『重要文化財の秘密』で、青木繁の《わだつみのいろこの宮》と《運命》を観て感じたこと
今年の1月に、布良という小さな港町へ行ってきました。その町は、千葉県……房総半島の南端にあるのですが、何で有名かと言えば、その一つが、のちに重要文化財に指定される《海の幸》が、青木繁によって描かれた場所だということです。
これまで何度かnoteで触れてきたとおり、東京国立近代美術館では現在、特別展『重要文化財の秘密』が開催されています。残念ながら重文指定されている『海の幸』は出展されないのですが……その代わりに、同氏の《わだつみのいろこの宮》という作品が通期で観られます。
上の写真は、青木繁が『海の幸』を描いた部屋です。当時のまま残っていて、天井近くに掛けられている魚の図鑑のような絵も、当時からこの部屋に掛けられていたものだそうです。
現在は小さな博物館となっている家の、現当主がおっしゃっていたのは、部屋の奥にある縦長の窓から、青木繁は外を眺めながら《わだつみのいろこの宮》の構想を思いついたのではないかということでした。
青木繁本人が語った話ではないようなので、実際にどうだったかは分かりません。
ただ……そういう話を聞いた数か月後に、その《わだつみのいろこの宮》を観られたのは、うれしいことでした。
青木繁の代表作……《海の幸》と《わだつみのいろこの宮》は、いずれも重要文化財に指定されています。共通点は、それだけではなく、いずれも石橋財団アーティゾン美術館の所蔵です。同館は、ブリヂストンの石橋正二郎さんが集めたコレクションが基となっています。なぜ石橋正二郎さんが、日本の近代美術……石橋正二郎さんにとっては、同時代に描かれた美術作品……をコレクションしたかと言えば、青木繁の作品をしっかりと残すためだったんですよね。
まぁ少し語弊があるかもしれませんが……アーティゾン美術館のホームページには、以下のように記されています。
さらに同ホームページには、石橋正二郎さんがブリヂストン美術館(現:アーティゾン美術館)を開設した、いきさつにも触れています。
さらにですね……特別展『重要文化財の秘密』が開催されている東京国立近代美術館の、現在の建物はですね……その石橋正二郎さんが寄贈してくれたものだそうです。
先日、同館の展示を観終わって帰ろうとした時に、玄関近くの壁には、下のような文言が記されていました。
昭和44年5月7日……
《海の幸》が重要文化財に指定されたのが昭和42年のこと。そして《わだつみのいろこの宮》が指定されるのは、この東京国立近代美術館の建物が寄贈された昭和44年のことです。
現在、青木繁のもう一作を、東京国立近代美術館の平常展(MoMAコレクション)で観覧できます。青木繁が千葉県の布良で《海の幸》を描いた、その同じ年、1904年(明治37年)に描かれた《運命》です。
3人の女性なのか人魚なのかが、海を泳ぎながら透明な水泡のような珠を持ち上げています。
描き方はまったく異なりますが、その世界観は《わだつみのいろこの宮》を思い起こさせます。
青木繁が描いた絵の良さは、正直、わたしにはよく分かりません。ただ、その良さが分かる時が、近づいたんじゃないかな……と、今回の東京国立近代美術館の特別展『重要文化財の秘密』とMoMAコレクションを観て、思いました。
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