論点解析経済法(第2版)Q18 解答例
こんにちは。もう3連休も最終日、終盤ですね。やはりお休みはあっという間に過ぎていきますね…。明日からまたお仕事・勉強ともに頑張りましょう!
さて、本日は、前回に引き続き『論点解析経済法(第2版)』Q18の解答例です。Q18は、不公正な取引方法をメインに、私的独占も問題になります。司法試験では、このような問われ方は頻出だと思うので、時間内に、所定の枚数内に書けるように練習してみてください。
それでは、以下、解答例です。
1 Y1~Y21は、Z1を解散させることにより、Z1とX1~X3との間の共通乗車券事業にかかる契約を終了させ(以下、「行為①」という)、新たに設立するZ2~Z4について、X1~X3との共通乗車券事業に係る契約の申し込みがあっても応じないようにさせることを申し合わせ、そのように実行しつつある(以下、「行為②」という)。これらの行為が、共同の供給拒絶(独占禁止法(以下、「法」という)2条9項1号ロ)に該当し、法19条に反して違法とならないか検討する。
(1)Y1~Y21は、A市においてタクシー事業を営む「事業者」(法2条1項)であり、競争関係にある。また、X1~X3もA市においてタクシー事業を営む「事業者」である。
(2)「共同して」とは、意思の連絡があることをいう。そして、意思の連絡とは、複数事業者間で同内容の取引拒絶行為を実施すること相互に認識ないし予測し、これを認容してこれと歩調をそろえる意思があることを意味し、明示的な合意だけでなく、他の事業者の取引拒絶行為を認識ないし予測して黙示的に暗黙のうちにこれを認容してこれと歩調をそろえる意思があれば足りる。
本件において、Y1~Y21は、行為①及び行為②について申し合わせを行っていることから、明示的な意思連絡があるといえ、「共同して」行われたものであると認められる。
(3)そして、供給を「拒絶」するとは、すでに存在する契約を解除するほか、新たな契約の申込みを受け付けないことも含むところ、Y1~Y21は、「他の事業者」であるZ1~Z3に、X1~X3に対する行為①及び行為②を行わせているが、これは供給を「拒絶」させるものであると認められる。
(4)「正当な理由がないのに」とは、公正競争阻害性を意味し、本件のような共同の取引拒絶においては、自由競争減殺効果のうち、市場閉鎖効果が問題となる。ここでいう、自由競争減殺とは、競争を回避または排除することにより競争の実質的制限に至らない程度の制限効果を生じさせることである。また、市場閉鎖効果が生じる場合とは、非価格制限行為により、新規参入者や既存の競争者にとって、代替的な取引先を容易に確保することができなくなるといった、新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。そして、市場閉鎖効果の認定にあたり、市場を画定する必要があることから、本件において問題となる市場を画定する。
ア 市場とは、特定の商品・役務の取引をめぐり供給者間・需要者間で競争が行われる場であり、商品・役務の範囲、地理的範囲等に関して、基本的には、①需要者にとっての代替性という観点から判断される。また、必要に応じて、②供給者にとっての代替性も考慮される。
イ 本件において、タクシー利用者の共通乗車券利用率は善タクシー事業者の運賃・料金収入の合計の約25%であり、他は現金やクレジットカードによる支払いであるから、需要者にとっての代替性が認められる。そのため、役務の範囲としては、タクシー運送役務市場と画定することができる。
A市は、地理的状況からタクシー事業について他の地域から独立した交通圏を形成しており、A市のタクシー利用者が他の地域からタクシーの役務の提供を受けることはほとんどないことから、地理的範囲としては、A市と画定することができる。
ウ したがって、本件において問題となる市場は、A市におけるタクシーの運送役務市場である。
エ そして、当該市場において、X1~X3は、行為①及び行為②により、タクシー共通乗車券事業にかかる役務の供給を受けられないことにより、約25%にあたる共通乗車券を使用する顧客を獲得することができなくなる。共通乗車券を使用する顧客は、企業や官公庁といった使用頻度が高く金額が大きい顧客であり、これらの顧客を失う損失は大きく、競争上、相当程度不利となり、X1~X3の企業活動に支障が生じる。また、共通乗車券利用者向けに低額運賃を設定する者を組織的に排除することにより、価格競争を阻害しているといえることから、相当程度の競争制限効果が生じているといえる。
オ よって、行為①及び行為②により、A市におけるタクシー運送役務市場において、自由競争減殺効果が生じていると認められる。
(5)もっとも、低額運賃による客の奪い合いが、歩合制で働く乗務員に収入減による過重労働を強いて、交通事故の増加につながる危険があることが問題にされるようになったことが、行為①及び行為②の理由とされているところ、交通事故増加を抑制するために乗務員の過重労働を防止することは、「正当な理由」(法2条9項1号)であるといえ、公正競争阻害性が認められないのではないかが問題となる。
ア 「正当な理由」とは、専ら公正な競争秩序維持の見地からみた概念であって、問題となる行為が、正当な社会公共目的にために行われ、目的達成のために合理的であり、実施手段が相当な場合には、「正当な理由」があると認められる。
イ 本件において、行為①及び行為②の目的は、交通事故増加を抑制するために乗務員の過重労働を防止することであるところ、当該目的は、社会公共目的として合理的であるといえる。
しかし、タクシー事業における運賃は、国土交通大臣の認可によるものであり、その額の認可にあたって、安全性の確保についても考慮されているはずであるから、自動認可運賃制度では、上限と下限の範囲内であればタクシー事業者の競争の余地が残されており、その範囲での競争が期待されている。そして、タクシー事業者自身が安全性を確保するために、勤務時間管理などのより競争制限的でない他の選びうる手段が存在している。そのため、行為①及び行為②は、目的達成のための手段として相当であるとはいえない。
ウ したがって、「正当な理由」は認められず、上記(4)の通り、公正競争阻害性が認められる。
(6)以上より、行為①及び行為②は、共同の取引拒絶(法2条9項1号ロ)に該当し、法19条に反し、違法である。
2 行為①及び行為②は、排除型私的独占(法2条5項)に該当し、法3条前段に反し、違法とならないか検討する。
(1)上記1(1)の通り、Y1~Y21は、「事業者」である。
(2)「排除」とは、他の事業者の事業活動を継続困難にさせたり、新規参入を困難にさせたりする行為のことをいう。排除行為に該当するか否かは、自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり、他の事業者の本件市場への参入又はその事業活動を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって判断する。そして、人為性を有し、排除効果を有するものといえるか否かは、①本件市場の状況、②本件市場における地位及び競争条件の差異、③本件行為等の態様や継続期間、④原告の意図・目的等の諸要素を総合的に考慮して判断される。
本件において、行為①及び行為②は、上記1の通り、不公正な取引方法である共同の取引拒絶(法2条9項1号ロ)に該当する行為であるから、人為性が認められる。また、行為①及び行為②により、X1~X3は、上記1(4)エの通り、事業活動を行うことが困難となるため、他の事業者の事業活動を著しく困難にする効果を有するものであるといえる。
したがって、行為①及び行為②は、「排除」行為であると認められる。
(3)「一定の取引分野」とは、市場、すなわち、競争が行われる場を意味するところ、上記1(4)ウの通り、本件では、A市におけるタクシーの運送役務分野を「一定の取引分野」として画定できる。
(4)「競争を実質的に制限する」とは、取引にかかる市場が有する競争機能を損なうことをいい、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することができる状態をもたらすことをいう。
本件において、Y1~Y21及びX1~X3のタクシー運賃は従来通りであり、X1~X3は、タクシー共通乗車券を使用する客について売り上げがなくなったものの、低額な運賃をいかした一般客の獲得に力を入れることにより、当面の経営は維持できる見込みであることから、他の競争事業者からの競争圧力は働いていると考えられる。また、行為①及び行為②により、A市のタクシー運送役務市場において、新規参入することが困難となるような事情は認められず、参入圧力も働いているといえる。
したがって、Y1~Y21が、その意思で、ある程度自由に価格等の各般の諸条件を左右することができる状態に至っているとはいえず、「競争を実質的に制限する」とまでは認められない。
(5)よって、行為①及び行為②は、排除型私的独占(法2条5項)に該当せず、法3条に反しない。他方、行為①及び行為②は、共同の取引拒絶(法2条9項1号ロ)に該当し、法19条に反し、違法である。
以上
以上になります。時間内に、所定の枚数内に、この量を書くのは難しいでしょう。この解答例は、時間や枚数を気にしない起案をする際に参考にしてください。時間や枚数を気にして起案する際には、この解答例について、どの部分を残し、どの部分を削って短くするのかを考えてみてください。
それでは、今回はここまでです。最後まで読んでいただきありがとうございました。