あほ京大生①狸男

私は京都の大学生であるが、なんだかんだで京大生と関わることがけっこう多い。
京大生というのは頭がいいらしい。
でも私が出会ってきた京大生に、「立派な人」にあたる人間は今のところ一人もいない。
みんなあほだった。
けっこう格別にあほだった。
忘れないうちに、ここに何人かのあほエピソードを記録しておこうと思う。

CASE.1 狸男
これは私の友人Kの彼氏が、まだKの友人だったときの話である。
Kは高校の友たちが次々と大人になってゆき、ふと始まる女子のベッドトークについていけないことに大変な焦りを感じていた。
かくして彼女は「今夜こそ処女を捨てるんだ!」と高らかに宣言し、相席居酒屋に行き、ティンダーに登録し、合コンに行き、持前の行動力を遺憾なく発揮して様々な種類の男どもと酒を飲み交わした。だが不思議かな。幾度となく会ってもどうもねんごろになることは叶わず、チャンスすら訪れることが無く、男女が逢瀬を重ねるふかふかのベッドは遥か遠く彼方の存在に思われたのであった。
そんなKが恋をしたらしい。
「今夜こそ処女を捨てるんだ!」と高らかに宣言できるくせに、Kは好きな人のことになるとてんで何も喋らなかった。私も野暮かなと思って特に何も聞かなかった。大阪の東通りで自分を抱いてくれる人を探していたKの病状がかなり快方に向かっているのだなと思いただ安心していた。
このKの話はまた別の機会に書こうと思う。
深夜12時頃、私の雨漏り部屋のインターホンが鳴った。なんだと思ってみるとKがいる。扉を開くとぐでんぐでんになったKが雪崩れ込み、越してきて以来ろくに掃除もしていないキッチンに倒れた。
「え、何してるの」
「あjりghれf」
「え、何?何してたの?」
「rろ、路上飲酒してたあ~うわあん!なんで私を置いていっちゃうの~」
フローリングに這いつくばり泣きながら床に拳を叩きつけるKに少しずつ事情を聞くと、どうやら好きな人を冗談交じりに呼んだら電車でかけつけてくれたらしく、すこし路上飲酒をして解散したらしい。
Kは私のお気に入りのお皿(Francfranc)を灰皿にし、火災報知器の真下で煙草を吸って危うく深夜のボロアパートをサイレンで揺らそうとした。
雨漏り用のバケツの横で泣く泣く煙草を吸うKを見て、「恋とはこんな薄汚く恥ずかしいものだったっけか」と純白な私は首を傾げた。そして灰皿にされたFrancfrancのお皿を取り上げながら、「Kをこんな風にさせる好きな人とは何奴、しかし多分ろくな奴ではないな。」と思った。
時が経ちクリスマスの夜、私はKとコンビニでケーキを一つ買ってアンパンマンチョコを差し、二人でアンパンマンをつついて聖夜の寂しさを紛らわせていた。
「なんで私には彼氏がいないんだろう」
「好きな人とは最近どうなの?」
「…」
「進展なし?」
「…わからん」
「なにがわからんの?」
「わからん、わからん」
「なにがわからんのかもわからんの?」
「ううん!!ちがう!うわー!!」
「落ち着いて!何が分からないの!ほらちゃんと言ってごらん!」
Kはマジックでサンタの顔を描いたマルボロの箱を握りしめて、好きな人とのことを初めてちゃんと語り始めた。
「今度、遊びに行くことになったの」
「え、いいやん、あるやん」
「でもわからんねん」
「だからなにが?」
「…狸を捕まえに行こうって言われたの」
私は不覚にもぽかんと口を開け、「へ」と情けない声を出した。
「狸を捕まえに行こうって言われたの」
思ったより分からんかった。
「わかんないの、本当はクリスマスに会いたかったんだけど向こうが無理で、じゃあクリスマスじゃなくてもって遊びに誘ったの。そしたら狸をつかまえに行こうって。下賀茂神社に狸がいるって噂が京大で流れてるらしくて。だからつかまえに行こうって。おれ虫取り網持ってくわ!てはしゃいでて」
Kはアンパンマンの顔をパリッと割った
「これってデートなんかな」
さ、さあ…
「どうしたらいいと思う?」
「知らんけど、どうやって捕まえるん」
「干し芋とか置いてたらこーへんかな」
「じゃあ干し芋仕掛けて、待ってる間にカフェなどに行こう。狸狩りをサブに持っていったら立派なデートなんじゃない」
「天才か」
「そもそも狸なんかつかまえてどうするん」
「知らん」
「狸鍋にして食おうって魂胆か」
「野良狸鍋まずそう」
「下賀茂神社の狸なら神聖な味がするでしょう」
「てかなんか神さまの使いとかじゃないよな?大丈夫かな?」
「知らん」

そうして二人は年末、下賀茂神社に狸を捕まえに行った。
狸がいた形跡を見つけてはしゃぎ、干し芋を仕掛け、作戦通り狸が罠にかかるまで近くのカフェでぬくぬくしていたらしい。
狸は結局現れなかった。そもそも狸は夜行性である。
しかしあとで聞いた話だがこの狸狩りを機に男はKが気になり始め、数か月後二人は交際を始めることになった。
狸から始まる恋愛もあるんだなあ。大学生の恋愛ってこんなかんじかあ。
そして私はのちにその男のスマホにぶら下がったもちぐまんのストラップを見て、全てを察した。

そしてその男Nは、私の幼馴染の彼氏の友達であった。ひょんなことから私は付き合いたてほやほやのカップルが寝るベッドの下で一夜明かすという地獄を経験することになるのだが、今回はこれくらいにしておく。

____

京大生Nのあほさより友人Kのあほさが際立つ話になってしまった。
ちなみに私や友人Kは京都のとある芸大に通う芸大生である。
芸大は芸大で、明らかに変なところである。
普通の大学生の恋愛を知らずに、我々は社会へ出るんだろうか。
不安だ。

不安になってきたので寝る。




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