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こないだのつまみ #15 かますの焼いたの

ちょっと前のこと。
西荻窪で仕事を終えたのが夕方、暗くなるちょい前。どっかで一杯やっていきたいなとウロウロして、素敵な店構えにひかれたのが『酒蔵千鳥』だった。

縄のれん、ってのがいい。『逢いたかったぜ』なんて古い歌謡曲が脳内に流れ出す。テンション上がりつつくぐってみれば、ちょうど1席だけ空いていた。コの字カウンターに座る誰しもが、なんだかうれしそうな表情だった。別にニコニコしてるわけじゃないんだが、このカウンターで酒と肴を楽しむひとり時間を貴重なものとしていつくしんでいるような。

しかし18時前だというのに、人気だなあ。

八海山を燗でつけてもらい、湯気の上がるおでん鍋から厚揚げとはんぺんをもらった。30代までは全然食指が動かなかった厚揚げが年々恋しくなる。そして理想的な煮上がりの厚揚げで、うれしくなってしまった。はんぺんも上物、澄んだ汁の香りがまたよくて。うん、周囲のみんなが17時台から『酒蔵千鳥』をめがけて来た気持ちが分かってきたぞ。

間違いなさそうだと安心、ならば酢牡蠣も頼もうか。細切りゆずが香る洒落た仕上がりにまた、うれしくなる。冷たい牡蠣を口にした後、燗酒を流し込むのは冬の悦びのひとつだと毎年思う。

そして忘れられないのが、焼きかます。ごろんと太った、いいかますだったなあ……。ふわっとした身に醤油を軽く染ませた大根おろしをのせて口に入れ、じっくり味わう。そして続けて酒をやる。しあわせだった。

先日、自分にとっての最高の酒の肴は焼き魚になりつつあるなんて書いたが(こちら)、今のところかますはベスト3に入る。しかし立派なかますだった。顔まわりの皮や身もほじってアテにして、食べ尽くす。焼き魚の前では人間、もっといやしくあれ。骨に付いた身をしゃぶってもいいのだ。

軽く飲むつもりがずいぶんと長居してしまった。
また訪ねたいなと思いつつ、かなり時間が経ってしまっている。

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