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雪の日に聴くアルバム+1

敬愛する漫画家でありイラストレーターの江口寿史先生がインスタに「2006年の発売以来、雪の日のおれのBGMはずっとこれです」とコーネリアスのアルバム『SENSUOUS』を紹介されていた。

そういえば自分も雪の日はいつも決まったアルバムを聴きながら仕事してるな。どうして雪の日だけBGMを決めるのかわからない。わからないが雪がそうさせていることは間違いない。ぜんぶ雪のせいだ、とJRも言ってたし。

もちろんせんだっての東京都内を襲った大雪の日もふだん流しっぱなしにしてるMisha(エブリシングじゃない、チルポップのほう)ではなく、雪の日用の4枚のアルバムと1曲をローテーションで。

と、いうことで今回は極私的雪の日に聴くアルバムとプラスワンを紹介します。そんなの知りたくないわ、わたしそれより今夜の水ダウのほうが気になるもの、という方とはここでお別れです。さようなら。


11のとても悲しい歌/PIZZICATO ONE

2011年のリリース

雪の日だから、というわけではありませんがジャケットは雪の中に一度倒れ込んだあとの小西康陽さん。全編が英語曲のカバーで構成された、タイトル通り悲しい雰囲気が漂うアルバムです。

なぜわたしがこのアルバムを雪の日に好んでかけるか、というと、それは世界が静かな日に聴きたい歌ばかりだからです。

特にマイア・ヒラサワが唄う『バン・バン』(SONNY AND CHER)やクリストファー・スミスによる『メイビー・トゥモロウ』(Quincy Jones-Marilyn Bergman)はつい、仕事の手が止まってしまうほどの悲しみにあふれています。

しかしここであえて推したいのは唯一のオリジナルインストであり、アルバム一曲目を飾る『ひとりで眠ることを学ぶ。』です。

ひとりで眠ることを学ぶ。

なんという悲しいタイトルでしょう。世の中の騒音をすべて雪が吸いとってくれる、そんな静かな日にぴったりの悲しさではないか。みんな、いずれはひとりで眠るのです。それを学ぶということは生きながら死を意識するのに等しいわけで。

そこまで思いを馳せると、目の前の原稿仕事が些末なことに見え(おい)


High Winds, White Sky/Bruce Cockburn

1971年リリース

これまた偶然にも雪の公園らしき光景のアートワークです。カナダの公園らしき場所でしょうか。このジャケットのイメージに惹かれて針を落とすと…これがまためちゃくちゃいい。ブルース・コバーンの2ndアルバムです。

個人的には全てのアーティストにとってセカンドが最高傑作になる確率が高いと思っているのですが、このアルバムもまさにそれ。

ブルース・コバーンはマジでアコギが上手い。しかも単にバカテクというのではなく、ブルーズやジャズ、スティールギターなどのエッセンスも混ざっているんですよね。だから上手いというより「いい」と言いたくなります。日本だと吉川忠英さんといったところでしょうか。

もちろん声もいいから、唄が染みる。まったくもって捨て曲なしなのですがあえて推すとしたら…『Happy Good Morning Blues』『High Wind White Sky』あたりでしょうか。さらに『Lifes Mistress』も。唄とアコギだけでここまで表現できるのか、と。

ちなみにアナログ盤を持っているのですが仕事場ではサブスクで聴いています(プレーヤーがないですし)。サブスクはねぇ…というレコードマニアのご高察を目にするたびに「ケッ」と思うんですがこのアルバムだけは確かにビニールのほうが暖かいですね。


Flight to Denmark/Duke Jordan

1974年リリース

みたび雪景色のジャケットが印象的なデューク・ジョーダンの名盤です。わたし楽曲はもとよりアートワークにもひっぱられているみたいですね。でもそれを意図したアートディレクションだとしたらその狙いにどっぷり浸るのもいいんじゃないでしょうか。

凍てつくような寒い雪の日。部屋に入った瞬間、眼鏡が曇る。ふわっとした気分に包まれて指先あたりがほんのり痒くなる。そんな感覚を味わえる一枚です。わたしはあまりジャズには詳しくない(Jamiroquaiほど詳しくない)のですが、デューク・ジョーダンのピアノが魅力的だということぐらいは感じとれます。

もし気になる女の子からジャズのアルバムでおすすめを、と言われたら間違いなく差し出す一枚です。きっと彼女は『Here's That Rainy Day』を聴きながら「あれ?このメロディ聞いたことあるかも」というでしょう。クリスマス前なら間違いなくいい感じ。

全編、物静かで演奏にも哀愁が漂いますが、PIZZICATO ONEのあとに聴くとちょうどいい塩梅に哀しみが中和されるから不思議です。推し曲は『Everything Happens to Me』『How Deep Is the Ocean』そしてスタンダードの名曲『On Green Dolphin Street』。


The Beatles (White Album)/The Beatles

1968年リリース、つまりタメ年ね

どこまで白いジャケットにこだわるのか…と自分でも呆れますが、雪の日のヘビロテに必ず絡んでくるのがビートルズの『The Beatles』通称White Albumです。

このアルバムはファンからの評価がまっぷたつに分かれます。わたしの周りのビートルマニアはあまり評価していないようです。でもわたしは彼らのアルバムの中では最も好きな一枚です。

最も好きなのに雪の日にばかり聴くのは、やはりアートワークにひっぱられているのもあるのですが、なんとなくアルバム全体をつつむ温度が低いように思うからです。それは制作時にメンバー同士の関係性が悪かったことに起因しているのかもしれません。

ただ、そんなことはいちリスナーである自分にとってはどうでもよくて、冬、特に雪が積もった日には必ず引っ張り出してきています。一曲目の『Back In The U.S.S.R.』から最高で『Rocky Raccoon』や『Savoy Truffle』などマジ名曲ぞろいなのですが、個人的にいちばんの推しは『Martha My Dear』というポールが愛犬マーサを唄った歌。

Martha,my love  Don’t forget me  Martha, my dear
(マーサ、愛しい君 僕を忘れないで マーサ、かわいい君)
愛犬家としてはここで毎回目頭を熱くするのです。雪、関係ないけど。


Ghosts/ Japan

2000年リリース

最後に、プラスワンとして雪の日にどうしても聴きたい一曲を紹介させてください。ジャパンの『Ghosts』(ゴウスツ)です。ジャパンといえば好きな人は好き、そうでもない人からするとデュラン・デュランとごっちゃにされてしまいがちなグループです。それは仕方ないと思います。わたしもK-popのボーカルグループは全部同じに見えます(LDHも同様)。

それはさておき、ジャパンがその世界観を確かなものにしたキャリア最後期のアルバム『錻力の太鼓(Tin-drum)』からのシングル・カットである『Ghosts』。歌詞の内容はなかなか考えさせられるものがありますが、耳を傾けてほしいのはそのサウンドです。

静謐という言葉がピッタリのリチャード・バルビエリのシンセサイザー。その音空間に漂うシルビアンのボーカル。サビから間奏にかけてのマリンバはまるで雪の上を恐る恐る歩いているように聴こえます。プロフィット5を使い倒してこそのサウンドですね。

なぜアルバム全部を聴かないのか、というと、全体としてはアフリカンビートや東洋音楽のアプローチが強く、いま聴いても古さは感じないのだが、若干ポップすぎる(しかもビートルズより)趣があるんですね。なので、雪の日に聴くのはもっぱら『Ghosts』だけ。

ちなみにオススメはオリジナルアルバムよりもコンピレーション盤『Everything & Nothing』で聴ける新録Verです。


と、いうわけで誰に頼まれたわけでもなく極めて個人的に雪の日に聴くアルバム4枚とシングル1枚をご紹介しました。

東京って昔に比べるとずいぶん雪が積もるようになったな、と思う今日この頃。とはいえ年に1~2回ですから貴重な体験だと捉えて、少しでも楽しめるといいですよね。

なんて書くと北国の人に怒られるんじゃないだろうか。なんたって明日の東京の最高気温は20度だっていうんですから。

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