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『追憶の探偵』

【 ネタバラシはありません 】

『追憶の探偵』

著者:月村了衛
出版社:双葉社
発行年:2017年4月23日


消息不明の大物映画人を捜し出し、不可能と思われたインタビューを成功させる――
〈人捜しの神部〉の異名を取る女性編集者・神部実花は、上司からの無理難題、読者からの要望に振り回されつつ、持てるノウハウを駆使して今日も奔走する。
だが自らの過去を捨てた人々には、多くの謎と事情が隠されていた。次号の雑誌記事を書くために失われた過去を追う実花の取材は、人々の追憶を探る旅でもあった……。


 本書は、帯に〈日常のハードボイルド〉と書かれていたので思わず買いました。警察や私立探偵ではなく、いわゆる素人探偵が「探偵」するお話は数あれど、それに至る経緯が甘かったり、しっかりした理由がないと、私は「少しもったいないなあ」と思ってしまいます。しかし、本書は違いました。「編集者」「特撮業界」というテーマで明確に「探偵」する理由が示されていて、これはすごい発明だと感心しました。昔の人・ものを掘り起こす場合、ネット黎明期かそれより以前の出来事ですと、足を使って情報を集めるしかありません。そういう条件下での「人捜し」、これは帯の文句に間違いはないです。
 雑誌の特集のために映画界から一切の縁を切った特殊技術者を捜す「日常のハードボイルド」、幻の作品とその関係者をめぐる「封印作品の秘密」、雑誌に掲載する資料の著作権をクリアするために当人が死んでいるのか遺族がいるのか聞き込みする「帰ってきた死者」、とある倉庫で発見されたマスクは本物かそれとも贋物なのか……「真贋鑑定人」、病床に就いている監督の頼みのために時計の持ち主を捜す「長い友情」、写真に写っている11人の男女に掲載許可を得るために奔走する「最後の一人」、どれも面白かったです。

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