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都市部の“お寺”の新しいカタチ〜大阪ミナミの、ホテルと一体化した三津寺

ニュースを見ていたら、『寺院と一体化した“大阪ミナミ”の「カンデオホテルズ大阪心斎橋」』が2023年11月26日に開業予定だと言います。カンデオホテルズと言えば、わたしが新型〇〇◯に罹った時に、1週間ほど滞在したビジネスホテルです(大阪心斎橋ではありません)。

関東の生まれ育ちということもあり、三津寺みつてらのことは全く知らなかったのですが、正式には「七宝山 大福院 三津寺みつてら」で、心斎橋駅となんば駅の中間地点にあり、”大阪ミナミの観音さん”として地元に愛されるとプレスリリースには記されています。大阪のことはよく知りませんが、そうとうの繁華街というのはイメージできます。

三津寺みつてら(おそらく本堂)Wikipediaより

三津寺みつてらは西暦744年を開創とする真言宗寺院だそうです。本尊は、十一面観世音菩薩で、その他にも平安から江戸時代の仏像を数多くお祀りしています。

現在の本堂は、江戸時代後期の文化5年、西暦1808年の建立こんりゅう。大阪では珍しい第二次世界大戦の戦果を免れた江戸期の木造建築だとしています。堂内の天井には100を超える色とりどりの花卉(かき)図が描かれ、漆や金箔・色絵で彩られた柱や彫刻など、豪華絢爛な江戸美術の荘厳が残っているそうです。

江戸時代の雰囲気をそのまま残す絢爛豪華な本堂内

そして、この三津寺みつてらとホテルが“一体化”するのだと言います。どんなものなのか、プレスリリースを読んでみました。

外観イメージを見ると、普通のホテル……というかビジネスホテルです

読む前の想像した範囲では、東京駅前の丸の内ビルディングや新丸の内ビルディングのように、本堂かなにかの建物の“一部”を活かした設計なのかな……なんて思っていました。

ところがどっこい! 「カンデオホテルズ×三津寺」の場合は、そうしたものとは異なりました。なんと、本堂を目いっぱいに残して、ホテルの建物に内包してしまっているんです。びっくり!

完成イメージ図です

上の図が、建物の路面から見たイメージです。数本のビルの柱がありますが、外からでも本堂がしっかりと見られますね。

プレスリリースには「2度に渡る三津寺本堂の曳家ひきや工事」を行ったと言います。工事前にはもっと奥まった場所に位置していた本堂を、現在の位置に移すために曳家工事を行ったのです。

曳家ひきや工事とは、まさに“家を曳く”工事です。まず建物全体をジャッキで持ち上げて、建物の下にレールを敷きます。そのレールに建物を置いて、ズル……ズルズル……と引っ張って(曳いて)いくわけです。最近の(歴史好きの間で)有名な曳家工事の事例だと、青森県の弘前城の天守がありますね。このときは「曳家ひきや工事」ではなく「曳屋」と言っています(おそらく読み方は同じ)。

写真の右奥から左へ移動させています
次は左奥から左手前に移しました

曳家工事を行ない、そのうえでホテルのビルを建てていくということです。すごい工事ですが、設計と施工は大成建設だそうです。着工は2021年の1月で、竣工は2023年9月とあります。

お寺って、昔からの建物のままの寺は、門があって、なかなか入りづらいというか、興味や用事がなければ入らないものですよね。勝手に入って良いか分からない寺もあるし、実際に「入るな」的な雰囲気のところもあります。京都や鎌倉などでは、境内に入るのにはお金が必要です。

一方で、うちの近所にもたくさんありますが、都市部の寺の中には、ビルに建て替えたところも多いです。構造は分かりませんが、一階にお堂の機能があって、上階は社務所または住職一家の住居になっている……といった感じでしょうか。そうした寺には、檀家でなければ行かないし入れません。

まぁ寺の形も時代に即して変わっていって良いとは思いますが、今回のカンデオホテルズと三津寺は、とても良いカタチに収まったような気がします。

歴史あるお堂をほぼ元のままで残しただけでなく、近代建築で囲ってしまうことで、お堂の劣化をそうとう防げるんじゃないでしょうか。大事なお堂などを護るために、屋根の上に屋根を増設した寺社が昔からありますが、今回は、鉄筋コンクリートで守ってしまおうという試み……と言えなくもありません。

また、なによりお参りする人が増えるんじゃないかなと、期待してしまいます。なぜ期待するのかといえば、寺って、昔は地域コミュニティの中心的な役割を果たしてきたわけじゃないですか。大人が集まる場所だったし、子供だって寺社の境内で普通に遊んでいたはず……違うのか? 江戸期には寺子屋があって、明治期には小学校だったという寺も少なくありません。それが今は、お寺って、有名な寺社でなければ一般的には近寄りません。過去にnoteで記したこともある某寺の、新型〇〇〇禍で誰もいない境内(観光バス用のだだっ広い駐車場)で、子供と遊んでいたら追い出されました。きっと「そりゃあ境内で遊んだらダメだろ」って思う人も多いでしょうし、境内で遊んじゃダメっていうのが、今の“常識”なんだろうなと理解しています。

そんな時代に、こうやって市民がワイワイと行き交う場所に、寺が在るっていうのは、とても良いことだなと思うんです。大げさになりますが、この三津寺が、地域の中でどういう存在になっていくのか、楽しみだなと。

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