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拝啓、いつもパンツ一丁だった父上様

私の父はほとんどいつもパンツ一丁だった

くたびれた白のブリーフである
彼のブリーフは破れるまで交換されることがないため、尻の部分が薄くなり、いつもややスケていた

とんだハレンチおじさんである

幸か不幸か、父はサラリーマンではなく自営業だった
そのため、家はおろか仕事場ですら、何を着ようと父に注意できる者は誰も居なかった
家族の苦言に耳を傾けるような人でもなかった
(そのような殊勝な面がある人間はパンツ一丁で人前に出ることはまずないだろう)

仕事場ではスケスケブリーフを身に纏った父が法律だったのだ
もう誰も彼を止められない

というわけで夏になると、父はブリーフ一丁で仕事場を徘徊していた

不思議なことに、夏場になるとブリーフおじさんが徘徊するという悪条件にも関わらず、父の経営する店はそれなりに繁盛していた
少なくとも生活に困った覚えはない

当然ブリーフ姿でうろつく店主に対し苦言を呈する客も居たが、クレームは主に父ではなく母につけられた

「ブリーフ一丁で人前に出るおっさんにまともに話が通じる筈がない」という判断がくだされたのか、単純に常軌を逸した姿のおっさんに話しかけるのが嫌だったのかはわからないが、ご明察の通り父は話の通じない変人であり、ブリーフ姿での徘徊は敢行された

それでも客足が途絶えることはなかった

今父は生きていたら70近い歳である

今でも夏場はパンツ一丁なのだろうか
ブリーフは今年もスケけいるのだろうか
誰が父のパンツを洗っているのだろうか

疑問は尽きないが、父に関する私の専らの関心事は相続遺産の有無である

拝啓、父上 

金をくれ

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