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2人声劇『ノイズ』


『ノイズ』

朔夜「幸せになりたい…」

卓也「幸せにするよ…」

朔夜「ずっと一緒にいて…」

卓也「ずっと一緒にいようね…」

少し間を開ける

卓也「や、やめろ…朔夜……やめてくれ…何を…やめっ…がっ……さく…や…」

朔夜「はっ!はぁはぁ……ゆ、夢…何で卓也を殺す夢なんて…」

朔夜(N)私は思わず隣で眠る卓也を見る…出会った頃と変わらない寝顔が私の心を落ち着かせる。
彼とは1年半前に配信アプリで知り合ったのが始まりだった。
お互いがお互いの枠に遊びに行くうちに仲良くなり、連絡先を交換…地元が近い事から会ううちに私も、彼も惹かれ合い、1年前に付き合うようになった。

卓也「ん…んー……おはよう…どうしたの?汗びっしょりじゃん」

朔夜「ううん、少し暑かっただけ…さて、会社行く準備しないと」

卓也「うん、シャワー浴びる?」

朔夜「うん、軽く汗を流したいからね」

卓也「じゃあ朝ごはん用意しておくよ」

朔夜「ありがとう!」

卓也「さて、何作るかな…パン焼いて…ベーコンエッグ、サラダにコンポタ…かな」

少し間を開ける

朔夜「さっぱりしたぁ……いい匂い、お腹すいたぁ」

卓也「朝ごはん出来てるから着替えたら食べよう」

朔夜(N)彼の声、彼の作るご飯、優しい笑み…少し頼りない感はあるけど、私を大切にしてくれる。
彼が居るから私は毎日を乗り越えられてる。

朔夜「はぁ…仕事行きたくないなぁ……っ!えっ!?」

朔夜(N)テレビのノイズのように目の前に広がる光景…そこは何も無い部屋、ベッドのみが置かれている。
その部屋をウロウロする視点…

卓也「朔夜、着替え終わった?朝食冷めちゃうよ?」

朔夜「…はっ!?何、今の……」

卓也「大丈夫?体調悪い?」

朔夜「卓也…ううん、大丈夫!少し立ちくらみしただけ」

卓也「ほんとに?心配だなぁ…体調悪いなら病院行く?」

朔夜「本当に大丈夫よ笑……あぁ~、お腹減ったぁ、朝ごはん食べよ!」

卓也(N)朔夜は満面の笑みで朝食を食べ、仕事に向かった…その後ろ姿を見送った俺は作業用のデスクに座り、声劇のシナリオ作りにを取り掛かろうとした。

卓也「さて、やりま……っ!?」

卓也(N)テレビのノイズみたいな光景がチラつく…この家だ…しかし、赤い…自分の手も、窓の外も全て赤に染まった景色…

卓也「なん…だ……これ」

卓也(N)遠くの方から笑い声が響いてくる。
誰だ…その笑い声を確かめようと振り向こうとした時…

インターホンの音

卓也「はっ!?……今のは……」

少し間を開ける

朔夜「ただいまぁ!この匂いは…オニオンスープだ!」

卓也「おかえりなさい、お仕事お疲れ様だったね」

朔夜「本当に疲れたぁ!聞いてよ、海外から赴任してきたクロムって人がいるんだけど、その人がさぁ…」

卓也「はいはい、ご飯食べる時に聞くから…とりあえず着替えておいで!夕飯のハンバーグ冷めちゃうよ」

朔夜「そうだった!あんな人のことより、オニオンスープとハンバーグ食べなきゃ!」

少し間を開ける

朔夜「美味しかったぁ!ご馳走様でした!」

卓也「美味しそうに食べてたね。良かった、お口に合って」

朔夜「全部美味しかったよ、ありがとう、卓也」

卓也「どういたしまして…風呂入る?」

朔夜「ん~、まだおつまみとワイン残ってるから少しのんびりしたいなぁ、明日休みだし」

卓也「そうだね、今日は夜更かししちゃおうか」

朔夜「うん……あ、ニュース」

卓也(N)朔夜の視線に目を向けると1件の殺人事件のニュースが流れていた。
見出しには『口論の末、殺害か!?彼女が彼氏を殺害』とあった。

朔夜「現場、この近くじゃん…そんな事件あったっけ?」

卓也「いや、聞いたことないけど…パトカーとか最近通ってすらいないし…」

朔夜「だよね…」

朔夜(N)ダメ…思い出しちゃ……ダメ!

朔夜「え?」

卓也(N)やめろ、思い出すな…ダメだ!

卓也「え?」

朔夜(N)またあのノイズみたいな映像が流れる…場所はこの家、手にはワインではなく……包丁

朔夜「いや…」

朔夜(N)私は卓也が大好きだった…だから怖かった…卓也がいなくなることを…この恋愛に終わりが来るかもしれないと考える事が…だから…

卓也「朔夜…ダメだ」

卓也(N)彼女を愛していた…彼女も俺を愛していた。
だから安心していたんだ…この愛に終わりは来ない…と。
だが彼女は怯えていた…この愛に終わりが来るかもしれない、そんな不安に呑み込まれた…そして…1ヶ月前に…

朔夜「ねぇ、この関係…私は終わらせたくないの」

卓也「どうしたの?急に?」

朔夜「私は卓也が大好きなの…離れたくないの…怖い、あなたと離れるのが…」

卓也「大丈夫だよ、離れないから」

朔夜「ううん、あなたは離れる…きっと、私の前から消えちゃうの…だから」

卓也「…っ!?なにを!包丁をしまうんだ!」

朔夜「ずっと私と一緒にいてもらうには…こうするしか…ねぇ、卓也……私の事、愛してる?」

卓也「当たり前だろ!これからもずっと愛してる!だからそんなものしまって、2人でゆっくり寝よう?…な?」

朔夜「うん、ゆっくり寝よう…」

卓也「ふぅ…驚かさないでくれよ、さあベッドに行…ぐっ…がはっ…さ、朔夜」

朔夜「卓也…私の腕の中でゆっくり寝て…ずっとずっと抱きしめててあげるから」

卓也「や、やめろ…朔夜……やめてくれ……やめっ…がっ……さく…や…」

朔夜「これでずっとずっと一緒にいれる…愛してる…卓也」

朔夜「そうだ…私は…卓也を…この手で…いや…いやぁぁぁぁぁ」

卓也「思い出さなければずっとずっと幸せな時間を過ごせたのに…」

朔夜「卓也!たくや!タクヤ!」

朔夜(N)テレビのノイズのような景色が鮮明になる…壁1面柔らかい素材のスポンジで囲まれてる、ベッドしかない部屋…ここは…男に押さえつけられて注射で薬を打たれる……頭がぼーっとする…眠気に私は目をつぶる…

朔夜「あぁ…卓也…ずっと一緒だよ…」

卓也「おかえりなさい、朔夜」

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