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【SFシナリオ】UNDEFINED……(後編)

○    大学・教室(朝
   笹沢が講義を行っている。スーツ姿だが、ネクタイはしていない。

○    大学・校庭
   笹沢、ベンチに座って、弁当を食べている。
   数m手前に野球ボールが落下する。視線を上げると、学生達が野球を
   している。
学生「すみません」
   頭を下げて、走り寄る学生。
   笹沢、何も言わず弁当を包んでその場を立ち去る。

○    歩道(夕)
   笹沢、道を歩いていると、50m前方に猫の死骸があることに気づく。
   避けようと脇に寄るが、思い直して、真直ぐ進む。猫の死骸を跨ごう
   とした時、激しい衝撃音とともに、看板が笹沢の真横に落下する。

○    ホームセンター・レジ(夕)
   笹沢、店員にバールを差し出す。店員、レジ打ちをする。
店員「2750円です」
   笹沢、お金を支払って、バールを受け取る。

○    笹沢マンション・LDK(夜)
   ひとみ、リビングでテレビを見ている。
ひとみ「あ、おかえり。(バールを見て)どうしたの? それ」
笹沢「護身用だよ。奴らに狙われているんだ」
ひとみ「またそんなこと言って…… 最近ちょっとおかしいよ?」
   ひとみを見つめる笹沢。ひとみの姿がNo.3079に変わる。
   笹沢、バールを握りしめる。
ひとみ「ねぇ、ねぇ」
   ひとみ、笹沢の体を揺さぶる。
   笹沢、ひとみを見ると元の姿に戻っている。
ひとみ「ねぇ? 聞いてる?」
笹沢「俺……」
   笹沢、バールを手放す。
笹沢「どうかしちゃったのかも」

○    病院・診察室(朝)
   笹沢、ひとみが工藤学(62)に問診を受けている。白髪で眼鏡をかけ
   ている。
工藤「妄想、幻覚……」
   工藤、問答をパソコンに打込む。
工藤「統合失調症の気がありますね――しばらく、訪問診療をして、様子を
   見ましょう」
ひとみ「治りますか?」
工藤「大丈夫です。ゆっくり治していきましょう」
   ひとみ、黙って笹沢の手を握る。

○    笹沢マンション・書斎
   笹沢、椅子に座って机に突っ伏し、深いため息をつく。
   No.3079、突然笹沢の隣に現れる。
No.3079「あの先生、何もわかってないな」
笹沢「(動揺しなが)何しに来た?」
No.3079「ちょっと忠告しにな――あのな、ビビりすぎなんだよ。ま
      だ、コピー完成してないから、俺たち何もしてないぞ。今まで
      の出来事、全部偶然だ。見るに見かねて、来てやったぞ。憔悴
      して自殺されても困るしな」
笹沢「少し質問しても良いか?」
   笹沢、机の下でポケットに携帯があることを確認する。
No.3079「どうぞ」
   No.3079、部屋を歩き回る。
笹沢「この世界というのは、どういうゲームなんだ? そのゲームをやる目
   的は何だ?」
   笹沢、ゆっくりポケットから携帯を取り出す。
No.3079「1つ目の質問に答えよう。人類誕生から絶滅までの全ての人
      間からキャラクターを一人選んで、人生を全うする。キャラク
      ターの死後、そのキャラが人類にどのような影響を与えたか
      で、ポイントが決定される」
笹沢「俺が死んだらこの世界が消滅するんじゃないのか?」
No.3079「厳密にいうと、君が見るこの世界だ」
笹沢「そうか。じゃあ、高得点を出した誰かのプレイをトレースすれば良い
   だけなんじゃないのか?」
No.3079「これが、このゲームの難しいところでな。このゲームは、数
      億人のプレイヤーがプレイをしている。そのプレイ結果は、パ
      ラレルワールドとして他プレイヤーのフィールドに出てくる
      ボットの行動や、プレイヤー自身の理由のない行動に影響を与
      える」
   No.3079、下を向いて考える。
   笹沢、机の下で、携帯を操作し、アドレス帳の管理人を探す。
No.3079「例えば、君は昼、かつ丼を食べたな」
   笹沢、焦りながら頷く。
No.3079「何故数あるメニューの中からかつ丼を選んだんだ?」
笹沢「何となくだ」
No.3079「それは過去に『笹沢大輔』をプレイしたプレイヤーの行動が
      影響している。よって、トレースは出来ない」
笹沢「なるほど」
   笹沢、携帯のアドレス帳から管理人を見つけ出す。
No.3079「2つ目の質問に答えたいが――管理人に電話か?」
   笹沢、携帯を手に、固まる。
No.3079「君らの会話は全部筒抜けさ」
   笹沢の携帯が、No.3079の手の中に引き寄せられる。No.3079
   が、携帯を掴むと同時に同じ姿をした管理人が3人現れる。瞬時に2
   人がNo.3079の両腕を掴む。
No.3079「ブラフか!」
管理人「デリートします」
   管理人、警棒を取り出し、No.3079の腹に突き立てる。閃光が走
   り、No.3079が消滅する。
管理人「これで大丈夫です。念のため、しばらく管理を強化しておきます」   
   そういって、消える管理人達。

○    大学・教室(朝)
   笹沢が講義を行っている。スーツ姿だが、ネクタイはしていない。

○    笹沢マンション・書斎(夕)
   笹沢と工藤が座って対面している。
工藤「調子はどうですか?」
笹沢「ええ。以前に比べたら、だいぶ良くなりました。幻覚も見ていませ
   ん」
笹沢「妄想はどうですか?」
笹沢「……正直、よくわかりません。ゲームの世界を生きているのか、現実
   がちゃんと存在しているのか…」
工藤「迷いが生じているのは、良い傾向です」
笹沢「世界中の全てがプログラムというのは、馬鹿げていますよね」 
工藤「似たようなことを仰る患者さんを、多く見てきましたよ。ただ、少な
   くとも、私は私の意思であなたとお話ししています。私の意思で、今
   日の約束をすっぽかすことも出来ました」
笹沢「それも、プログラミングされていれば――」
工藤「では、仮に、この世界がゲームの世界だとしましょう。あなたがプレ
   イヤーであることを証明出来ますか?」
   笹沢、首を振る。
工藤「私がプレイヤーで、あなたは自分をプレイヤーだと思い込んでいる
   ボットであるということも考えられますよ」
笹沢「……確かに、そうですね」
   笹沢、壁を見つめる。
   工藤、振り返って壁を見て、何もないことを確認する。
工藤「どうかしましたか?」
笹沢「いえ、別に」
工藤「……すみません、混乱させるつもりはなかったんです。ただ、これ
   は、考えても答えの出ない話なんです――今日はこのぐらいにしま
   しょう」

○    笹沢マンション・玄関
   笠原とひとみ、工藤を見送る。
   工藤、靴を履いて、
工藤「次回は、来週の木曜15時に伺います」
笹沢「はい、よろしくお願いします」
   ドアを開けて、立ち去る工藤。
   ひとみ、リビングに向かう。
   笹沢、書斎に向かう。

○    笹沢マンション・書斎
   笹沢が部屋に入ると、壁際にNo.3079が立っている。
No.3079「無視するなんてひどいじゃないか」
笹沢「……これは幻覚なんだ」
No.3079「どうぞご勝手に。いやぁ、参ったね。プロテクトがかかっ
      て、進入するのに手こずったよ。コピーも一からやり直し
      だ。」
笹沢「――何でまた?」
No.3079「こういうのは、イタチごっこなのが世の常でね。今回は、俺
      たちが一枚上手だったってことさ」
笹沢「そんなこと繰り返しても、同じように管理人に消されるだけだろう! 
   意味ないじゃないか!」
No.3079「違うな。勘違いしているぞ。管理人は別に君を守っているん
      じゃない。この世界を守っているんだ。今は、君が死ねば、世
      界が消滅するから、君を守っているってだけで、プレイヤーが
      2人になったら、どっちを守るんだろうな? 仮に、オリジナ
      ルに欠陥が出来て、コピーが正常だったどうする? オリジナ
      ルを削除して、コピーを正とするんじゃないのか? それが合
      理的だろう?」
笹沢「……」
No.3079「まぁ、管理人に嗅ぎ付けられてもやっかいだ。早々にお暇す
      るよ」
   No.3079、部屋を出ていく。
   笹沢、後を追って部屋を出る。

○    笹沢マンション・LDK
   ソファでくつろぐひとみ。
   振り返って笹沢を見る。
ひとみ「あれ? あなたさっき書斎から出てこなかった?」
笹沢「やっぱり、ひとみも見えているのか!」
ひとみ「何? どういうこと?」
笹沢「ドッペルゲンガーだよ」
ひとみ「じゃあ、私の気のせいよ」
笹沢「でも、この間も、駐車場で俺を見たっていっていたじゃない」
ひとみ「見たけど、ドッペルゲンガーだったのかな? あなたが自分のした
    ことを覚えてないだけってことも考えられるし」
笹沢「それは……そうだな」
ひとみ「仮に、あなたの命が狙われていたとしても、警察に通報するなり、
    やれることを淡々とやればいいの。大事なのは、あなたがあなたら
    しさを失わないことよ」
   ひとみ、笹沢の手を握る。
笹沢「ありがとう」

○    笹沢マンション・LDK(夢)
   笹沢、リビングのドアを開ける。
   ひとみとNo.3079が部屋でくつろいでいる。
笹沢「おい、何している!」
   ひとみとNo.3079、振り返る。
   No.3079「何だ、偽物がいるな」
ひとみ「本当ね、消さないと」
   ひとみ、笹沢の首を絞める。
   もがき苦しむ笹沢。

○    笹沢マンション・寝室(夕)
   笹沢、ベッドで目を覚ます。
   時計に目をやると、14時45分。
   ハアハアと息を弾ませながらリビングに向かう。

○    笹沢マンション・LDK(夕)
   笹沢、リビングのドアを開ける。
   ひとみとNo.3079が部屋でくつろいでいる。
笹沢「おい、何している!」
   ひとみとNo.3079、振り返る。
No.3079「えっ、何だ?」
笹沢「そうか、遂にコピーが終わったのか」
   もみ合う笹沢とNo.3079。
No.3079「落ち着け。頼むから」
   笹沢、リビングの脇に立掛けてあるバールに気づき、手に取る。
ひとみ「何するの? 止めて!」
   No.3079の頭目掛けて振り下ろす。もんどりを打って倒れるNo.3
   079。
ひとみ「キャー!」
   泣き叫びながらNo.3079に駆け寄るひとみ。頭から血を流すNo.3
   079。
ひとみ「救急車――」
   震える手で携帯を持つひとみ。
笹沢「何やっているんだ。そっちが偽物だ!」
ひとみ「(笹沢を睨みつけて)大輔は追い詰められてもこんなことしない! 
    偽物はあなたでしょう!」
   笠原、ショックを受けて、部屋を飛び出す。

○    道路(夕)
   笠原、パニックに陥って、過呼吸になっている。工藤が駆け寄る。
工藤「どうしました、笹沢さん!」
笹沢「俺、俺――」
工藤「落ち着いて、深呼吸して」
   笹沢、深呼吸する。まだ落ち着かない。
工藤「これ飲んでください」
   工藤、笹沢に薬と水を渡す。笹沢、薬を口に入れ、水で流し込む。
   笹沢、落ち着いてくる。
工藤「良かった、笹沢さん――」
   工藤、耳元で囁く。
工藤「ゲームオーバーだ」
   笹沢、膝から崩れ落ち、呼吸が弱まる。
   管理人が現れて、笹沢を眺める。

○    笹沢マンション・LDK(夕)
   倒れている笹沢の姿をしたNo.3079、それを見つめるひとみ。ム
   クリと起き上がり血を拭くNo.3079。
ひとみ「No.3079、指輪が――」
   No.3079の左手の指輪がなくなっている
No.3079「ああ、バグだろう。」
ひとみ「じゃあ、作り直しておくぞ」
No.3079「頼む。コピーはあとどのくらいで出来る?」
ひとみ「もうすぐ終わるよ」

○    道路(夕)
   倒れている笹沢。それを眺める管理人と工藤。管理人、銃を取り出
   し、笹沢に銃口を向ける。

   ×    ×    ×

   インサート

   笹沢マンション・LDK
   ひとみとNo.3079が立っている。
ひとみ「コピー完了」

   ×    ×    ×

   管理人、笹沢に発砲する。笹沢に直撃して、閃光が走り、消滅する。
   消える管理人。
   工藤、何事もなかったように笹沢マンションへ向かう。

○    笹沢マンション・共用廊下(夕)
   工藤、笹沢のドアの前に立って、インターフォンを鳴らす。
ひとみ「は~い」
   ひとみ、ドアを開ける。
工藤「お世話になります。訪問診察に参りました」
ひとみ「どうぞ。上がってください」

○    大学・教室(朝)
   No.3079が講義を行っている。スーツ姿だが、ネクタイはしてい
   ない。

○    笹沢マンション・LDK(夕)
   ひとみとNo.3079が部屋でくつろいでいる。
テレビ(声)「マイクロフォックス社のCEOポール・ローザンは、この世界
       を仮想現実と仮定した研究によって、肉体と精神の分離に成
       功したと発表しており――」
ひかり「本当かしらね?」
No.3079「まるでB級映画のような話だな」

――完――

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