オタクにこそおすすめしたい『アンナチュラル』

最近、TBS系列で放送されたテレビドラマ『アンナチュラル』を観ていたのだが、これが大変に面白く、僕の周りのオタクにも広めたくなったのでここにおすすめ文を記すことにした。

【そもそも何故観ようと思ったの?】

まず僕が『アンナチュラル』を観ようと思い至った理由を語る。

本作の脚本は新垣結衣、星野源主演のテレビドラマ、『逃げるは恥だが約に立つ(以下『逃げ恥』)でも脚本を手掛けていた野木亜紀子の手によるものだ。

この『逃げ恥』は今年の正月に一挙放送が行われており、「そんなに評判がいいなら観てみるか」と視聴を始めた僕を見事夢中にさせてくれた。

性別や年齢、恋愛経験の有無などによって否応無く生じる固定観念を、ラブコメディーの形を取りながら優しく、楽しく解きほぐしていくような、観終えたあと、ちょっとだけ生きるのが楽になり、自分とは違った立場の人のことを考えてみようと思えるような、素敵なテレビドラマ。それが『逃げ恥』だった。

その逃げ恥一挙放送のCM中、同じ脚本家が手掛ける新番組ということで繰り返しプロモーションされていたのが『アンナチュラル』だった。

https://youtu.be/V-pJ4WMfaAM

しかし、そこで流れた映像は売れっ子俳優で主演陣を固めた、国産ドラマとしてはありふれたライトなサスペンスといった塩梅で、特に食指が動くことはなかった。(普段テレビドラマを全く観ないのでこの印象自体偏見もいいところだ…)

そんな感じでリアルタイムでの放送時は完全にスルーしていたのだが、徐々に本作の評判が僕の耳にも届くようになり、どうやら日本社会が抱える諸問題について、『逃げ恥』とはまた別のアプローチで切り込んでいる作品らしいことが分かった。
ここに至ってようやく視聴に踏み切ったのだ。

ちなみに視聴には「Paravi(パラビ)」という動画配信サービスを使った。
これはTBS、テレビ東京系列のドラマや映画が充実している配信サービスで、月額925円で多くのコンテンツが見放題、もちろん初月無料だ。映画や最新ドラマなどの一部は有料だが、『逃げ恥』や『アンナチュラル』辺りは見放題なのでご安心いただきたい。
UIも万全とまではいかないものの、画面構成などNetflixを参考にしている様子で、国内配信サービスの中では比較的快適に使用できるのではないかと思う。

【『アンナチュラル』はこんなドラマ】

前置きが長くなったが、ここからは『アンナチュラル』という作品の概要を語っていきたいと思う。

本作の舞台は事件や事故で亡くなった人の遺体を解剖し、その死因を究明するために国の認可によってつくられた組織「不自然死究明研究所」、通称「UDIラボ」。ここには不自然な死(Unnatural Death)を遂げた遺体が日々運び込まれている。

一度下された死因と、遺体の間に存在する明らかな齟齬。この理由を解明し、本当の死因を導き出す過程で、隠された真実、そして死者が残そうとした想いなどが明らかになり、それらを発端として起きる事件にUDIラボのメンバーたちも巻き込まれていく……というのが各エピソードの基本的なプロットとなる。

そして彼らが死ななければならなかった理由、そこにはこの社会に様々な形で現出する「生き辛さ」が影を落としている。ブラック労働、いじめ、震災の爪痕……また、主人公である三澄ミコト(石原さとみ)が殺人の濡れ衣を着せられた容疑者を助けようとしたときには、敵対する弁護士のみならず、助けたい当人から受ける無意識の女性差別的な思考にさえ苦しめられることとなる。

番組タイトル『アンナチュラル』はUnnatural Death(不自然死)から取ったものであると同時に、この社会に蔓延る不条理や理不尽をも意味しているのだろう。

誰かの死を発端に物語がはじまる本作では、完全なハッピーエンドなどありえない。しかし真実が暴かれ、社会の不条理を利用して甘い汁を吸っていた人間が失墜し、そして死者の尊厳が守られるカタルシスはしっかり存在する。
また1話完結の形を取っているが、作品全体を通して徐々に明かされる、ある人物がかつて関わった「身内の遺体の解剖」に端を発する謎が同時に進行していくため、次回への引きも毎回非常に続きが気になるものとなっている。

『逃げ恥』の優しさとは異なり、苦い後味の残る手厳しい問題提起を行いながらも、万人が楽しめるエンタメとしてツボを抑えた構成は、『逃げ恥』と『アンナチュラル』に共通する大いなる魅力だ。

【オタクも大好き豪華俳優陣】

次に本作を彩る素晴らしいキャストたちを紹介していこう。

視聴前は訝しんでいた豪華キャスト陣だが、いざ鑑賞してみると、当然ながら彼らの魅力、演技力は作品に大きく貢献していた。しかも僕たちオタクにとっても馴染み深い顔ぶれが揃っているので、僕同様テレビドラマに偏見がある方々にとっては良い取っ掛かりになるのではないかと思う。

まずいちばん目を引くのは『シン・ゴジラ』でカヨコ・アン・パタースンを演じた石原さとみと尾頭ヒロミを演じた市川実日子が揃って出演していることだろう。ふたりの演じる法医解剖医三澄ミコト(石原)と臨床検査技師の東海林夕子(市川)は友情とは少し違う、お互いの技術と人格を信頼し合う頼れる仕事仲間として描かれており、その近すぎず、遠すぎない関係性が観ていて心地いい。

『HiGH&LOW』シリーズでは無名街の守護神RUDE BOYSのリーダー、スモーキーを演じていた窪田正考は今回、UDIラボでアルバイトをしている純朴で優しい青年、久部六郎を好演している。同じ職場に石原さとみが居たらほとんどの男は惚れるので当然久部も三澄ミコトに惚れるのだが、この恋愛感情はあまり掘り下げられることはなく、むしろプロフェッショナルに対する尊敬の情に重きを置いて描かれる。この辺りも僕らオタクが好む温度感だと思う。一方のミコトも六郎のことは未熟ながら全力でミコトの助けになろうとする可愛い後輩として見ており、彼らの関係はとても微笑ましい。

そしてUDIラボの所長神倉保夫を演じるのは『孤独のグルメ』の五郎さんでおなじみ松重豊だ。

最後に腕は確かだが性格に難がありすぎる傍若無人法医解剖医として三澄ミコトと何度も対立する中堂系を演じるのは井浦新。最初ピンと来なかったのだが、よくよく見たら彼は『HiGH&LOW』でMUGENの創始者、龍也を演じていた人だった。つまり本作は実質「シン・ゴジラ対HiGH&LOW」と言ってよい

シン・ゴジラ対HiGH&LOW https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7227906

また多少ネタバレになるが、この中堂系は典型的な「最初のうちは敵か味方か分からないが味方に回ってからはめちゃくちゃ頼りになるツンデレ男」タイプのキャラクターだ。他の登場人物はある程度テンプレに囚われない奥行きのある人間性を備えているが、彼はかなりベタなツンデレである。でもみんな、そういうの好きだろう?(僕も大好きだ)

レギュラーメンバーは主にこの5人で、たまにお笑いコンビ「ずん」の飯尾が出てきたり出てこなかったりUDIラボを辞めたりする。

【おわりに】

本作のレギュラーキャラクターは皆魅力的な人物だが、そのほとんどが普段表に出さない秘められた過去や現在進行系の秘密を抱えている。

遺体の死因を明らかにすることは、死を迎える過程で彼らがどんな想いを胸に行動したのかを読み解く鍵となる。死人は語れない。けれど親、恋人、友人たち……その想いの一端に触れることで救われる者は確かにいるのだ。そして逃れられぬ過去に苦しみ、迷いながらも歩み続けるUDIラボの面々もまた、それらの想いを引き受けることで目指すべき未来を見定めていく。

彼らの旅がどんな結末を迎えるのか、ぜひ見届けてほしい。

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