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嫌いじゃないわ。《ゼロ章・このタイトルの由来》

 このテーマも一段落したので今回は、テーマ名「嫌いじゃないわ。」について話そうと思う。

 この言葉を引っ張って来たのは『仮面ライダー オーズ』の話中のセリフからである。
 こう言われれば熱量有り余っているマニアの多いこの分野、すぐにピンとくる人も多数いると思われる。
「嫌いじゃないわ。」
ーそう、このセリフは姉ヘの執愛(もっともこのお姉様も中々に性格に難あり、なのだが)に心をこじらせた真木博士に、仮面ライダー バース1号(と言っていいかな?)こと伊達さんがかける言葉なのだ。

(この先、更にネタバレありなので、ご了承の方のみ閲覧願います。)

 確かな愛情を交わしあった、と思っていた年の離れた姉に結婚、という形で不条理に裏切られてしまった幼い真木博士。結婚式前日か当日、ウェディングドレスに身を包んだ姉が居る家ごと、火を放って焼死させてしまう。
 ただ前にも書いた通り、姉の方にも明らかに問題を感じる。なぜって真木博士が心を歪めてしまうのを重々承知していながらこの人、この結婚を決めているように(物語上では)見える。
 またこの姉ににとって、新郎は弟を傷つけても添い遂げたいほど好きな相手、という描写も見られない。ひどく淡々とした表情でドレスに身を包んでいるのだ。
 逆に意に沿わない結婚だったのなら、そういう表情が浮かんでもいいと思うし、弟にもできるだけ悲しい思いをさせないよう、何らかのフォローが入ってもいいと思うのだがそれもない。
姉も姉でその意図が読めない。この人もひでぇなぁ、と思うのである。

 そんな事情もあって、「死」や「滅び」にしか美しさを見出せなくなってしまったいびつな心を、次第に破壊行動として現し始めていた真木博士に、それでも伊達さんは「嫌いじゃないわ。」と言葉を残して戦いに向かうのだ。

 この時もこの後も、真木博士はこの言葉には何の反応も見せず、立派なラスボスとしてオーズこと映司とアンクの前に立ちはだかることになるのだがー。

 脚本の小林氏によると、本当はラスボスはこの言葉をかけた、伊達さんの予定だったとか。ただ、当時の東日本大震災の直後、視聴者にも人気の高かった伊達さんに、このどんでん返しをぶつけて視聴者を悲しませてしまうより、戦地で仲良くなった少女を救えずに苦しむ主人公・映司を支える心強い味方として描くことを選んだのだという。

 だとすると、この「嫌いじゃないわ。」というセリフは当初、心を破壊されて自らの狂気のままに邁進する、真木博士のクレイジーな勢いに共感する意味合いで生まれたもの、と考えるのが自然かもしれない。
 けれど当時の私には、このセリフが壊れかけた博士の悲鳴を上げ続けるような強い心の痛みに、押し付けるでも否定するでもなく、一番優しい形で寄り添った言葉に響いた。

 いや、私のこの見解はもちろん、作者の意図とは多かれ少なかれ、あるいは全く外れているだろうさ。
 でもこのテーマで私が書いたものは、そんな気持ちで送り出したものだ。

 ここに書いた何もかも。

 嫌いじゃないわ。

 ちなみにこのタイトルイラスト、『オーズ』のテーマである“手”で選びました。このテーマを話に盛り込む手法も絶品でしたね。

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