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クラウドファンディングを利用した建築プロジェクトにおけるリターン設定の調査

今回は建築に関わるクラウドファンディングプロジェクトが、どのようなリターンを設定しているのかを調査した。

建築以外のプロジェクトにも共通して応用可能なリターンの設定や、建築ならではのもの、また今後の建築設計業務の形態の在り方を揺るがす可能性があるものまで、様々な発見があった。
具体的に以下の3つのプロジェクトに着目し、リターンの現状と今後の在り方についての考察を記す。


以上の事例から、リターンの種類を以下の3つに分類する
(1)参加者としてのしるし:サンクスメール、Webサイトや書籍への名前の記載など
(2)コンテンツ利用の権利 ex)宿泊、観光案内、食事など
(3)建築設計に関するアドバイス 相談、紹介など
(4)建物の情報 図面、工程表、3Dデータ、模型など
これらのうち、(3),(4)は建築ならではのものであり、作家性を担保する最も重要な要素であるとも言え、他のリターンと比べ高額に設定されている。

これは言い換えれば、完成した建築物ではなく、設計手法や履歴を商品として販売するビジネスが成立していると言えるだろう。
このことと関連して、書籍「設計の設計 ー<建築:空間・情報>制作の方法」※1の冒頭にて藤村龍至氏が指摘している以下の内容を紹介する。

『BIMデータがどこかに残るような社会であれば、たとえば改修などもやり易くなると思いますね。 ー中略ー リノベーションしたい時に、その建物の設計データが役所にあり、それに誰もが簡単にアクセスできるようなかたちになっているのが理想です。ストック型の社会では、すでにある資産を有効に利用する事に意味があるのですが、設計データが残っておらず、確認申請が降りたかどうかがわからない等の理由によって、壊さざるを得ないケースもあります。』

※1 出典:柄沢祐輔、田中浩也、ドミニク・チェン、藤村龍至、松川昌平『設計の設計』INAX出版,2011,p.14-15

以上の事から、データを共有する事で得られるメリットは多いと言える。
また、都市のデータストック提供サービスを国が運営している例として、シンガポールの「バーチャル・シンガポール」などがある。
この運営に参加しているのは、シンガポールの政府機関である国立研究財団(NRF)、シンガポール土地管理局(SLA)、情報通信開発庁(IDA)。またソフトウェア開発の仏Dassault Systemes(ダッソー・システムズ)が民間企業として唯一参加している。

このようなデータストックは、持続的な都市を形成するために大いに貢献し得るため、国や行政が管理するかたちには賛同できるが、設計者の利益に繋がらない仕組みであってはなら無いと私は考える。そのため、クラウドファンディングなどを通してマネタイズされる仕組みが構築されると良いのではないだろうか。

さて、以上の事を踏まえると、これからのクラウドファンディング建築プロジェクトのリターンとして設定し得るものとは何だろうか。
現時点で私が想定できるものを以下に記す。

提案:リターンとして提供可能なもの
 ・図面、3Dデータの提供
 ・設計の相談(時間制)
 ・イメージパース作成
 ・事例調査
 ・見積もり業務
 ・設計+管理業務
 ・ワークショップコーディネート
 など

これらをクラウドファンディングのリターンとして提供することで、これまで設計者に必要とされてきた総合的なスキルを分解し、個別のスキルをそれぞれ独立した業務として収益と結びつける仕組みをつくることができるのではないだろうか。

今後はこの提案をより具体的にシミュレーションし、時間や金額の設定まで考えていきたい。


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