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檜図屏風

今朝、起きてから一人で朝食をとりながら、トーハクの「今週の展示替え」のWebページを開きました。クセみたいなもので、今日、東京国立博物館(トーハク)へ行こうなんて考えていなかったんです。それでも開いてみたら、狩野永徳(伝…ですけどね)の《檜図屏風》の展示が始まっていました。

おっ、と思いましたし見たいとも思いましたが、今すぐに見たいというほどでもありませんでした。この絵を前にして感動している自分も想像できませんからね。でも朝食はとり続けていたので、暇つぶしという感じで「檜図屏風 ブログ」でググったんです。どこかのメディアの記事ではなく、どなたか個人の人が見たうえでの感想が知りたかったからです。「檜の躍動感とダイナミックさが……」とか「蛇がのたうち回るような生命力あふれる表現……」といった、どこから借りてきたような文章の記事を求めてはいませんでしたので。そんなふうに思いながら、結局、ググってみて読んだ記事は、どこかのメディアの記事でした。これがとても興味深かったんです。

記事は、黒田泰三さんという元・出光美術館の学芸員だったという、ちょっと偉い感じのオッサンの講演内容でした。しかも《檜図屏風》にはほとんど触れていません(まったく触れていないかもです)。

じゃあ何が面白かったのかと言えば、1つは、ここで紹介されている、過去に九州国立博物館で開催された展示会のタイトル……『大航海時代の日本美術「新 桃山展」』……です。

大航海時代の日本美術「新 桃山展」のチラシ

その2パターンのチラシの1つには、昨日からトーハクで展示されている狩野永徳《檜図屏風》……もう1パターンには、黒田さんの話の主題である長谷川等伯《松林図屏風》がドドーン! と使われています。(どちらもトーハク所蔵)

大航海時代の日本美術「新 桃山展」のチラシ

これを見て、脳内でビビビッとなりました。同展で「大航海時代」を、どんなふうに紹介していたかは知りませんが、同時代を生きた2人が活躍したのは、たしかに西洋では大航海時代……まぁかっこよく濁していますが、西洋による大侵略時代だったわけです。織田信長が黒人の弥助を身近においていたことは知られていますが、「南蛮〜〜」と、いろんなものが日本にも入ってきた時代です。なのに……同時代に大人気アーティストだった狩野永徳の作品にも長谷川等伯の作品にも、南蛮っぽいテイストのかけらも感じられません。でも2人だって南蛮テイストに触れていたはずなんですよね。“絵”という直截的なものではなかったとしても、南蛮の人や服や器やカーペットや本などで。

で、その同時代の作品ばかりではありませんが、現在……今日のトーハクには、先日noteした通り、そうした「南蛮テイスト」の絵画作品が集められています。

だからなのか……特別展以外には展示されることがめったにない、西洋でいうところの大航海時代に描かれた、《檜図屏風》が国宝室に展示されているのは!……と、ビビビッと来たわけです。

ということで、毎年の年始に展示される《松林図屏風》はありませんが、《檜図屏風》を見たくてたまらなくなりました。食後に準備をして、9:40にトーハク着……『神護寺展』も終わったこともあり、朝一番は比較的に空いていました。本館2階の国宝室へ直行して、しばし鑑賞……。

ん……? ん……? 違うとは思うんですけど……この派手っ派手な雰囲気って、山水画を西洋風の筆致で描いた……ものではないですよね? なんて思いつつ、10分も経つと小学生のガキンチョたちと外国人勢がぞろぞろと入ってきたので展示室を後にして、9:55にはトーハクを出ました。

■黒田さんの《松林図屏風》評

冒頭で挙げた記事ですが、前述のとおり、トーハクへ《檜図屏風》を見に行く“トリガー”になりました。でもそれだけではありません。興味深く読ませていただいたのは、黒田泰三さんによる《松林図屏風》をじっくりと見たうえでの感想……評価です。

黒田さんはアメリカで開催される長谷川等伯展に関わり、《松林図屏風》と旅をする機会がありました。その時に感じたのが以下のようなことだったそうです。

ずっと屏風の前で対峙していると、この画は遠くから見ると確かに静かな画なのですが、近くで見ると激しい筆致で描かれていることに改めて衝撃を受けました。それまで、自分の野望を全て叶えた等伯が、心穏やかな境地にいたって描いたというのが通説だったのですが、この激しさはそんなもんじゃないぞ、と直観したんです

ARTNEより引用

遠くから見ると、とても穏やかな印象なのに、近くへ寄って見ると、激しさしかない筆致……《松林図屏風》を近くで見たら、誰でも思うことでしょう。そこから、それを描いた長谷川等伯の心情まで類推することが、新鮮だなぁと感じました。美術って、そういう楽しみ方もあるのかと……おそらくあたりまえのことなんでしょうけど、改めて……。

あと、複製や模造って、とっても大事なものだと思いました。わたしが、《松林図屏風》の激しさに気がついた……というよりもしっかりと認識できたのは、キャノン製の実物大の複製版だったからです。ガラス越しの本物を見ただけでは、もしかすると、長谷川等伯の荒々しい筆致を“体感”できずにいたかもしれませんから。

ということで、また近々《檜図屏風》をじっくりと見に行きたいと思います。来年の年始に展示される《松林図屏風》も、見に行くのが楽しみになりました。

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