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デニーズの値上げは吉とでるか凶とでるか

はじめにことわっておきますが、ぼくはマーケティングについてはからっきしです。割とそれに近い世界で仕事をしているのではありますがマーケティングはド素人。そこんとこよろしこ。


ぼくの仕事場は渋谷のはずれ、神泉という街にあります。花街の名残かどうかは定かではありませんが、こじんまりとした飲食店が点在するなんともいえない空間です。

なのでランチには苦労しません。同僚のデザイナーたちと13時から14時ぐらいにかけて食べに出かけますが、和洋中華なんでもござれでお店に困ることはない。

ただし、どのお店も14時を過ぎるとパタパタと閉めちゃうんですよね。いわゆる通しでやってるお店となると、さすがに限られるわけ。

一方ぼくらの仕事はある一定の集中力が必要で、朝10時からエンジンかけて走りだすとゾーンに入るのが12時過ぎぐらい。13時、14時なんてのはいちばん油がのってる時間帯だったりします。

で、ふと気がつくと「うおっもう15時半じゃん!飯!めし!メシ!」ってこともしばしば。

そんな意外と仕事熱心なぼくらの強い味方が、神泉交差点を代官山方面に渡った先にある『デニーズ南平台店』です。ここは当然、アイドルタイムなんて概念はありません。ランチメニューが適用される時間帯も夕方までと長いので、どんなに遅くなっても大丈夫。

てなわけで14時半過ぎるとランチは自動的に「Dで…」となってました。いっときはあまりに通いすぎてメンバー全員がアプリ会員になるほど。ぼくもいったい何皿のチキンジャンバラヤを平らげたことか。

ただ、さすがに毎日のようにDを使ううちに、正直、あきた…という気分になってしまうのも人間の性。これを贅沢と断罪することが果たしてできるでしょうか。


そんなある日、アートディレクターがお散歩の折に通しで営業している喫茶店を見つけます。

その名も『フレンズ』

ここは食べログの分類では「カフェ」なんですが、どちらかというと喫茶店の趣があるお店です。しかもフードメニューが充実した、昔ながらの洋食を提供する喫茶店。

ナポリタンやハンバーグ、カレードリアなど腹ペコヤング中年たちの舌をお腹を満足させるメニューの数々。しかもリーズナブルです。

来店1回につき1スタンプたまるカードもあり、5スタンプたまるとドリンク1杯、カード2枚でクラフト生ビールと交換という特典も。

ぼくらはあっという間に虜になって、14時半を過ぎるといそいそと『フレンズ』に足を運ぶようになりました。

しかし、なにごとにも限度というものがあります。1週間に8回も通っているうちにさすがに全メニューを制覇し、なんとなくの倦怠感が。

そして昨日。インハウス系の業務に追いまくられていたぼくら。気づけばまたもや15時近くになっていました。

「どうする?今日…」
「フレンズ?」
「うーん…ちょっとなあ」
「もう限界だよね」
「じゃひさびさにD?」
「ああ、いいね、D!」

あんなに用が済んだあとのエロ本のような扱いをしていたDが、がぜん輝いてみえてきました。と、いうことで2ヶ月ぶりにデニーズへ出陣です。

いつものように「4人」と告げて、いつもの店員のおばちゃんに促されるまま4人がけテーブルに着席します。

「ひさしぶりだねー」
「メニュー変わってるといいね」

そんな呑気なやりとりを交わしていると、デザイナーのひとりが素っ頓狂な声をあげます。

「め、メニューが変わってる!」
「ん?いいことじゃん、前の飽きてたし」
「いや、ね、値段が…」

ランチメニューを見るとぼくらの強い味方だった『昼デニセット/パスタ・ライスプレート』が1,340円!ええっ!正確な値上げ額はわからないけど体感で100円以上上がってね?

ちょっとリッチな気分が味わいたいときの定番『昼デニセット/ハンバーグ・肉料理』に至っては1,440円から!?これも100円以上のアップ感。

いかん…ランチで1,500円は、1,500円は払えん。

もうこうなると最低価格ラインの『日替わりワンプレートランチ』に手をだすしか…と見てみると、おお、これは990円とかろうじて1,000円を割っているぞ。ん?う、売り切れとな…。

そりゃそうか、こんなに全体的に値上げしているんだからみんな日替わりに走るよなあ。15時過ぎたらSold Outもやむなしってか。

ここでぼくらはガックシしながら以前より割高感あるランチメニューをめいめいオーダーするしかないのでありました。


デニーズが値上げするらしい、というニュースはずいぶん前から『めざましテレビ』だか『WBS』だかで知ってはいましたが、いざ自分の財布が直撃されると急につらたんです。

で、これだけしっかりと値上げした以上は客の足も遠のいて、店内はガラガラ閑古鳥…なはずなんですが、ここで驚くべき事実が。

以前なら15時半にもなろうものなら客はまばら。いてもパソコンに集中しているリーマンやリモート会議やってそうなおばさん、あるいは宿題に取り組んでいるお子様でした。

まあ、ひと言でいうと、あまり客筋がいいとは言いがたかったわけです。彼らは450円のドリンクバーで何時間でも粘るからです。しかも店内の雰囲気もどこかダラっと弛緩したものになる。これはお店側からするとあまり好ましいものではありません。

それがですね、なんと、ほとんど満席なんです。しかも前述のような一人客はほとんど見受けられない。多くは2名~4名、5名ぐらいのグループで、みなさんしっかりフードメニューを注文しています。

店内の空気も活気があふれている。これはぼくが居酒屋の店長をやっていたから特に敏感なところでもあるのですが、グルーヴというか躍動感、良い意味での緊張感があります。

そうなると不思議なことに、オーダーした料理も心なしか美味しく感じられる。メンバーも「うん、値上げしたけど、美味いは美味いね」「うん、美味いは美味いよ」となぜかみんな「美味いは美味い」を繰り返していました。

ここでぼくの仮説。

ぼくらの足が遠のいていたこの2ヶ月でデニーズでは値上げを敢行。そうなるとデニーズに「お得」「お値打ち」「ローコスト」を求めていた層がどんどん離れていきます。特にドリンクバーなんて490円と、もうひと息でワンコインに手がとどく。これによってPCリーマン、リモートMTGおばさん、宿題クラスターが一掃されました。

そうなると自然に店内の空気が入れ替わります。代わってメインの顧客になるのはいわゆる小口の金額に左右されない層に。安さよりも「落ち着く雰囲気」「美味しさ」「適正価格」を求める人たちはもともとデニーズが狙っていた顧客であることは言うまでもないでしょう。

そういう人たちが一組、二組でも入っていると類友の法則によって、同類が引き寄せられてきます。※類友の法則…類は友を呼ぶ、の法則

実際、昨日のデニーズ南平台店15時30分の店内の様子を紹介すると、いかにもクリエイターっぽい会話が飛び交う4人組。せんだって話題にのぼった格闘家とそのスタッフ3人組。こんなところに正装で?とおぼしき御婦人3名様。などなど以前とは明らかに異なる属性の人々がそれぞれの話題で盛り上がっていました。

そして店員さんの動きにもどことなく敏捷さが感じられたりして。うん、デニーズ南平台店、ええ店になったやん、と思ったわけです。


こうなるとデニーズの値上げ戦略は大成功を収めたことになるのかな、と思いつつ店を出たぼく。

そして「こんなに高いともう行けないね」とつぶやく仲間を見て、あ、ぼくらもいまこの瞬間、きれいに排除されたのか、と気づく。

こうしてデニーズ南平台店の値上げ作戦は見事ミッションコンプリートされたのでした。この値上げ、吉と出ることを陰ながら祈ります。さようなら、ぼくたちのデニーズ南平台店!!

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