高輪ゲートウェイとわたし
はじめての会社で同じ釜の臭い(臭くはなかったか)飯を食ったまっちゃんはいまから約30年前にカナダに渡った。そして向こうで広告代理店やプロダクション、日系企業を渡り歩いた後にニューヨークで独立。いまでは一国一城の主として活躍している。
わさび企画です。NYにご旅行の際にはぜひお立ち寄りください。
そんなまっちゃんが久しぶりに来日するというのでランチでも、とアポをとった。コロナ中も2回ほどzoomで話したが、オフラインで会うのは4年ぶりだ。
品川駅で待ち合わせした。指定の場所に赴くと、いた、まっちゃんだ。わたしを見つけて手をふっている。
「ハヤカワくん、ひさしぶりやんなあ。あれ?髪の毛増えてへん?増えてるよねえ」
まっちゃん、残念ながらそれは俺じゃないよ。きっと誰か他の人と間違えてるんだ。だって俺の渾名は有明の孫正義…という台詞を飲み込んで『つばめグリル』に向かった。
平日の昼間だったが生ビールで再会を祝った。その日のランチは当然ながらわたしが奢った。髪が増えたなどという最高の賛辞をごく自然に口にできる旧友に、びた一文払わせるわけにはいかない。円安だけど。
そして実はその日、まっちゃんとの待ち合わせの時間の30分前に品川駅についてしまったわたしは、いつかいってみようとおもっていた未開の土地に足を踏み入れることにした。
それが『高輪ゲートウェイ駅』である。
高輪ゲートウェイ駅は2020年3月14日に開業した、できたてほやほやの新駅。しかもまだ完成ではなく、2024年度の本開業を目指して絶賛工事中である。
平日の13時にもかかわらず人がいない。ガラガラであります。
バカと煙は…とはよくいったもので、わたしも例外なく二階に上がることにした。いったい二階になにがあるというのか。
なんと、スターバックスがあるではないか。いまだに東京23区の中には「スターバックスのない町」があるというのに、よりによってこんなにもひと気のない駅構内にあるだなんて。
そして1階には得たいの知れないコンビニみたいな店舗が。あとで知ったのだがウオークスルー型の完全キャッシュレス店舗『TOUCH TO GO』とのことである。なんのことだかはいまだに理解できていない。
なんというか、人がいないせいもあって、とてもここちよい空間である。地方の小さな空港におじゃましている気分だ。
この先もガッツンガッツン開発が進んでいくようだが、果たして採算はとれるのだろうか。春日三球師匠じゃなくても一晩中寝られなくなる。
わたしはこのような光景をみるといつも思うことがある。
東京では今日も新築マンションが建てられている。一方で23区のいたるところに廃墟というか、人が住んでいない家屋もある。どう考えても供給過多ではないか。
なのに家賃が日本一高い。都内には住めないといいながら大宮の先や千葉方面に転居する人もいる。ホームをレスしてしまう人もいる。高齢者は保証人がいないという理由で家が借りられない。
なんかおかしいな、と。
豊洲市場の場内駐車場は市場関係者以外使えない。一般車は場外の商業施設に隣接する立体駐車場を使わざるを得ない。しかも最近は周辺の工事関係車両が幅をきかせているらしく、停められないクルマが続出している。
なのにひと駅先の「有明テニスの森」付近にはアホみたいに空き地がある。最近オープンした『有明GYM-EX』の駐車場も平日は一台も停まっていない。ゆうに100台以上停められるのに。
なんかおかしいよな、と。
ギュウギュウ詰めでまいっている場所がある一方、ガラッガラで無駄なスペースが余りまくっているこのアンバランスさ。
それが東京というものなのだろうか。
この都会のどまんなかで、おそらくだけどすっぽんぽんになっても誰も咎めない(というか誰もいない)空間があるのだ。
まさに昔買った写真集『Tokyo Nobody』そのものじゃないか。
コロナによるリモートワークの影響、といえば言い訳として成立しそうだが、だけど最近は出社モードに戻りつつあるぞ。実際にわたしの周囲のTech系ベンチャーだって週3ぐらいはオフラインで、という空気だし。
最新鋭のプロジェクション・マッピング(であってるのかな?)みたいな仕掛けや今流行のアバター駅員を配置するなど、最先端なんです!と主張をされているが、しかしそれも見る人がいてこそなんだよな。
もしかしたらこの日、というか平日より休日のほうがにぎやかだったりするのかな?駅周辺の施設を調べてみるのも一興だな、と思う。
山手線30番目、49年ぶりの新設駅。あたらしい街につながる取り組みか…。発表当初はなにかと物議をかもした駅名だけど、駅舎の写真を見ると、さもありなんと思う。
ま、しかしいまは新しさが目について、その反動で人の少なさが際立っているだけで、あと数年してこなれてくるといい感じに馴染んでくるのかもしれないな。
建築家や駅舎設計をするような頭のいい人は何年も先を見据えて物事を考えているはずだし。
駅舎づくりといえば、村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』の主人公である多崎つくるくんがこの駅を見たら何を思うだろう。ぜひ意見を聞いてみたいものだ。
そしていつから公共の場所のベンチはこんなにもいじわるになったのだろう。ホームレス対策とかいって変な位置に手すりを設けて横になれない仕様にしたり。この駅のベンチもご多分に漏れず座り心地がよろしくない。
このあたりの精神性がいまの日本の問題の根っ子にあるんじゃないか、と思わずにはいられない。
とかなんとか言ってるうちにそろそろ品川に戻らなければならない。
駅から出なかったことを後悔したが、それはまた別の機会の楽しみにとっておくことにする。
高輪ゲートウェイ駅。奥が深いんだか浅いんだか、まだその正体は皆目見当がつかない。
山手線の外回りに乗り込んだわたしはユーミンの「中央フリーウェイ」のふしで口ずさんでみた。
♪高輪ゲートウェイ〜