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自治体の人材育成とシビックテックの関係

デジタル行財政改革会議の、課題発掘対話(第6回)の内容について、の補足記事です。自治体の人材育成の課題とシビックテックがどう関係してくるのかをご説明します。補足記事は全部で4本あり、下記がそれぞれの記事へのリンクです。
第1回:デジタル行財政改革 課題発掘対話(第6回)に参加してきました
第2回:自治体の人材育成とシビックテックの関係(本記事)
第3回:自治体毎にシステムを作るのは限界
第4回:自治体のインセンティブ設計を見直そう


シビックテックのアプローチ

スライドからの抜粋。以下のようなことが書かれている。シビックテックのアプローチ。「ともに考え、ともにつくる」関係が必要。ここ10年でデジタルを通じた市民参画が急激に普及。組織の枠を越えた共創が有益。
発表資料より抜粋。シビックテックのアプローチ

前回の記事では、自治体の人材育成には、キャリアイメージの主体性という大きな課題があることを書きました。課題発掘対話の中では、シビックテックについても紹介させていただきました。ここについては特に説明の時間が短かったため、補足しておきます。
ちなみに、人材育成の課題の解決策としてシビックテックを紹介したのは、私が10年以上この活動を続けているからです。前回記事紹介したように、他にも様々なアプローチややるべきことがあるのは承知しています。

新たな「共」を生み出すシビックテック

総務省の自治体戦略2040構想研究会 の資料では、デジタル人材の確保以前に、「自治体は、従来の方法や水準で公共サービスを維持することが困難になる可能性が高い」と言われています。

公共私によるくらしの維持。<公共私のプラットフォーム・ビルダーへの転換>として、自治体は、経営資源の節約により、従来の方法を中心に、生活支援機能を担ってきた地縁組織は高齢化と人口流出により機能が低下する。人口減少による市場の縮小により、民間事業者の撤退やサービスの縮小が生じる。また、一人暮らし高齢者世帯や共働きの核家族の増加により、家族の扶助昨日は低下する。自治体は、公共私の機能低下に対応し、新しい公共私相互間の協力関係の構築により、くらしを支えていくための対策を講じる必要がある。
総務省 自治体戦略2040構想研究会 P.7 より抜粋

その対応策として、デジタルを活用したスマート自治体への転換や、広域での連携、需給の最適化などいろいろと書かれてはいるのですが、そのうちひとつが「新たな公共私の協力関係」です。
地域の課題に主体的に取り組む新たな「共」や「私」、「公」を作っていき、協力していく必要があります。

総務省 自治体戦略2040構想研究会 P.33 より抜粋

このような環境を生み出すのが、私達 Code for Japan が活動している領域です。私達は端的に「ともに考え、ともにつくる社会」と表現していますが、地域のことを主体的に考え、自ら動きながら課題を解決していく市民と様々な組織が連携をし、デジタルを活用しながらまちづくりを行っていく活動をしています。

デジタルを通じた市民参画が急速に普及している

Code for Japan が立ち上がったのは2013年ですが、この10年で大幅に活動は拡大しています。私達のパートナーに、ブリゲードと呼ばれる地域版 Code for コミュニティがありますが、今では日本全国で90以上の活動が行われています。もちろん、Code for の活動だけがシビックテックではなく、他にも同様の活動を行っている団体は数多くあると思います。

あまり知られていませんが、このコミュニティには多くの自治体職員が一個人として参加しています。このような「第三の居場所」的なコミュニティを通じて、自治体職員は自分の興味のあるテーマを主体的に掘り下げて活動することができます。自らも一市民として、好きなことをやればよいわけです。
もちろん、仕事として関わっているわけではないので限界はありますが、そもそもシビックテック活動は「楽しみながらつくる」ことが重要な活動ですし、ちょっとしたスキマ時間でもいろいろなことができるのが特徴ですので、自分のペースで参加ができます。
このような、組織の垣根を越えた緩やかな関係から、新たな事業が生まれたりもするのです。地域の Code for には、ワークショップやデータ活用など、自治体の委託事業を請けているところもあります。

シビックテック推進を積極的に行う自治体も増えてきた

シビックテックコミュニティとの連携を模索する自治体というのも増えてきています。例えば、資料で紹介したように、東京都は「都知事杯オープンデータ・ハッカソン」という大規模なハッカソンイベントを行っており、昨年は600名を超える参加者を集めました。ただ単に技術を競うのではなく、自治体の担当者もイベントに参加し、自治体が抱えている課題を共有することで、ソリューションを考えるのが特徴になっています。

また、山口県も、デジテック for YAMAGUCHI というコミュニティを作っています。こちらも、地域の様々な人や企業が参加し、自治体と共にいろいろな活動をしています。

市民との共創関係をつくる

詳しくは次の記事で紹介しますが、ひたすら課題を発見して増やしていくだけでは、自治体の現場は疲弊していきます。人が減ってもサービスを継続するには、今までやっていたサービスを見直したり、最適化をする必要があります。その過程では、市民に一時的に不利益が発生したり、オーバースペックなサービスを見直したりする必要があるでしょう。要望ばかり声高に言う市民ばかりに囲まれていては、そのような最適化を進めるのは難しくなります。地域の将来を冷静に考え、自分たちでできることは自分たちで担っていくような、新たな共創関係が必要です。
シビックテック推進は、そのような「中間層」や「翻訳者」とも言える層を生み出す取り組みでもあります。

不満や要望は声が大きくなりがちで、自治体にもプレッシャーがかかりやすいものです。一方で、自治体が今まで接していた層とは違う、様々な声があるはずです。不満の声が大きいように見える意思決定も、意外とサイレントマジョリティーは理解を示しているかもしれません。また、自治体が気づいていないけれど重要なアジェンダもあるでしょう。
デジタルを活用することで、普段はアクセスできないような人達の声を拾おうというのが、デジタル参加プラットフォームです。

加古川市を始めとするいろいろな自治体で、デジタル参加プラットフォームを活用して多様な市民の声を拾おうという取り組みが始まっています。

このような多層の関係性があれば、自治体のデジタル担当者だけが孤立無援、という状況が少しでも解決されるかもしれません。行政と市民の関係が、「サービスを提供する側と使う側」という消費者的なものから、「ともに課題を解決する」という共創関係になるとすると、それが本来目指すべき民主主義の姿でもあるはずです。

デジタルを使った市民参画については、以下の記事でも掘り下げていますので良かったらご覧ください。

もちろん、現実の自治体の現場や地域の実態はこのようなキラキラした理想とは程遠く、ドロドロとしたものであり、もっと具体的かつ即効性のある解決策が求められることも知っています。一方で、10年かけて振り返ってみれば、変わった部分も色々とあるのも事実です。
「あきらめない」ということもとても大切なことだと思います。

さて、理想論を一通り語ったところで、次の記事では、「自治体毎にシステムを作るのは限界」について解説します。

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