようにできるでしょうか?

A: シビックテックには、ボランティア的な関わりから長期的かつプロフェッショナルな関わりまでグラデーションがあります。Code for Japan にはコミュニティ活動の顔と、自治体や国などに対して中長期的に責任を持って行う「仕事」として関わる顔があります。その間のプロボノ活動もありますし、副業的にスポットで力を貸す専門家的な関わりもあります。長期ビジョンや戦略づくりといった、ある程度時間や品質を求められる活動の多くは、対価をもらい仕事として関わることが多いです。実際、福山市でのICT戦略づくりは Code for Japan として対価をもらってコンサルティングしていますし、内閣府でのあるポリシーづくりや、経産省とのアジャイルによるプロトタイピングなどの案件も対価をもらって行っています。データアカデミーは地方自治体向けのデータ活用ワークショップですが、ワークショップの講師に各地域のCode for のメンバーをお願いしたり、参加者に招くこともあります。(短期・長期の連携)

Q: 避難所のマッピングの例が出ていましたが、誰でも気軽に参加できるようになると情報の信頼度が低下してしまうように感じるのですが、情報の信頼性を保つために工夫されている点はありますか?

A: 東日本大震災のときにはデマが多かったので、情報収集班と情報レビュー班を作り、レビュー班向けにはリテラシーが高いひとによる事実調査マニュアルを作りました。とはいえ、正確性を完全に担保することは民間のボランティア的な活動ではできません。今行っている紙地図のアプリもそうです。その代わりに提供できる価値として、網羅性や迅速性があります。行政の出す情報は正確を期していますが網羅性やスピード感に欠けてしまいます。その代わりに我々の集める情報は早い。間違った情報に触れてしまうデメリットよりも、必要な人に情報を届けられるというメリットを取っている形になります。行政ではできないことをできるのがコミュニティ活動の良いところです。もちろん慎重には進めないといけませんが。

Q: ボトムアップ的な開発だと限界があるのではないでしょうか?企業が持つようなビックデータを使うことが今後必要になってくると思うのですが、それをいかにオープン化するか、介入していくかということについてはどう考えていますか?

A: 自治体だけでなく、企業と連携した活動も行っています。地域フィールドラボというプロジェクトでは、自治体の職員として3ヶ月だけパートタイムで働く社員を企業から募っています。これによって、企業は自治体の課題を知り、自治体は企業の働き方を学ぶ。そういった人材交流から、いろいろな成果が生まれています。また、国の委員会などを通じて、オープンデータを始めとするポリシーづくりに協力しています。

Q: ノンテックでも誰でも関われたり、行政が情報をインプットするだけでアップデートできたり、ツール開発後の運営コストが非常に小さいツールが多いと仰っていましたが、これは戦略に基づいて運営コストの低いツールに集中して開発しているということでしょうか?

A: はい。継続的なリソースを割きづらいコミュニティ活動では、運営コストをなるべく低くするほうが継続性が上がります。今は GIthub Pages や Google Spreadsheet など無料で使えるサービスも多く、まずはプロトタイピングをして使ってみて、そこから得られた知見を元にあるべき姿を洗い出すことが多いです。その上で、継続的な費用や追加開発などで予算が必要な場合はその方法を探していくということになります。その仕事については、企業やNPOと組んだりして進めることが多いです。

Q: テックコミュニティと、まちづくりの人々は、なぜかどこか隔たりがある気がします。前者は解決するのが得意で、後者は当事者性が強く 課題や可能性の解像度が高いかもしれない。そこがつながるには何があるといいでしょう。

Q: ボトムアップのイニシアチブと、行政/政策などのシステム変更できる立場をつなげるには、何が必要だと思いますか?

A: その2つの領域をつなげるのに必要なのが、翻訳者及びプロジェクト設計だと思います。両方の立場の人の気持がわかり、両方の言葉で話せる人。テックコミュニティがまちづくりを学んでも良いし、まちづくりの人がテックを学んでも良い。例えば Code for Japan では、自治体の職員として企業人材が3ヶ月間パートタイムで働く「地域フィールドラボ」という仕組みがあります。また、ノンテックの人にわかりやすくテックを教える「Tech for Non Tech」というワークショップも開催しています。後者のプロジェクト設計ですが、実際に共同作業でプロジェクトを行ってみることで両方の領域に詳しくなることが可能です。Social Tchnology Officer 創出プロジェクトでは、NPOとテック人材をマッチングしています。参加の機会を広く作ることで、何かしらのプロジェクトに参加して、そこで周りの人がやっている行動から学ぶことができます。ともに考えるだけでなく、「ともにつくる」ことが相互理解につながるのです。

Q: これまでは既存のハードをうまく活用するためにソフトが開発されてきましたが、これだけソフトで出来ることが増えると、ソフトに合わせてハードを作るような将来が考えられそうなのですが、そのような事例や展望はあるのでしょうか?

A: 例えば、「オープンソースハードウェア」という概念があります。https://ja.wikipedia.org/wiki/オープンソースハードウェア 他にも、3Dプリンタで作れる義手のモデルデータなども公開されています。また、都市のサービスをAPIの組み合わせと考え、それに互換性を高めるための仕組み、CityOS といった概念を提唱する地域も増えてきました。 まだまだ過渡期ではありますが、ソフトとハードの境目はどんどん曖昧になると思います。

Q: 行政の仕組みをバザールモデルにしていきたいと言うお話がありましたが、実際にcivic techきっかけで行政サイドの制度や施策が変革していったことはありますか?また、両者がどのように協働していく関係性が望ましいのでしょうか?

A: 先日紹介したさっぽろ保育園マップだけでなく、Code for Kanazawa から生まれた 5374.jp という、ゴミ回収日をお知らせするアプリは、オープンソースで公開され100箇所以上に広がっています。また、オープンデータのポータルとして各地で使われているデータカタログシステムは、CKAN というオープンソースソフトウェアを使って作られていることがほとんどです。オープンソースを使い、それを公開することで市区町村ごとの開発負担を減らしつつ使い勝手の良いシステムになることが始まっています。他にも、千葉市は「ちばレポ」というシステムを使い市民レポートを集めています。道路のひび割れや公園の落書きといった情報をアプリで受付け、対応状況も見える化されています。一部の限られた人たちだけが街に関わるのではなく、参加をする機会が増えてきているわけです。協働のしかたはさまざまですが、行政だけでは作りづらい、より広い参加の場をシビックテック側が作り、街を愛するポジティブな人たちを増やし、そこから様々なプロジェクトが生まれていくことが重要だと思います。そこで生まれた取り組みを、行政側が支援するという関係性が理想です。

Q: 市民が自発的に行うものである以上、開発関係者が途中でフェードアウトするとサポート等されず使えなくなってしまうリスクがあり、行政がそれに頼りきった社会に移行してしまっていた場合に市民が情報にアクセスできなくなってしまう可能性があるように感じられるのですが、そうならないような対策は何か考えられているのでしょうか?

A: 前述の質問でも少し書きましたが、長期的なリソースを責任持って提供する「仕事」と、市民が自発的に行う「ボランティア活動」とは別物です。それを混同してはいけない。Code for Japan も、ボランティアで働くコミュニティ活動と、プロフェッショナルとして働くプロジェクト活動との2種類があります。プロフェッショナルとして提供するサービスの場合は、しっかりとした体制を確保します。また、実際にはその間にはグラデーションがあって良いと思っています。イチ市民として自発的に始めたプロジェクトが本当に素晴らしいものになって、行政が予算化して使いたくなったら、Code for Japan を通じて仕事にしても良いし、企業にお願いしても良い。お金をもらって仕事にしても良いと思います。ご自身の動き方も、プロボノもありますし、パートタイムの関わりもあります。謝金を支払う関係もあります。Code for Japanの社員になって働いている方もいます。我々だけではリソースや能力が足りない場合は、企業とも組んでサービス化を行います。我々が重視しているのは、オープンガバナンスです。企業の活動もオープンにできますし、市民活動もクローズドになりえます。特定の事業者が自治体を囲い込んでしまうようないわゆる「ベンダーロックイン」には賛成しませんが、オープンな指向性があるのであれば一緒に活動ができます。一方、価値を生んでいるけれどもそういった持続化のリソース(個人のモチベーションも含め)の目処が立たずサービスが閉じてしまうというパターンももちろんありえます。ただ、それが本当に必要なものであれば、別の人が始めるでしょう。オープンソースであれば更に再利用性が高まります。

Q: 運営費はどのように賄っていますか?また運営費に対してアウトプット(費用対効果)はどう評価してますか?

A: プロジェクトベースで様々です。Code for Japan は基本的に行政や自治体からの業務委託が多いですが、企業から研修費をもらう場合もあります。企業からの助成金をもらっているものもあります。一方、各地域の活動は完全ボランティアの場合もありますし、自治体から運営補助金のようなものをもらっているところもあるでしょう。こういった活動は分かりやすく費用対効果を説明しづらいことが多いです。特に地域の活動の場合は、コストが掛からない運営にすることで長期的に活動できるようにしているという側面があるのではないでしょうか。

Q: 依存→共創へ、ということに至ったきっかけはあったのでしょうか

A: 講義の中で触れましたが、私にとっては東日本大震災がきっかけでした。他の人では、海外に行って気づいたとか、家族が生まれて行政の大事さや非効率さに気づいたとか、サミットに参加したとか、そういったきっかけがあるようです。

Q: 注目しているCode for の地域(海外)と国内の活動にはそれぞれどのようなものがありますか。日本と海外でトレンドの違いはありますか?

A: どこもユニークで勉強になりますが、台湾の g0v には注目しています。コミュニティの中からデジタル担当大臣が生まれるなど、大変活発に活動しています。各国の違いですが、米国は市民が行政に関わる積極性が高いため、シビックテックがかなり進んでいます。台湾や香港は、中国に対する恐れがベースにあったりするので、アクティビストの割合も多いです。欧米ではオープンソース活動への理解が進んでおり、EUや国も積極的に資金を提供していて、資金力も違います。メキシコは国がシビックテックを推進しています。

Q: ボトムアップでできること / できないこと について感じていらっしゃることがあったらお聞きしたいです。

A: ボトムアップでしにくいことは、実は利害調整です。誰かがトップダウンで決めたほうが早いことも多いです。一気に方向を決め、最短距離で進んだほうが良い場合はボトムアップは向いていません。そういう意味では、首長というのは本当に重要な存在だと思います。でも、選挙もある意味ボトムアップの仕組みのはずなので、もっと投票率が上がればいいのにとは常々思っていますが。

Q: 行政が提供しているWebサイトが使いづらかったり、内部のデータ管理が各部署でちぐはぐだったりする根本的な原因は何だと思いますか。関さんご自身が行政の人間になって、中から変えていこう、それをベースとして各行政に働きかけようと考えられたことはないのですか。

A: 2点あります。1つはスペシャリストが育ちにくい点、もうひとつはデータ整備が評価されない点です。移動が多いので専門家が育ちにくく、外注も多いのでノウハウが溜まっていきません。また、データに基づいた業務の概念自体が希薄なのと、他部署との連携があまり重視されないので、一人だけデータを整備しても評価がされません。中から変えていこう、という意味で、Code for Japan ではデータアカデミーという自治体職員向けのデータ活用ワークショップを行っています。これまで60自治体くらいにワークショップを提供してきましたが、情報系の職員だけでなく、所管課のメンバーにも来てもらって、実際に業務の質を上げるための提案も一緒にさせてもらうのがポイントです。

Q: 共創がうまく回るコミュニティの規模感があるように思いますが、経験的にどれくらいの人数が集まるとCode for が機能する感じでしょうか。

A: コアメンバーは3名くらいはいたほうが良いですが、それくらいからで大丈夫です。また、イベントごとに声かけたときには、10名くらいは集まってほしいところです。

Q: Wikipediaにしてもそうですが、オープンソースデータの信頼性はどのように担保しているのでしょうか。(嘘情報・古い情報をどう排除するか)

Q: オープンソース開発におけるセキュリティの確保はどのような思想に基づいているのでしょうか?

A: オープンソースは、使う人が増えれば増えるほど監視の目が増えて安定していきます。誰でもツッコミや修正を入れられるので、それを通じて品質が上がっていくわけです。オープンデータも利用者が増えることが重要ですね。品質が低いことで困る人が増えれば増えるほど質があがるのですね。逆に、行政の情報も、ものによっては間違っていたり古かったり、偏っていたりと言った点で品質が低いときもあります。クローズドソースだからセキュリティが高いわけではなく、そこに予算をかけていなければいずれにせよセキュリティは甘いはずです。知っている人が少ないのでリスクが顕在化していないだけです。全国自治体が使うオープンソースソフトウェアがもしあったとしたら、それはかなり堅牢になるのではないでしょうか。

Q: シビックテックを行政に実装していくには、おそらく徐々に段階を踏んでステップアップしていく形になるかと思います。①最終的には(目標像としては)どのような形になることを想定していますか? ②また、海外or国内では現状では最先端ではどのような段階まで進展しているのでしょうか?

A: 目標像としては、シビックテックが当たり前の概念になり、社会福祉協議会や商工会、NPO、まちづくり組織のような組織が普通にオープンソースやオープンデータを使っているようになることです。わざわざ Code for Japan がいろんな地域に行かなくても良くなっているのが、シビックテックが社会実装された姿かと思います。海外では、そもそも行政のテクノロジー活用が日本よりも進んでいるところが多いです。スマートシティ関連の議論もベンダー主導ではなく市民を巻き込む必要があるよねというフェーズになっていますので、シビックテックが活用される余地も増えています。ヨーロッパでは行政のオープンソース利用はあたりまえになっています。また、別の視点からだと、市民参加型予算編成といった、政治に関係するシビックテックは日本ではとても遅れています。日本では選挙候補者のデータや議会議事録でさえオープンデータ化されていませんので。とはいえ、海外でもまだまだ課題はあって、ノンテックとテックの溝は深いと思っています。

Q: 非常に有用なツールが多いように思いますが、行政系のツールは特に普及が難しいように感じます。こういったツールを一人でも多くの市民に知ってもらうにあたっての広報戦略などはございますか?

A: 広報戦略!Code for Japan の弱いところです。限られたリソースの中で活動しているので、広報などにかけられる予算があまりなく、いつも苦労しています。どなたか手伝っていただける人がいたらぜひお願いしたいところです。とはいえ、先日の Code for Japan Summit には2日間でのべ1003人が来場しました。少しづつ認知は広がってきていると思います。

Q: 寄付の仕組みが小さい日本で、公的な目的のプロジェクトの資金調達をする際に、企業のリソースを受け入れることはよくあると思うのですが、その際に企業との事前取決めで留意していることはありますか? (伽藍型になるのを避ける、ということを想定しています)

A: オープンな志向を持っているか、囲い込もうとしていないか、本当に自治体や地域のための活動なのか、という点を重視しています。なにか共同で事業をやる際にも、できるだけ特定企業以外の参加も可能な形にしています。

Q: 参加による小さなデモクラシーにとても共感する一方、個人の動機づけが広がるには、様々なハードルがあることも痛感しています。 一歩めの背中を押すことなのか、結果がフィードバックできる体験なのか、、何かお考えのことはありますか?

A: 小さくても良いから一歩目の背中を押すこと、そして、踏み出した一歩を応援する仲間を増やすこと、が重要だと思います。リーダーだけでなくフォロワーも重要だと思っています。特にシビックテックは成果が目に見えにくいことが多く、同志による共感のネットワークが必要です。様々なバックグラウンドを持っていて、戦うフィールドがそれぞれ違っていても「ともに考え、ともにつくる」という言葉のもとにつながった仲間がいて、それぞれゆるくつながっていれば、どこかで花開くときがあるのだと感じています。自治体の中でまだチャンスを得られていない職員でも、例えば Code for Japan Summit などの場でスタッフとして大活躍する人もいます。その人が力をだせる機会をどんどん作っていきたいです。

Q: Code for Japan の活動資金、団体としての収入はどのように得てらっしゃいますか?

A: サミットなどのイベント毎はスポンサーも募っていますが、収支はトントンです。スタッフの活動費のほとんどは、行政からのプロジェクトの委託業務から得ています。自治体のICT戦略づくりのコンサルティングや、省庁のアジャイルプロジェクト開発費、働き方改革、DX推進のサポート、といった業務を行っています。また、Social Technology Officer 創出といったプロジェクトは日本NPOセンターさんとの共同事業で、NTTデータさんなどの寄付を得て活動していますし、地域フィールドラボでは、企業研修プログラムとして、企業から費用をもらっています。少ないですが、会費収入もあります。

Q: 理解のある行政組織ばかりでなく、むしろこうした取り組みに批判的な行政も多くあると思います。行政との共通言語が無くて苦労したお話しをされていましたが、その辺り詳しくお聞かせ下さい。

A: Code for Japan の場合はフィールドが全国ですので、オープンデータ関連で色々と話しをしていく中で、話が通じるところと実績を作っていきました。国の委員会などにも参加させていただく中で、自治体の事情や課題などについても詳しくなっていきました。その後私自身が神戸市の非常勤職員となったことで、行政の内部の仕組みを相当勉強させていただきました。職員としての経験ができたことは、職員に伝わる言葉を習得する上でかなり大きかったと思います。 

Q: 通信の自由に関する懸念はありますか? 中国のように、個人の通信が傍受・監視されていくことにより、既存政府とシビックテックの衝突が高まる可能性はあるのでしょうか?

A: 十分ありえる話だと思います。日本が中国のような監視状態を作るかというとそういうことはないと思いますが、例えば今でも警察は礼状無しに各所にある監視カメラの映像を見ることができます。リクナビが内定辞退率のデータ提供を行っていたことなどもあり、企業のデータガバナンスも確立されていません。欧米の GDPR のような仕組みを導入するのかどうか、といった点は国際競争力にも影響してきます。日本のシビックテックはアクティビストは少ないですが、政府のカウンターパート的な役割も時には必要だと思っています。

Q: 伽藍型の政治システムにおける政治家は選挙で選ばれますが、ボトムアップにおけるシステム管理者はどのように決められるべきと考えますか?ある意味現在の政治家以上に力を持ってしまう可能性があると思いますが。

A: とてもおもしろい観点ですね。RedHat 社は、「オープンな意見交換」「参加型」「実力主義」「コミュニティ」「迅速かつ頻繁なリリース」からなる、「Open Decision Framework(オープンな意思決定の仕組み)」という意思決定フレームワークを公開していました。 理想を言えば、特定の一人がシステムを管理するのではなく、参加型の意思決定システムによってシステムが管理させていくべきなのでしょう。ただし、私はすべてのシステムでオープンな仕組みを導入すべきというほどの原理主義者ではありません。かくいう Code for Japan のガバナンスも、実質理事会などのクローズドの場で決定されています。(ただし、議事録は公開しているのと、社員総会の場では私を罷免することができますが。)たぶん、全てを伽藍型で運営することも別な非合理を生んでしまうと思っているので、従来型の政治システムも必要なのだと思っています。ゼロイチではなく、相互にシステムの足りないところを補完し合い、時には牽制しあいながらまちづくりが進んでいくのが必要なのではないでしょうか。

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以上です。さすが東京大学のまちづくり研究室。きっと実際の体験があるのであろうな、と予想させる質問も多く、私も勉強になりました。

まちづくりとシビックテック、これからもっと近づいていく気がします。



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