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駅の個室を使ってみたよ

その日、ぼくは10時半から歯医者の予約を入れていた。

その歯医者は厳しい院長と優しい歯科衛生士のツンデレコンビで有名なクリニックであった。ぼくは過去、隣のブースで激詰めされた患者が後に歯科衛生士に慰められ、その繰り返しで常連客になっていくというDVのような地獄絵図を何度も目にしてきた。

「先生、わたしはどうしたらいいのでしょうか」
「抜くか、残すかはあなた次第!」
「いや、医者としての見解を…」
「それは自分でキメてください!」
「ええーっそんなぁ…先生はどう思いますか」
「わたしにそれを決めることはできません!」
「うーん…うーん…」
「決められないならおしまい!」
「ええっ!!ちょ、ちょっと…」

これ、パッと見は冷酷な感じなんですけど、ぼくが思うに、実はきちんと患者さんに自分の歯のことは自分で考えて決めようよ、という大切なことを教えてくれているのではないかと。

実際にぼくもこの歯医者さんに通い、ツンに叱られデレに褒められを繰り返していくうちにいつの間にか虜に…ではなくて、本気で自分のオーラルケアを考え、実行するようになったんです。

それはまあ、いいとして。

歯科通院の次に入っている予定が11時半からのリモート会議でした。歯のおそうじが終わったのが11時。そこからオフィスまでは歩いて25分。ダッシュで頑張ればギリ間に合うか、といったところですね。

しかしあいにくその日は6月なのにヤバい暑さ。前日に記録的な早さで梅雨が明けた、カンカン照りの火曜日です。

あー、どうしよっかなー。
リモート会議、外から参加しようかなー。
こっからオフィスまで遠いし走るのダルいなー。
カフェもいいけどうるさいんだよなー。
どうしよっかなー。

そんなぼくの目の前にこつ然とあらわれたのが、これ!

ドラえもんのタイトルバックのイメージで

STATION BOOTH

ステーションブースとな!

みるからに駅にある証明写真機のような、ひとカラ用ボックスのような、エッチなDVDを見る個室のような佇まいのブースが切符売場の横に設置されておりました。エッチなDVDを見る個室には行ったことありませんけど。

「これは…いったい…」

横に据えられていたラックに入っていたリーフレットによれば「安全・安心の完全個室空間」とある。抜群の立地、静かで快適な環境、ちょっとしたスキマ時間に、というたぶんぼくでもそう書いたろうな、というコピーも添えられていました。

まさに、いまぼくが求めていた三拍子が揃っているではありませんか。さっそく利用することにしました。

どういう仕組みで光っているのでしょうか

まず、ブースの空きを確認します。見た感じ「空」とあるので、おそらく空いているのでしょう。でも「そら」かもしれません。しかも「vacant」という英語の意味がわかりません。もしこれでぼくがガチャッと扉を開けて、中で妙齢の女性がナニをナニしてたりしたらアレじゃないですか。

ぼくは世の中には「絶対」はない、と信じています。ちなみになぜ「絶対」はないと信じているかというと「ダメ、ゼッタイ」と薬物乱用撲滅ポスターにのりピーが出ていたからです(後にコラと判明)。

なので万全を期してGoogle先生に聞くことにしました。わからないことはすべてGoogle先生に聞けば解決します。

すると

そういや最近のタクシーにも…

空室間違いなし、ということが判明しました。これでひと安心ですね。

ほっと胸をなでおろしたぼくは仕掛けがよくわからないまま、好奇心だけでタッチパネルみたいなのを触ります。

空いててよかった…

あらためて空いていると教えてくれます。ちなみに空いている、という言葉「すいている」とも読めませんか?みなさん自然に「あいている」と読みます?さらに「あいている」には「開いている」もありますよね。このあたりどうなんでしょうか、文部科学省的には問題を放置しておくつもりでしょうか。気になって血圧が上がりました。

そして「会員」「一般(非会員)」とあります。

当然ぼくは「一般(非会員)」です。でも、こうやって並べられると何かこう、会員には特別の計らいがありそうで。特典とか割引とかBluetoothイヤホンがもれなく当たるとか。

一方、一般であるぼくは非会員扱い。なんか嫌な感じです、非って。こういうのを見るとよし次からは会員として利用するためにも入会しよう!という気になるんですよね。まだ使ってもいないうちから。

まあでも事実なので「一般(非会員)」をポチっと押します。すると…

15分刻みだから使いやすい!

なるほど、こういう感じで時間が区切られるんですね。そしていつもニコニコ明瞭会計!この料金表、非常にわかりやすいと思いました。あまりにも複雑だったり騙しっぽい表記をしているコインパーキング関係者に伝えたい。コインパーキングもこれぐらいわかりやすく表示してほしい。料金を支払う機械があるんだからできるはず。

ぼくは、よし、もうちょっと時間つぶしてから30分550円コースで使おう!と思いました。

そうして駅のまわりをウロウロすること約10分。
ついに刻キタル!

ここだけチープなプラスチックみ

なんか急に安っぽいこのタッチ端末に交通系ICカードを当てます。すると引当金額とカードの残金が表示され、カチャッとブースのロックが解除される仕組み。なにもかも全自動。上げ膳据え膳ですね(ちょっと違う)。

重そうでそんなに重くない扉を開けると…そこはまさしくひとり用の空間でありました。

さあ、今日はなに歌うか(違う)

まだ新しく、利用者もさほどいないのか、とってもきれいな室内です。入り口からの眺めはやや圧迫感ありそうに見えますが、中に入ってみると全然そんな感じがしません。必要にして充分な一人用スペースです。

ソファーは身長166センチのぼくならゴロンと横になれるサイズ。エッチなDVDを見る個室ほどではないにせよ、かなりリラックスできるでしょう。エッチなDVDを見る個室には行ったことありませんけど。

外の暑さに比べると室内はさすがにひんやりとします。が、冷房がないことには滝汗が流れるのも時間の問題。しかし心配ご無用。きちんとエアコンが用意されています。

ロゴの上にシール?

ぼくは勇んでスイッチオン!いきなり22度まで設定を下げて強制冷房を試みました。するとなんということでしょう

テーブルの下からこんにちは

足元からギンギンに冷えた風が猛烈に吹き付けてくるではありませんか。あわてて温度を24度に。ここまで涼しくできるのであれば、どんな猛暑もへっちゃらです。この季節、電力の需給がひっ迫しがち。できる限りの節電を個室ブースでも心がけたいものですね。

しかも上半身はテーブルに据え付けられたデスクファンがしっかりと冷やしてくれます。これなら汗っかきの池中玄太も安心です。

ただ風が吹くだけ。それでも「強」を選びたい

今回ぼくはiPhoneでリモート会議に参加したのでブース内に鎮座ましますモニターに何かを映すことはありませんでした。もしPC持ち込みでモニター投影とかしたらそれはそれは華やかな室内になったことでしょう。

デスク全景

おかげさまでリモート会議にも間に合ったし、きっちりバッチリWi-Fiも入るし、静かだし、何より周囲に気をつかわずに話せるのが最高です。

と、いうわけで個人的にはすっかり気に入った『STATION BOOTH』。JRが運営しているのでいろんな駅に設置されているみたい。次回からは会員としてあらかじめ予約して使ってみようと思います。

最寄りの駅でこいつを見かけたら、最初だけちょっと周りの目が気になるかも知れませんが、ぜひ一回使ってみてはいかがでしょうか。スキマ時間が有効に活用できること間違いないと思います。

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