連鎖 7
【最終章】『続いていた連鎖』
数日後、美咲は絵梨花と仲直りしたにもかかわらず、いつの間にかいじめのターゲットは美咲に変わっていた。
それに気付いた絵梨花が止めに入るが、楓を中心にそれは収まる事は無かった。
「みんなやめて、楓もやめる様に言ってよ」
「何言ってんの絵梨花、あなただってさんざん美咲にいじめられていたじゃない、それなのにどうして美咲の味方をするの?」
「もう良いの、あたし達仲直りしたからそれでいいのよ」
そんな絵梨花を美咲は静かな口調で制止する。
「良いのよ絵梨花、あたしはあなたをさんざんいじめてきたんだもの、当然の報いよ、自業自得よね」
美咲に楓の声が飛ぶ。
「よく分かっているじゃない、さあ存分にいたぶってあげるわよ」
「やめてよ楓、あなただってあたしをいじめていたでしょ? みんなだってそうよ、あたしをいじめていたのは美咲だけじゃないじゃない」
絵梨花の言葉もむなしく、美咲に対するいじめが収まる事は無かった。
その日の深夜、今度は本間のもとに加奈が現れた。
「先生起きて、先生」
自宅のベッドで寝ている本間がその声で目を覚ますと、暗闇の中目の前に亡くなったはずの加奈がおり、その姿は青白い光に包まれていた。
亡くなったはずの人物が突然目の前に現れたため大変驚いた本間。
「わっ加奈! どうしてこんな所に、まさかいじめを知っていたのに気付かないふりして助けなかったからそれを恨んで仕返しに来たのか? 悪かった、命だけは助けてくれ!」
尋常じゃない程の慌てようの本間。
「落ち着いて先生、そんな事しないから安心して良いよ」
その一言に本間は、僅かながら落ち着く事が出来た。
「そうか、ほんとに安心して良いんだな?」
「もちろん! でも先生、やっぱりいじめに気付いていたんだね、それなら助けてほしかったな?」
「悪かった、面倒に巻き込まれたくなかったんだ、こんなんじゃ教師失格だよな? でもまさかお前が自殺してしまうなんて思わなかった、そこまで追い込まれていたなんて思わなかったんだ、許してくれ!」
「もう良いよ、それより先生、あたしの事に気付いていたなら、絵梨花がいじめられていたのも知っているよね」
「なんとなくは気付いていたが、最近仲直りしたみたいじゃないか」
「確かに仲直りはしたけど、今度は美咲が楓達にいじめられているの、先生お願い、美咲を助けてあげて、このいじめの連鎖から救ってあげて、このままじゃ今度は楓がいじめられる事になるような気がしてならないの」
「それは良いが、先生にどこまで出来るか分からないぞ!」
「でも努力はしてよ、それでも一応教師でしょ?」
強い口調で言い放つ加奈。
「分かった、努力をしてみるよ」
「あともう一つお願いがあるの」
「何だお願いって」
「あたしの事、ちゃんといじめがあったって校長先生に報告して」
「分かった、でも教師の立場でこんな事言うのも何だが、ほんとにいいのか報告してしまって、絵梨花達とは元々友達だったんだろ? 友達を苦しめる事になるかもしれないんだぞ!」
「それは仕方ないわね、それだけの事をしたんだもの」
「そうか、確かにそうだよな?」
「それとあたしが死んだあといじめの加害者である絵梨花達がどうなったかもきちんと報告してほしいの、出来ればマスコミにも、いじめの張本人にはそれなりの報復が待っている事を全国でいじめをしている子達みんなにわかってほしいのよ」
「そう言う事か、でもそんな事をしたからといってうまく行くか分からないぞ! 加奈の件がたまたまそうだったって思うのがほとんどかもしれないし、それに効果の方も疑わしいしな?」
「それでも構わない、あたしだってこんな事でいじめが減るとは思ってないわ、でもやるだけやってみてほしいの」
「分かった、だけど一応絵梨花達にも了解をえないとな、だけどどう切り出したらいいんだ? まさか死んだはずの加奈が俺のもとに現れたなんて言っても信じてもらえないだろうし……」
「それなら大丈夫よ、絵梨花達の前にも出た事あるから」
「そうなのか? それなら話が早い、早速明日にでも絵梨花達に話してみよう」
「ありがとう先生、お願いね、あたしもうこうやって先生の下にも絵梨花達の下にも表れる事は出来なくなると思うから……」
「それはどうしてだ? 先生も未だに信じられないが、でも今までは絵梨花達の下に現れていたんだろ?」
「もう状況が変わってしまうのよ、もうすぐ四十九日なの、それを過ぎたらあたしの魂はあの世に行ってしまうわ、そうなるとそう簡単にはこっちの世界には来られなくなるのよ」
「そうか、もうそんなになるんだな?」
「だから先生、くれぐれも絵梨花達の事お願いね、あたしの事をいじめた相手だけど、それでもあたしにとっては友達だからさ」
「加奈は強いな? 先生加奈がこんな強い子だとは思わなかった、でも欲を言えば勇気を持ってほしかった、死ぬための一瞬の勇気ではなくて、これからもずっと生きていく勇気をな、いじめから加奈を救う事から逃げた奴が何言ってんだって話だけどな?」
「そうね、あたし勇気の持ち方間違えたかも、とにかく先生、公表の件お願いしますね」
「それは分かったが、でも学校側としてはこんないじめの連鎖があったなんて公表されてはまずいだろうな? 何か考えないと、それにこっちとしてももしばれたら厳重注意だけでは済まないかもしれない」
翌日の放課後、さっそく本間は絵梨花、美咲、楓の三人を呼び止めた。
まず誰もいなくなった教室の隣同士の机を引き寄せ三つ並べそこに座らせると、自らも前の席の椅子を後ろ向きにおくと、その椅子に座る本間。
そんな本間に対し楓が尋ねる。
「先生なんですか? あたし達に話って」
「楓、もう美咲をいじめるのはよせ、先生分かっているんだぞ! その前は美咲が絵梨花を、更にその前は絵梨花が加奈をいじめていたよな? それも絵梨花の時は楓も、加奈の時は更に美咲も一緒にいじめていたよな、これ以上はいじめの連鎖が続くだけだ、もうこの辺でやめないと今度は楓がいじめられる事になるんじゃないか?」
ところがそんな本間の言葉に反論する楓。
「今まで見て見ぬふりしていたくせに、先生になんであたしが美咲をいじめているなんてわかるのよ」
「分かるんだよ、教えてくれた奴がいるんだ」
「誰よ! そんな事チクッたの」
「加奈だ、お前達の所にも現れたんだってな? 先生の所にも夕べ来てな、楓、お前の事心配していたぞ! このままじゃ今度は楓がいじめられる事になるって……」
「加奈がそんな事言っていたの?」
「そうだ、だからもうやめるんだ! それでこれは加奈の提案なんだけどな? 加奈へのいじめから自殺、そしていじめの加害者であった絵梨花へのいじめ、更に美咲へのいじめと、このいじめの連鎖をマスコミに公表してくれないかって事なんだ。キミ達の名前はもちろん伏せるが、この事を公表しても良いかな?」
「どうしてわざわざそんな事する必要があるんですか?」
そんな絵梨花の問い掛けに応える本間。
「加奈が言うには、いじめの加害者が順番に被害者に変わって行った事でいじめの連鎖が発生しただろ? そんな状況を公表する事で今全国でいじめを行っている子達に気付いてほしいらしいんだ、それなりの制裁が待っているとな、多少効果の方は疑わしい気もするが、先生もこれで少しでもいじめが減ってくれるならと思って賛成したんだ、ただ加奈の狙いは別のとこにある気がするがな」
「なんですか? 別の所って……」
絵梨花の問い掛けだったが、それに対し本間の表情は曇ってしまった。
「それは分からない、ただ何となくそんな気がするんだ」
「そうですか、分かりました、そう言う事なら構いません」
美咲が返事をするとそれに絵梨花も続いた。
「あたしも構いませんよ、楓も良いでしょ? もういじめなんかしている場合じゃないのよ」
その声に楓も仕方ないと言う素振りをしながらも返事をする。
「仕方ないわね、あたしも良いですよ」
ところがここで、絵梨花に一つの疑問が生じた。
「だけど先生、先生はこんな事して大丈夫なの?」
絵梨花の声に、本間の表情は瞬く間に険しいものへと変貌していった。
「学校側としては大問題なわけだし、そうなると学校を裏切る事になる訳だから、もしばれたら厳重注意では済まないだろうな? 下手すればクビだろう、それでも良いんだ、元々俺は教師に向いてない、もしクビになったら他の仕事探すよ、学校をやめて塾で教えるって道もあるしな? と言っても教師に向いてない男が塾の講師になったからと言ってやっていけるか分からないがな、それにあてがある訳ではないし……」
「良いんですか先生」
「ああ良いんだ、それとキミ達の事上にもきちんと報告する。これも加奈からの頼みなんだ」
「分かったわ、でも先生良いの? そんな事したらあたし達のいじめを公表したときに余計ばれやすくなるんじゃないの?」
それは絵梨花の問い掛けだった。
「良いんだそれでも、今まで教師らしい事してこなかったからな、その為に加奈を死に追いやってしまった、そんな加奈の願いならなんだって聞くよ、今更遅いけどな、それにいくらなんでも学校もそう簡単にクビにはしないだろう」
最後にはにかんで見せる本間。
「確かにそうかもしれないけど……」
一言そう呟く絵梨花であった。
「あっそれと加奈の事なんだが、もうすぐ四十九日なんだが、それが過ぎたら魂は天国に行ってしまい今までの様に絵梨花達の所に現れることが出来なくなるそうだ」
「そうなんですね、ほんとあの子ったらお人好しなんだから、やさしいにも程があるわ」
後悔しつつもそんな風に言う絵梨花に対し、同様に激しく後悔の念が押し寄せる美咲が続く。
「絵梨花ったら前にもそんな事言ってなかった? でも確かにそうよね、やさしすぎるわよあの子」
それに対しさらに続く楓。
「確かにそうね、あたし達あんな良い子いじめちゃいけなかったのよ! そもそもいじめなんてダメだけどね」
後悔しきりの三人であった。
翌日いじめの連鎖があった事を校長に報告した本間は、その数日後マスコミに匿名の手紙を送った。
すると学校には多数のマスコミが押し掛け大騒ぎとなっていた。
これにより全国でのいじめが僅かではあるものの減る事となったが、それも一時的なものでしかなかった。
これにて完結になります、
最後までお付き合いくださりありがとうございました!
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