ギャングランド / チャック・ホーガン
ドン・ウィンズロウが引退した。
彼はわたしを犯罪小説の世界へと導いてくれた作家の一人だった。あっという間にわたしはウィンズロウロスに陥った。
彼の作品の中でも、「犬の力」から始まる麻薬戦争三部作が特に好きだった。史実を元にしつつも時に大きく史実から飛躍し、読者を釘付けにする筆力に圧倒された。
ウィンズロウの最後の作品になった「終の市」を読み終え、これから次に何を読もうかとわたしは考えた。本屋の翻訳小説のコーナーをうろつき、いい作品はないかと探した。その時わたしの目をひいたのが、この「ギャングランド」だった。
タイトルからしてギャングものだったので、わたしはすぐにこの作品を手に取った。裏表紙を見てあらすじを確認すると、史実を元にしたギャングものの作品のようだ。今の自分が読むのにこれほど適した作品はないように思えた。
作品は主に70年代のシカゴを舞台にしている。そのシカゴを支配していた犯罪組織、シカゴ・アウトフィット……そのボスだったサム・ジアンカーナや、相談役のトニー・アッカルドといった実在の"大物"たちが出てくる。
否が応でも期待が高まるが…
初めに言ってしまうと、この作品がその期待を超えてくれたとは正直言い難い…
つまらない訳ではない。水準は満たしていると思う。それどころかレビューを見ると評価が高めなので、面白い部類に入るのだろう。これはひとえに、読む前に期待しすぎた自分の責任である。
というのも、サム・ジアンカーナの名前をみた瞬間に、エルロイのアメリカン・タブロイドのことを連想してしまったのだ。あの重厚かつ壮大な傑作をうっかり連想してしまい、この作品にもそういった要素をうっかり期待してしまった。そうするべきではなかった。この作品がそれなりに分厚いのも、そういった要素を求めてしまった原因になったと思う。
この作品に重厚な感触はない。読み心地はどちらかと言うと軽めである。実在の大物が出てくるとはいえ、トニー・アッカルド意外に存在感のある大物はおらず、メインで活躍するのはチンピラと警察だからだろう。キャラクターの味付けが全体的にかなり薄いせいもあるかもしれない。
ストーリーも泥棒どもの粛清を中心に回り続け、
そこからスケールが大きくなったりとかそういうことは起きない。政治が絡んでくるといったこともない。
まあ当たり前である。裏表紙のあらすじを見ればいい。どこにもそんなことは書かれていない。書かれていないことが起きることはない。その保証はない。当然の帰結と言える。
教訓。
読書に限らず、期待は禁物である。
わたしのウィンズロウロスが癒えることは微塵もないのであった。
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