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晩夏→晩秋

8月31日
驚くべきことだが、今日で8月が終わるらしい。学生は憂鬱でたまらないだろう。
真夜中、外へ出ると涼しい風が吹いており、南の空には強い白光を放つ満月が浮かんでいた。
8月最後の夜に人知れず、こんな風と月の光が染み込むことで、稲穂は肥え、その色を薄めていくのだろうか。

9月20日
キツネは人を化かす。
タヌキも人を化かす。
ムジナもイタチも人を化かす。
そして人も人を化かす。人が最も人を化かす。
イヌみたいに純粋で、ネコみたいにそのままを認められたかった。古い神社に宝物の鏡。物の怪を映す神秘の鏡だ。そこに映った僕の姿は、醜いムジナだった。丑三つ時、影は長く伸びる。

9月28日
部屋に吹いた風が、風呂上がりの火照りを冷ました。煙と土と微かな堆肥の匂いを含んだ風は、秋の訪れを思わせた。
腐敗死体か炭泥のようだった今年の夏も、やがてゆっくりと冷えていき、静かに死んでいくのだろう。

10月15日
面白い夢を見た。若い頃の豊臣秀吉の夢である。
夢の中で秀吉は、寧々との祝言を挙げ、酒の酔いと共に愛を表していた。
また自らの考案した凧の飛行船に、信長と乗っていた。巨大な桶に乗り、前方に張った2本の大きな凧の手綱を持つ。凧が帆船の要領で風を受け、空を飛んでいた。
信長も若く、秀吉も若かった。時代のうねりのようにも思える強い風の中で、2人は笑い合っていた。

*

缶ビール2本を飲み、3本目の開く音がしてから残りは半分ほど。文章を世の海に流すのは大体こんな夜である。
めちゃくちゃなもの、だがまあいいや、投稿しちまえ。
そんな夜ばかりだ。
酒は優しい調教師に似ている。手をそっと添えて、恥部を世に晒す。恥の多い人生を送って来ました、なんて太宰治気取りはもう止して、月の見えるうちに寝てしまおう。

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