ショートショート ある選択

あの時、別の選択をしていたら、
僕の人生は違ったものになった
だろうか。

今、振り返ると、
ここにいることがとても
不思議に思えてならない。

では、ほかの選択は在りえたの
だろうか。

今ここに居ることは、
何かの約束なのだろうか。

ある日の午後。

僕は自宅のソファーでくつろぐ。
そばには、まだ小さな僕の子ども。
そして、とても素直な妻。

小さいながらも、僕は家を建て、
3人家族の毎日にとても満足していた。

ソファーでくつろぎながら、
僕はなんとなく考える。

あのとき、あの選択を、
僕がしていたら、
あの後は、どうなっていたことだろう。

ぼんやりしていると、
なんとなく見ていたテレビから
突然、臨時ニュースが流れてきた。

「臨時ニュースです。
A国が我が国にミサイルを発射
しました。到達まで10分程度です。
身を守る行動をしてください。
臨時ニュースです。・・・」

同じ内容を何度も繰り返す。

僕は突然の内容に理解が追いつかず、
妻を見ると、怯えた目で僕を見ていた。
僕の子はその様子に泣きだす。

この家を建てたときに、
念の為つくった地下室に3人で避難した。
そんなもので間に合うのかわからないが。

そして、激しい衝撃とともに、
辺りが光につつまれた。

僕は夜の街にいた。
手には拳銃を握っている。

そうだ、僕はこれから国のために、
機密情報を盗むのだ。

そう、僕はスパイ。
一流とはいえないが、まあまあ、
今まで何とか役に立ってきた。

すでに頭の中には、
建物の地図や、敵の配置は入っている。
今は、仲間が来るのを待っているのだ。

僕の優秀な仲間。
女性だけど、僕より経験があり、
いつも頼ってしまう。

彼女もそれは嫌ではないらしい。
この任務が終わったら、
結婚を申し込むつもりでいた。

いつまで経っても彼女が来ない。
僕は何かが起きたことを知る。
ひとりでも任務は遂行するのだ。

建物に忍び入り、
何人かの見張りを片づけて、
目的の場所にあと少しというところで、
僕は捕まってしまう。

スパイは即処刑だ。
頭に銃口を押し当てられて、
観念した僕の目の前に、
彼女の姿があった。

その顔は、
任務中によく見た非情な顔だった。
僕は利用されたのだ。

僕はなんとなく考える。

あのとき、あの選択を、
僕がしていたら、
あの後は、どうなっていたことだろう。

頭を激しい衝撃が襲い、まっ白になった。

僕は公園のベンチでひとり寝ている。
居場所がないのだ。

世界は不況に襲われ、
僕は仕事がなくなり、

ひとりで公園に寝泊まりする
しかなかった。

周りにも同じような人がいるけど、
自分のことで手一杯だ。

僕は独身で身寄りがないから、
誰にも助けを求められない。

何日かこの生活を続けていくうちに、
何も考えられなくなって、
配給される食事を食べて、
ベンチで寝ている日々だった。

寒い冬を前に僕は途方にくれていた。

そんな僕に声をかけてくれる
女性がいた。
ボランティアの人らしい。

毎日一言だけだけど、
その一言がとてもありがたくて、
身に染みた。

「困ったら、
なんでも言ってくださいね。」

僕はいつも声をかけてくれるその人に、
大丈夫じゃないのに、
大丈夫ですとしかいえなくて、

その人も、いつでもいいですよ、
といって違う場所で声をかけている。

ただそれだけのことが、
僕の支えになっていた。

ある日、
いつものようにベンチで寝ていると、
若い人たち5人くらいで、
僕を囲んできた。

なにか言っているようだが、
僕の頭には届かない。

僕はなんとなく考える。

あのとき、あの選択を、
僕がしていたら、
あの後は、どうなっていたことだろう。

僕は突然、身体に強い衝撃を受け、
意識が遠くなった。

僕は広い海の真ん中にいる。
ここは無人島。

なぜこんなことになったのか。
なぜここにいるのか。
僕には見当もつかない。

膝を抱えて、海を見ながら、
ボンヤリと考える。

ひとりの人間は、
短い人生をリセットしながら、

まるで、
ゲームをやり直しているように、
人生をやり直しているのだろうか。

心がプレイヤーで、
身体は機体だとしたら、

僕はあと何機、
保有しているのだろう。

何かが僕を導いていて、
僕はその場所に向かっている。

その場所につくまで、
僕は何度でも生まれ変わって、

その末に、
いったい何が待っているかも、
わからない。

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