連鎖 4

【第三章】『夢の中に現れて』

 この頃の絵梨花はいじめに遭いながらもやっとの事で登校しており、学校ではいじめに遭い、家に帰れば母親からの暴力が待っている日々であった。

 ある日の夜、絵梨花が家で寝ていると亡くなったはずの加奈が夢に現れた。

「絵梨花どうして? 小学生の頃はあたし達あんなに仲良かったのに、どうしてあたしの事いじめるの? あたし友達だと思っていたのに、そんな絵梨花にいじめられて辛かったんだよ」

 そんな加奈の声にうなされ、絵梨花は夢の中で何度も謝っていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、あたしが悪かったわ、お願いもう許して、許して下さいお願いします!」

 そこで目が覚めた絵梨花、途端にパッと目を開け勢いよく布団をまくり上げると上体を起こした。

 ここで目を覚ますと、絵梨花はもう一度加奈に謝罪する。

「加奈、あたしがバカだったわ、まさか加奈が死んでしまうなんて思わなかったの、ごめんなさい加奈、お願いゆるして……」

 翌日学校へと向かった絵梨花であったが、夕べの夢の内容が気になって仕方なかった。

 それでもまだいじめは続く。

 この日も絵梨花に対するいじめは行われ、ようやく帰宅すると今度は母親の暴力が待っていた。

 この頃の絵理は日ごろの仕事のストレスのはけ口に絵梨花に対し暴力を振るっており、それが徐々にエスカレートしていった。

「課長キモいんだよ! 若い子ばかりやさしくしてんじゃねえよ、もっと平等に扱え、自分のミスを部下に押し付けんじゃねえよ」

 ひとしきり絵梨花をストレスのはけ口として暴力を振るうと、スッキリしたのかようやくそれは終わりを迎えた。

 この日も絵梨花が夜寝ていると夢の中に加奈が現れた。

「ねえ絵梨花、どうしてあたしの事をいじめたの? あれほど仲良かったのに、友達だと思っていたのに、あれは偽りだったの? 毎日辛かったのよ」

 絵梨花はこの日も夢の中で謝っていた。

「ごめんなさい、特に理由はなかったの、勉強と家庭のストレスで誰でも良かったのよ、それがたまたま加奈だっただけなの」

「あたしは絵梨花のストレスのはけ口にいじめられたって言うの?」

「でもこれだけは信じて、最初はいじめようなんて思っていなかったの、ストレスのはけ口にただあたっていただけなの、それがだんだんエスカレートしてしまって、ごめんなさいそんなつもりじゃなかったの、ごめんなさい、ほんとにごめんなさい、お願いもう許して」

 そこで目が覚めた絵梨花。

 その後美咲と楓の夢の中にも、絵梨花同様加奈が現れていた。

「美咲、あたし達友達だったはずよね、それなのにどうしてあたしの事をいじめたの? あたしほんと辛かったんだから、ほかの誰でもない、美咲達にいじめられるなんて、どうしてそんな事をしたの?」

「ごめんなさい、絵梨花が勉強のストレスを加奈にぶつけようって、それで一緒になっていじめてしまったの」

「どうしてそんな事の為にあたしがターゲットにならなければいけないのよ!」

「ごめんなさい、あたし達四人の中でも加奈はおとなしかったでしょ? なんとなくあたりやすかったのよ、でもまさか加奈が自殺してしまうなんて思わなくて、ほんとごめんなさい」

 すると今度は楓のもとにも表れた加奈。

「楓、どうしてあたしの事をいじめたの? 楓まであたしをいじめるなんて思わなかった、楓とは四人の中でも一番仲が良かったのに、それなのにどうして友達をいじめるなんて事が出来たの?」

「ごめんなさい、絵梨花が勉強のストレスを加奈にぶつけようって言いだして、それであたし達四人の中で加奈が一番おとなしかったでしょ? はけ口に丁度よかったのよ、でも最初はいじめようなんて思ってなかった、ちょっとからかったりいたずらしていただけなのよ、それが少しずつエスカレートしていって、最後はいじめる形になっちゃったの、でもまさか加奈が自殺してしまうなんて思わなくて、本当にごめんなさい、どれだけ謝っても謝りきれないわ」

 翌日、この日も憂鬱な気分で学校へと登校した絵梨花のもとに、早速嫌がらせをしようとゴミ箱を手に美咲がやって来た。

「おはよう絵梨花」

 後方から久しぶりに美咲のそんな明るい声が聞こえ、ようやくこの辛いいじめから解放されたかと安心したのだが、すぐにそれは間違いだった事に気付く。

 次の瞬間、絵梨花の頭上からゴミ箱の中身が降り注ぐと、そのすぐ後にさかさまになったゴミ箱が降ってきた。

「あらごめんなさぁい、ちょっと手が滑っちゃったぁ、キャハハハハハ」

 そう高笑いを残しその場を去ろうとする美咲に、見かねた楓が声をかけてきた。

「もうやめようよ美咲、こんな事して何になるの?」

「何よ楓、まさかあんたまで裏切る気?」

「そんなんじゃないわ、裏切るも何もないわよ、前はあたし達ずっと仲良くしていたじゃない、友達だったでしょ? それがどうしてこんな事になってしまったの?」

「そんなの知らないわよ! もしあんたまで裏切るつもりならどうなるか分かっているわよね」

「だから裏切るなんて言ってないじゃない、あたし見たのよ、夢に加奈が出てきたの」

 その言葉を聞いた美咲は、加奈が夢に現れたのは自分だけではなかったんだと気付く事となった。

 それは近くで聞いていた絵梨花も同様であり、もしかしたら加奈はまだ成仏出来ていないのではないかと思ってしまう絵梨花がそこにいた。

 更に続ける楓。

「ねえ美咲、確かに絵梨花は許せない事を言ってしまったわ、でももう充分でしょ、あたし達だって一緒になって加奈をいじめていたじゃない、あたし達も同罪だわ」

 楓の言葉に美咲は苛立ちをもって応える。

「でも中心になっていじめていたのは絵梨花じゃない、あたし達はそれに付いて行っただけだわ」

「でもいじめていたのは事実でしょ、あたし達も反省するべきなのよ」

「何よ、自分だけ良い子になろうなんて許さないんだから……」

「そんな事思ってないわよ、いい加減目を覚ましたらどうなの? それに絵梨花だってもう反省しているわ、そうよね絵梨花」

そんなふうに尋ねる楓に対し、小さな声で返事をする絵梨花。

「そうね、すごく反省しているわ、でもどんなに反省しても謝っても加奈は帰ってこないのよね、あたしすごく後悔している」

「そうよ、どんなに謝ったって加奈は帰ってこないのよ、それに絵梨花覚えている? 加奈が自殺したって最初に聞いた時、あなたこのまま死んでくれた方が良いって言ったのよ!」

 そんな美咲の言葉に、涙を流しながら謝罪をする絵梨花。

「ごめんなさい、ほんとはそんな事思っていなかったの、強がりで言ってしまっただけなのよ、ほんとにごめんなさい」

 そう言ってしゃがみ込むと、顔を伏せ泣いてしまった。

「ほら、絵梨花だってほんとは辛かったのよ」

「ふん! どうだかね、どうせ下手な演技じゃないの?」

「まだそんな事言っているの?」

 そんな時、始業のチャイムが鳴ると担任の本間が教室へと入ってきた。

「みんなおはよう、席に就け」

 ここで絵梨花が泣いている事に気付いた本間はその理由を尋ねる。

「どうした? なんだ泣いているのか絵梨花」

「泣いてなんかいません」

「泣いているじゃないか!」

「泣いてないって言っているじゃないですか!」

「分かった、なら良いんだ、だけどなんかあったら先生に言えよ」

 この時絵梨花は、そんな本間の言葉をあてにはしていなかった。

(何言っているのよ、そんな事言ったって口だけでしょ!)

 その後も美咲による絵梨花への嫌がらせは続いたが、この頃になると徐々に美咲一人だけが孤立する状態へとなって行った。

 一度はいじめから解放されたかに思えたものの依然美咲からは嫌がらせが続いており、更に家に帰れば絵理からの暴力が待っている為、この頃になると絵梨花はもう生きるのが嫌になっていた。


つづく

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